シンプルはもうつまらない?「ミニマル飽きた。個性でないし」帰ってきたハデな“マキシマリズム”

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ミニマリスト(最低限しか持たない暮らし)に余白多めのデザイン、シンプルなファッション。総じて(あえて)最低限しか無いこと・控えめなことを美、あるいは豊かであるとする「ミニマリズム(minimalism)」な風潮が幅をきかしてしばらく経つ。すずしい佇まいで洗練の代名詞として君臨していたが。こんな主張が増えている—「ミニマリズムは終わりを告げた。これからはマキシマリズム(maximalism)だ」。

そう、なんでも最近、“ないことが豊か”とは真逆の“溢れることが豊か”とされる「マキシマリズム」なるものが人知れず台頭している

引き算な「ミニマリズム」は終わり?足し算な「マキシマリズム」

 2015年には、新語・流行語大賞に「ミニマリスト(最小限のモノで暮らす人)」がノミネート。数年前にファッショントレンドだったノームコア*に、シンプルなデザインの権化ともいえる「MUJI(無印良品)」。海外のライフスタイルブランドがこぞって採用するのも、基調カラーはベージュなどのヌーディーカラーかミレニアルピンクなどのパステルカラーで、余白たっぷりにシンプルなフォントをあしらう「ミニマルデザイン」。モノや情報が溢れる時代にあえてシンプルにするという精神性もクールとされ、近年、ファッションをはじめ家具やパッケージなどのプロダクトデザイン、それから生活スタイルにいたるまで、どこもかしこも「ミニマリズム」に溢れるのは皆さんの知るところだ。

*normal(ノーマル) + hardcore(ハードコア)の造語で“究極の普通”や“究極のシンプル”の意。当時のファッション傾向やライフスタイルの潮流を示す表現として2013年10月、ニューヨークのトレンド予測グループ「K-HOLE」が作りだした。

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スッキリキュート。Photo by Galina N

 ただ、何事にもマンネリはある。無駄なモノを削ぎ落としていく引き算方式な「ミニマリズム」とは真逆のアプローチ、“衝突”と表現され、色も質感もごちゃ混ぜ、足せるだけ足す、足し算な考え方「マキシマリズム」が各界で頭角を現しはじめたのも、左を見ても右を見てもナナメ上を見ても似たようなシンプル具合のミニマリズムに「飽きてきた」から。こうした時代の傾向にいち速く、応じる(というのかつくり出す)のがファッション業界や、デザイン業界だ。「マキシマリズム」の席巻が徐々に見えはじめている。

「マキシマリズムやっぱりきてるよ!」とメディアが改めて申し立てたのは、2017年のミラノデザインウィーク(世界最大規模の国際家具見本市)。前年とうってかわり、2、30年代のアールデコや80年代のポストモダンなデザインを彷彿とさせるような、装飾的で色とりどりな“マキシマリズム”的デザインがひしめいた。ファッション業界ではグッチの2018春夏コレクションだろう。グラムロック時代のギラギラド派手なエルトン・ジョンルックを発表。

 家具にハイファッションね、と、ここまでだけだと遠い話に聞こえるかもしれない。が、そのマキシマリズムは非常に身近なところにも浸透しはじめている。インスタグラムだ。
「カラフルでごちゃごちゃ」「ギラギラグリッター」「キラキラスパークル」の加工が目立って増えてきていることに、お気づきの人も多いだろう。セレブ女子の間でいまもっとも人気の加工アプリは「KIRA KIRA(キラキラ)」、爪でもメイクでもスイーツでも木漏れ日でもなんでも余計にキラキラさせて見せるもの。Less is more(少なきはより豊か)—本当に必要なものだけを持ったときにそれ、そしてそれを持つ人は真価を発揮する—がミニマリズムのモットーとすると、対してマキシマリズムではMore is, er more(あればあるだけ良し)といわれる。

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Photo by Sharon McCutcheon

 なぜマキシマリズムなインスタポストがフィードを賑わせているかというと、すっきりキレイめ加工のミニマリズム的なポストにも「飽きてきた」からである。均質化したどこでも同じミニマルなポストでは、何事もカスタマイズしたい世代では特に「個性を出した自己表現するには足りなくなった」というところだろう。だって、どこを見てもおんなじポストなんてつまらないじゃん? と。また、昨今のメイクアップがどんどん過激化している(眉毛をうねうねにしたり緑や青のリップが人気だったり)のもマキシマリズムであるという声から考えると、現代、民間レベルでじわじわと浸透しつつあるミニマルと対極のマキシマリズムとは、消費行動や所有においてではなく「表現においての足し算」がしっくりくるだろう。家具も豪奢なものを求めているというよりは、たとえば白いシンプルな皿よりも薔薇やチューリップがふんだんに施されているものがいいなど「見ていて個性的であるもの」で、ビジュアルにオリジナリティやオーセンティックさがあるか、というのが重要なポイントのようだ。

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Photo by Pana Vasquez

“ミニマルにマキシマルちょい乗せ”のバランス感覚

 マキシマリズムをいち早く取り入れる層(ミレニアル世代)の彼らは、ここでも持ち前の「バランス感覚」を発揮する。極端にどちらかには振り切れないがいいものは採用する。要は、いいとこ取りだ。
 たとえば、ミレニアルズをターゲットにするいまっぽいデザイン(パステルカラーや、ヌーディーカラーの背景色にシンプルなフォント)のライフスタイル系スタートアップのリーダー格、グロシエー(Glossier)。メインヴィジュアルやプロダクトは従来同様、クリーンでシンプルかつモダンなフラットなデザイン(ミニマル)を採用するが、付属のステッカー(プロダクトをカスタマイズできる)でそれぞれの「カスタマイズ(自己表現)」を可能にしている。ちなみにステッカーはにこちゃんマークやさくらんぼなどにぎやかなテイストだ。また、インスタフィード上での表現もスパークルやグリッターを使用し、ごちゃっとした表現も取り入れたマキシマリズム仕様。

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Photo by Charisse Kenion

 ただし、これらスタートアップの多くは実店舗を保有せずECのみで運営されており、混み合ったマキシマリズムなデザインはスマホ画面では適さないこともあり、サイト上では大幅なシフトチェンジは見せない。が、プロダクトやSNSにおいていち早くマキシマリズムに片足を突っ込んでいる。ミニマルになんとなく飽きてきた層からすると「あえてごちゃっと」が今度はクールに映る、のか?

あれ、そういえばオバマとトランプも…

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 デザインやライフスタイルにおける「ミニマリズム」が大衆向けに登場した当時、多くの人にとって、それは新鮮なビジュアルや価値観をもたらしたように、いま「飽きた」人々にとって今度その役割を担いはじめたのが、マキシマリズムのようだ。かのお騒がせ大統領トランプの当選自体がこの「マキシマリズム」のルネサンスを象徴しているという見解も興味深い。いまでこそ一国の君お主となったトランプだが、彼は元々“不動産王”として、贅を尽くした豪華で装飾的な高級不動産事業を展開。「余計な選択肢を減らすため、ブルーもしくはグレーのスーツしか着なかった」なんて逸話もある前米国大統領のオバマさんが“ミニマリスト”であれば、トランプさんはまさに“マキシマリスト”と言え、妙に説得力がある。

 先にあげたグッチは、昨夏の売上高が43.4パーセント増という驚異的な数字を残しただけでなく、その売り上げの実に半分以上が数年前には“欲しがらない”といわれたはずのミレニアルズ世代だという。ミニマリズムからマキシマリズムへ刻々と変化する社会の潮流に、今後欲しがらない世代はどう変化していくのか。
 どれだけデザインやビジュアルの好みがマキシマリズムに寄ろうと彼らを取り巻く経済状況や景気が変わらなければ、消費行動まで「もっと、もっと」と大胆な数歩を踏み出すわけではないだろう。だが、自己表現においてはすでに“足し算”が新鮮な価値観になりつつあり、この世代が求める「自分(たち)っぽさ」をくれるものと見なされれば、「自己表現できる(マキシマリズムな)ものだから買いたい」という欲求はつけ加えられるかもしれない。消費行動は本当に欲しいものだけ買う慎重派(ミニマル)だが、表現は自分らしさを足し算(マキシマル)、という現代に合う独自のバランス感覚を見せながら変わっていくか。もっともその具合次第では、ミレニアルズのイメージもまたころっと変わりかねないが。

Eye catch photo by Lyndsey Marie
Text by Shimpei Nakagawa edited by HEAPS
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine

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