3億円を集めた「今日のコーデ☆自撮りインスタポスト」“大学生の遊び”はいかにして社会運動になったのか?

Pocket

「ねぇ、なんで最近、毎日ドレスアップして、インスタに投稿しているの?」
「人身売買の撲滅に貢献するためだよ」

おしゃれして自撮りをすることで、人身売買と闘うために3億円以上もの寄付金を集めているソーシャル・ムーブメントがある。毎年12月に行われる「ドレッセンバー(Dressember)」だ。たった一人の大学生がはじめた「遊び」は、どうやって年間に億単位の寄付金を集める社会運動に発展したのか

友人からそのまた友人へ「おしゃれ自撮りチャレンジ、今年もやろうよ」

Screen Shot 2017-12-30 at 13.44.48
Screen Shot 2017-12-30 at 13.43.41
@blythhill

「ドレス(Dress)」と「ディッセンバー(December) 」を掛け合わせた造語「ドレッセンバー」は、12月の1ヶ月間、毎日お洒落して、自撮りして、SNSにポストして、社会貢献をしようというソーシャル・ムーブメント。もともと、その1ヶ月間、手持ちの服で毎日ドレスアップしてみる試みは「自分の楽しみのため。遊びにすぎなかった」とは、ドレッセンバーをはじめたブライス・ヒル。南カリフォルア在住の彼女、大学生の頃にたった一人で「ドレッセンバー」をはじめ、2013年に「ドレッセンバーファウンデーション」を立ち上げて以来、16年までの4年間で日本円にして3億円以上もの寄付金集めに成功している

 世界中から賛同者を集め、一年間に億単位の寄付金を集めるまでの社会運動に発展したのは、おしゃれして自撮りポストをしていた彼女のほんの小さな気づきからだった。毎日ドレスアップをしていたら「楽しそう!わたしも一緒にやりたい」という友人、さらにその友人と、あっという間に仲間が集まった。そして、翌年になると、友人たちから「おしゃれチャレンジ、今年もやろうよ」という声が上がり「2年目、3年目と続きながら、参加者の数も口コミで自然に増えていったんです」と振り返る。

「こんなに人が集まるなんて、ドレスアップの影響力ってすごい!」と驚きつつ、彼女は「ひょっとして、なんの特別な資格も起業経験もない私でも、ドレスとおしゃれを楽しむ人々の力を借りれば、社会に変革を起こすことができるのではないか」と考えるようになった。

Dressember Lookbook-9747
ブライス・ヒル(Blyth Hill)

 
 中高生の頃から「人身売買」や「児童の強制労働」という社会問題に大きな関心を寄せていたブライス、その理由は、自身の原体験「幼少期に性的虐待を受けたことが大きい」と話す。21世紀のいまも、人身売買が起こっていることを信じていない人や、またその事実を知りつつも、遠いどこかの貧しい国でのことだと思い込んでいる人が少なくないことに疑問を感じつつ、「ずっと声をあげたかった」。そして2013年、彼女は人身売買から少年少女たちを救う活動を行う団体、「 IJM (国際人権ミッション:International Justice Mission)」と手を組み、ドレスの力で世界を変えるムーブメントを起こそうと立ち上がった。

Screen Shot 2017-12-30 at 13.50.58
Screen Shot 2017-12-30 at 13.51.23
Screen Shot 2017-12-30 at 13.51.48
@dressember

「SNSに投稿するだけ」の効果は大きい

   

「社会の問題と闘うためには、まずはみんなの関心を高めることが不可欠」とブライス。だから、一人ひとりのSNSへの投稿はとても効果的だという。
 

 ドレッセンバーへの参加の方法は大きく以下の3つ。

1、「賛同者(Advocate)」となり、公式ページで個人、もしくはチームでのファンディングページを作成。仕組みはクラウドファンディングと似ていて、それぞれ目標額を設定し、ドレッセンバーをしながらSNS等で友達やフォロワーに募金や拡散を依頼。

2、ドレッセンバーに直接寄付。もしくは、ドレッセンバーのウェブサイトに掲載されているエシカルな洋服を購入し、活動をサポート。ドレッセンバーの活動に共感はしているが、時間がなくて参加できないという人におすすめ。

3、金銭的なサポートではなく、1ヶ月間ドレッセンバーに参加しSNSなどでまわりに知らせ、認知拡大に貢献する方法。「あなたがいま、どんなことに関心を持ち、行動を起こしているかということを家族や友人、同僚などに知ってもらうだけでも十分、大きな助けになります」という。

 たとえば、米女優のジェニファー・モリソン(1.4m フォロワー)はハッシュタグ「#dressember」の他、スローガンの「#itsbiggerthanadress」(「あなたの一着のドレスで世界を変えられる」ブライスの発言より)などとともに投稿。

Screen Shot 2017-12-30 at 12.07.22
Screen Shot 2017-12-30 at 12.07.51
Screen Shot 2017-12-30 at 12.08.15

 また、米女優のシェイリーン・ウッドリー(2.7m フォロワー)ローラ・ハリアー(243k フォロワー)は、下記のような文言とともに投稿している。

Screen Shot 2017-12-30 at 12.10.03 1

世界中で3,000万人以上もの人々が、
今日もなお『奴隷』として働かされています。
そのうちの200万人は子どもです。
この深刻な社会問題に、
私は“@ドレッセンバー”と一緒に立ち向かいます。

 あえて「奴隷」という刺激の強い言葉を使っているのは、奴隷制は19世紀で終わったもので、現代の奴隷問題や搾取の実態に目を向けようとしない人が多いから。また、人身売買は遠いどこかの貧しい国だけの話ではなく、「程度に差はあれど、米国をはじめ先進国でもでも起こっていることで決して他人事ではありません」と強調する。

「社会運動は筋トレ」継続がなにより大切で、難しい

 SNSを使って人々の関心と資金を集める手法は、2014年の夏に広まったALS研究のための「アイス・バケツ・チャレンジ」がよく知られている。世界中の人々がバケツに入った氷水を頭からかぶり、その様子をSNSでシェア。キャンペーンは大きな反響をよび、ビル・ゲイツやマーク・ザッカーバーグなど、世界中の著名人たちをも巻き込んだ。その後、団体は集めた2億円以上の寄付金で数々のALS研究を躍進させ、成果を出し続けている。ただ、「頭から氷をかぶって、善人面か…」「水の無駄遣いで無意味なスラックティビズム(大きな労力や出費を伴わない自己満足的な社会運動)」などといった声があったのも事実。
 
 一方、「ドレッセンバー」への参加は、一発きりではなく基本的には1ヶ月間のコミットが求められる。それだけに「スラックティビズム」という批判の声はないが、労力を伴うぶん「アイス・バケツ・チャレンジ」のような爆発的な広がりは起こりにくく、忙しいセレブやインフルエンサーを呼び込むのも難しい。どちらかというと、ジワリジワリとゆっくりだが確実に広がっている印象だ。

 2017年の目標額は2億円。男性の参加者も増え、12月の中盤の時点ですでに昨年の達成額に近づいているという。自分の自撮りポストへの「それ、最近よく着てるけどかわいいね」「なんで毎日蝶ネクタイをしてるの?」という問いに対して、「ドレッセンバーに参加しているんだ。人身売買の撲滅に貢献するためだよ」と答える。「それだけで、人身売買について人に話すきっかけができますよね? それが狙いです。一人でも多くの人が関心をもち、認識を高め、自分に何ができるかを考えるようになれば、社会を変えることができると信じています」と彼女はいう。また、「毎日違った服を着る必要はありません。わたしも手持ちの服を着まわしていますし、寒い日はデニムを重ねたりもします」だそう。

Screen Shot 2017-12-30 at 13.50.35
Screen Shot 2017-12-30 at 13.39.55

@dressemberこんなのもあり。

 社会運動に限ったことではないが、多くのことは継続するのが最も大切であり、同時にそれが一番難しい。筋トレみたいなものだと思う。ドレッセンバーは、その難しさを「おしゃれ、ドレスアップ」して「インスタ投稿」という「なんかイベントっぽくて楽しそうだし、それならぼくにもわたしにもできそう」な感じに転換しているところがうまい。そうでもしないと「人身売買を撲滅しましょう」「寄付金を集めましょう」と、ひたすら真っ正面から叫び続けるのはたとえ1ヶ月でも、正直苦しい。いや、もちろんそういった精神まで鍛え直す筋トレ運動には頭がさがるばかりであるが。12月はクリスマスなどイベントも多い季節。日本からも一人でも参加者が増えてくれれば、冥利に尽きる(今年はもう終わりなので、ぜひ来年)。

Interview with Blythe Hill from Dressember Fondation

#dressember
Dressember Lookbook-8775

▶︎オススメ記事

「日給100円」ファッション業界に搾取されるインドを変えたい

20歳、工場長。大学すぱっとやめて実現「アンチ・ファストファッション」を企むブルックリンの工場へ

▶︎▶︎週間トップ人気記事

ウォーホルもみんなも知らないバスキア「原点の2年間と晩年」高校・無名時代の“はじめての相棒”が明かす

進化を続けるDJIのドローンで映す「世界の新たな奇妙と異常」。狂気と正気、世界と日本の境界線は一体どこだ?

————–
Photos via Dressember
Text by Chiyo Yamauchi
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine

Pocket

Dressember Lookbook-8775
この記事が気にいったら
いいね!しよう
HEAPS Magazineの最新情報をお届けします

You may also like...