7月某日、ニューヨーク本社で開催された、とあるスタートアップの役員会。会議室のテーブルに用意されたのはキャンディーや綿菓子、チョコレートにクッキー…? 揃いも揃って甘党の役員たちが集まったのか、はたまたお菓子のスタートアップなのかと思いきや。話し合いに集まったのは、8歳から14歳の選ばれし“子ども役員”、12人だった。
流行りの子ども服定期購入サービス、裏で操る〈子ども役員〉?
「新進気鋭作家や無名作家のデビュー作品」に「意識の高い女性たちにバカ売れの冷凍食品」。「永久に取り替えてくれる無地Tシャツ」に「担当医が処方する自分だけのニキビ薬」。ここ数年、さまざまな企業が熱をあげるビジネスモデルが「定期購入型サービス」だ。サブスクリプションの名で通り、日本では「サブスク」などと呼ばれているわけだが。コンサルティング会社マッキンゼー・アンド・カンパニーの調査によれば、定期購入型Eコマース市場は過去5年間、毎年100パーセントを超える成長をみせているという。
食やエンタメ、医療などあらゆる業界で飽和中の感あるが、接戦を演じる「子ども服」の定期購入についてはあえて触れたい。「我が子の着る服にはこだわりたいけど、季節ごとに買い物に出向くめんどうと出費から解放されたい」という多忙な親たちにウケている、子ども服定期購入サービス「キッドボックス(Kidbox)」。2016年に登場し、キャンセル待ち3,000人の「ロケッツ・オブ・オーサム」などと市場獲得を巡ってせめぎ合う。日本ではプロスタイリストがコーディネートした子ども服「スタイビー」が有名だ。
同新生児から14歳までを対象に、120の有名ブランドからキュレーションされた7着が、年5回98ドルで届くサービスだ。顧客が一箱分の衣類を買うたび、キッドボックスが提携する慈善団体を通して恵まれない子どもたちに新品の服が届くチャリティもおこなっている。ソーシャルグッドもさることながら、このキッドボックスで注目すべきは、背後で操っている〈子どもの役員〉の存在。子どもが会社の役員って、一体どういうこと?
製品開発戦略、購入体験、CSRまでアイデア考案
キッドボックスが、流行りの“子ども服定期購入サービス”から頭一つ抜けている理由が、昨年から設けている「子ども役員(KIDS BOARD)」制度だ。これは、毎年全米から選ばれた12人の“キッドボックス役員”(8歳から14歳)から成る役員会で、役員は、製品開発から企業のCSR(社会的責任)活動*、新しいプライベートブランドに関する会議などへの参加権限をもつ。
*企業が自社の利益を追求するだけでなく、自らの組織活動が社会へあたえる影響に責任をもち、あらゆるステークホルダー(消費者、取引関係先、投資家等、及び社会全体)からの要求に対して適切な意思決定をし、そのもとに活動すること。
今年で第二回となる子ども役員会は、本社のあるニューヨークで開催。来年に向けての「製品開発戦略」や現代の企業活動には欠かせない「企業のCSR活動」など、通常は企業の“大人”の役員たちが話し合う議題を、子ども役員たちはお菓子を頬張りつつじっくり話し合ったという。大人役員仕切りのもとだが、親は同席していない(ニューヨークツアーを満喫)。
会議での子ども役員たちの具体的な案は明かされていないものの、現在キッドボックスが開発している新しいプライベートブランドについての案だしにもしっかり参加した模様。さらに、服の質やデザインに関する率直な意見交換会も。「多くの親は、成長が著しくすぐにサイズが変わってしまう子ども服への出費を嫌がり、安物を購入しがちです。しかし会議を通し、実は彼らも自分が着ている服の着心地をしっかり気にしていることに気づきました」。さらに、彼らはジェンダーニュートラルなデザインに対しても好意的だった。
2018年度、子ども役員会の様子。子ども役員たちが実際にプレゼンし、意見をだし、彼ら主体で会議が進められていることがわかる。
さらに子どもたちが提案したのは、「届いた箱を親と子が一緒にたのしく開封するアイデア」。届いた箱を開けるという行為が親子の絆を深めることに着目、「親子で一緒にできる工作キットを同封したらいいんじゃない?」など、ユーザーエクスペリエンスにも子ども目線で意見だし。「我々は子ども役員の考えを真剣に受け止めています。今後も年間3回のビデオ会議を予定しています」。
キッドボックスがキュレートした服には「Be Cool」とプリントされたシャツや、シンプルな黒いシャツ、迷彩柄のパンツなど男女兼用の服が多い。
色やデザインで女の子らしさを表すものだけでなく、「The Future is Female(未来は女性にあり)」とプリントされたフェミニズムの要素が強いキュートな服もあった。
“モニター”でなく、“役員”として。社会活動経験済み、プロの片鱗を考慮した人選
服やゲーム、おもちゃなど子どもを対象とした製品を扱う会社の場合、製品開発のプロセスで「子どものモニター」を起用することはなんら珍しいことでもない。たとえば、スウェーデンの“親の先入観”完全抜きの教育ゲームアプリ「トッカボッカ」でも、製作過程のできるだけ早い段階で試作品をつくり、子どもたちの反応を観察すると話していた。
そのなかでキッドボックスが一味違うのは、あくまでも子どもをモニターとしてではなく、“役員”として綿密に選出している点だ。それも、「私たちは、大人の取締役会を組織する前に、子どもの役員会を作りました」。人選プロセスでは、全米からの応募者からコミュニティ支援活動に活発な子どもたちを厳選。プエルトリコのハリケーン犠牲者に1,000個以上のおもちゃを手渡したジェイデン君(9)や、銃規制を訴える「命のための行進」にて数十万人の前でスピーチしたナオミちゃん(11)、自身の通う学校で地球温暖化活動のため資金集めをしたカーター君など。社会活動をバリバリとこなす行動派キッズたちに彼らの経験を元に企業のCSR活動などにも意見してもらうことで、服のデザインだけでなく“企業のあり方をも子どもたちが考える構造”を作り出しているのだ。
ちなみに「彼らは『キッドボックスの名刺』も持っています」。今後、スタートアップ交流会で差し出された名刺に小さな手が添えられていたとしても、驚かない時代となりそうだ。
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All images via KidBox
Text by Yu Takamichi
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine