「僕らはアイスクリームに政治を持ち込む」あの有名アイスクリーム会社には〈フルタイムのアクティビスト〉がいる

なぜ、アイスクリーム屋にプロのアクティビストがいる? ベン&ジェリーズに聞く、みんな大好き!アイスクリームだからできること。
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子どもから大人まで、みんなに愛されてこそ、真のアイスクリームブランド。アイスクリームは比較的、薄利多売でエンターテイメント要素が強い。それだけに、品質もさることながら、万人ウケの親しみやすいフレンドリーなイメージ作りが欠かせない。

多種多様なフレーバーとポップなイラストでおなじみ「ベン&ジェリーズ」は、アイスクリームメーカーとして、そのイメージづくりに成功しているといえる。だが、同時に彼らは一見すると“フレンドリー”とは相反するようにもみえる「活動主義(アクティビズム)」にも本気で取り組んでいるという。どのくらい本気かって、アクティビズムのプロを“フルタイム・アクティビスト”として雇うくらい本気なのだ。“万人ウケ”と“攻め”のタッグだからこそ、できることがあるという。

なぜ、アイス屋にアクティビズムのプロがいる?

 
 相手が誰であろうと「間違っている」と感じたことには声をあげる——。近年の米国では、個人だけでなく、企業の「活動主義(アクティビズム)」もますます勢いを増している。最近では、米人気アウトドア・アパレル企業「パタゴニア」が、大統領の国定記念地域の大幅な縮小発表に対して、国を訴え、大統領に宣戦布告をしたことが記憶に新しい。この問題に関しては、同社だけでなく、他のアウトドアブランドも地域の保護を訴え行動を起こしている。
 
 米国では、政治的、社会的に活動的なパタゴニアのような企業は少数派であるにせよ、決して珍しいわけではない。創業40年、米国を代表するアイスクリームブランド「ベン&ジェリーズ(以下、B&J)」もそんな、“活動的な”グローバル企業の一つ。同社は、環境保護に関してだけでなく「人権や人種問題」「経済格差」「フェアトレード」「遺伝子組み換えのラベル表示義務化」「難民問題」など、さまざまな社会問題に対し声をあげ、行動をおこしてきた。
「B&Jは、おいしいアイスクリームだけを売っているのではありません。人類全体のことを考える価値観もです。だからこそ、同社は世界中で愛されるグローバル企業になれたのです」。そう語るのは、バーモンド州にある本社で「アクティビズム・マネージャー」を務めるクリス・ミラー氏。この日は、電話でHEAPSの取材に応じてくれた。

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クリス・ミラー氏。

 クリス氏は、コーポレートの世界では珍しいアクティビストのフルタイムポジションだ。創業時から熱心な活動家として知られるB&J共同創始者のベン氏が、企業の日常業務から離れることを機に2012年に作られたポジションだそう。クリス氏が抜擢された理由は、ベン氏と価値観を同じくしていたことと、アクティビストとしての経験や知識の豊富さだ。 

 クリス氏は、過去には、国際的な環境保護団体「グリーンピース」で地球温暖化防止キャンペーンのディレクターや、エコブランド「セブンス・ジェネレーション」のCSRやサステナビリティ部門の責任者を務めてきた。いわば、社会を変えるための戦略的なアクティビズムを知っているプロである。
 そんなアクティビズムのプロをB&Jが雇ったのは、同社の「より良い社会をつくる」という社会的使命を、高品質のアイスクリームを売って安定した収益を出すことと同等に考えているからに他ならない。高品質のアイスクリームを作るために品質改良のプロを、また、企業として継続的な成長を実現するために経営のプロを雇うのならば、より良いサステイナブルな社会を創るためにアクティビズムのプロを雇うのは当然だ、という姿勢だ。

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アイスクリームに政治を持ち込むこともいとわない。俄然、守りよりも“攻め”で

 近年になって、日本でもCSR(Corporate Social Responsibility、企業の社会的責任)や、CSV(Creating Shared Value、共有価値の創造)といった言葉で語られることが増えた、企業の「社会的使命」。
 40年前の創業時より、会社の社会的使命を「社会変革」と定めていたB&Jは、世の中が利益ばかりを追求していた80年代の頃から、「万人に愛される、薄利多売のアイスクリームメーカー」という企業の強みを活かしならが、資本主義の原理に基づいて、ビジネスとして社会問題を解決するという視点を持ち続けてきた。

 B&Jがすごいのは、ただ意識が高いだけではなく、活動を通して結果を出してきたところだ。たとえば、B&Jの本社があるバーモント州は、2014年に米国で最初に遺伝子組換えの原料を含む食品への表示を必須とする法律を通過させることに成功した。B&Jは、この活動に長くコミットし、署名活動などを行ってきた企業のひとつ。法律をかえるという成功まで導いた貢献は大きい。

 それまで、多くの米国人が「GMO表示があった方がいい」と感じていたにも関わらず、GMO表示の義務がなかった理由には、国策として遺伝子組換え産業を推進してきたこと、また、そうした企業と政府の間に癒着があったり、それゆえに政府が市民の側に立った施策を取ってこなかった、などがある。
「大きな権力に立ち向かうのは決して容易ではありませんが、適切な手段を踏めば、草の根活動で覆すことも可能なのです」。草の根を無理なく広げてくれるのが、彼らのアイスクリーム販売だ。B&Jは、期間限定の特別アイスクリームフレーバーを発売し、問題への喚起を促すことを手立てとする。その売り上げの一部を活動団体に寄付するほか、ソーシャルメディア上で認知を拡大。

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気候変動により、溶ける地球にみたてたアイス。

 2015年の「気候変動」を解決するための国際会議「パリ合意」の際は、気候変動を専門とする非営利団体「350.org」と協働し、再生可能エネルギーへの変換をサポートする署名活動を実施。全体の10パーセントを占める50万以上の署名を集める功績を残した。また、同キャンペーンにおけるソーシャルメディア上では、3.5億のインプレッションを生み、160万ものエンゲージを獲得。同社の調査によると、同社の社会的メッセージを知っている消費者は、知らない消費者よりも2.5倍もロイヤリティが高いという。

 クリス氏は冗談混じりにこう話す。「偶然だったにせよ、B&Jがベーグルやバーガー屋ではなく、アイスクリーム屋でよかった。アイスクリームほど、老若男女、万人に愛される食べ物はありませんから」。
 
 愛される存在であるからこそ、ひとは耳を傾ける。社会問題についての公共的な議論を喚起することは「もっとも基本的な活動。だから、万人の日常生活に馴染んだ『アイスクリーム』と、『草の根活動』は、相性が良いのです」。

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気温が2℃上がると、アイスクリームはこうなる。

 ただ、万人に愛される高品質のアイスクリームを追求することは続けるが、「万人ウケのために、自分たちの価値観を曲げることは絶対にしません」。彼らの価値観、それは「地球環境を守り、すべての人の人権を尊重し、民主的で平和かつ平等な世界を目指すこと」。そのための政治的立場を明確にしてきたことはもちろん、相手が政府や国であろうと声をあげる。

 また、同じ価値観をもつ者を全力でサポートすることも忘れない。16年の大統領選では、バーニー・サンダース上院議員を支持するキャンペーンとして、新フレーバー、同氏の写真とマニフェストをパッケージにした、その名も「Bernie’s Yearning(バーニーが切望すること)」を発表した。そう、B&Jは、アイスクリームに政治を持ち込むこともいとわない。

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ボイコット上等?!消費者の関心に「合わせない」

 政治に関しても「攻め」の活動的姿勢をみせるB&J。近年は、あえて「消費者が関心を持ちにくそうな社会問題にも着手している」という。

 一般的に企業が取り組むチャリティには、乳がんの研究や、環境問題に向けたものが多い。「それはそれでいいことですが、そういった類のものにはイメージアップを狙ったコーズ・マーケティング*であることも多いのです」とクリス氏。ようは、消費者がすでに関心を持っている、もしくは持ちやすく、それでいて物議を醸すリスクが低く、また、権力者の反感を買いにくい、いわば「安全パイなトピック」なのだという。

*特定の商品やサービスの購入が、環境保護や社会貢献に結びつくことを訴求し、販売促進、製品ブランドや企業のイメージアップを狙う手法。純粋な慈善活動ではなく、収益拡大、企業のイメージアップが目的となる。

 B&Jがいち早く取り組んできた「同性婚の合法化」なども、米国や英国などでは「いまとなっては、声を上げやすく、人々の関心や共感を誘いやすいトピックになりました」。

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結婚の誓い、
“YES, I Do(はい、誓います)と、I Dough(ドゥ、生地)をかけている。
クッキードゥ入りのフレーバーだ。

 
「私たちはいつも、自分たちがどんな社会変革を望んでいるのかを軸にトピックを選んでいます。消費者がどんな問題に興味を持つか、では選んでいません」と、反対意見の消費者のボイコットや、はたまた炎上を恐れない“攻め” の姿勢を貫く。
 世界35ヶ国以上で販売するグローバルブランドでありながら、創業当時のヒッピーブランドらしい体制的な文化に対抗する「カウンターカルチャー」のイメージを保持し続けられている秘訣は、ここにあるのかもしれない。 

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 そんなB&Jがいま米国で注力しているのは、1968年にホワイトハウス前で起こった歴史的なデモ「貧者の行進(Poor People’s Campaign)のリバイバル活動」だという。雇用の不平等、低賃金など「経済格差の改善」は、奴隷制度や人種問題などが複雑に絡みあっていることもあり、万人の共感を呼びやすいものではない。どちらかといえば、目を背けたくなる要素が強いトピックだ。しかし「貧困ライン」の米国労働者の数は、国民全体の半数以上のぼる。この状況の改善は「急務の一つ。多くの国民にとってとても重要なのです」。
 
 B&Jは、ここでも同様に期間限定のアイスクリーム販売、売上の一部を活動団体に寄付。ソーシャルメディアでの拡散を行いつつ、各店舗でも「貧者の行進」への参加の仕方などの情報提供をおこなっており、「攻め」とはいえただ「過激」な怒りまくりのアクティビズムとは一線を画する。堅実かつ結果につながる効果的なやり方で進めているのがポイントだ。

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 たんなる消費の時代から、消費が政治を動かす時代へと移行する中で、「消費者と価値観を共有し合っている企業は、政府や国家よりも大きな社会的影響力を持とうとしています。だからこそ、いままで以上に、企業が社会問題の解決に取り組む必要があると感じています」。 
 ミレニアルズやZ世代といった若い消費者の多くは、同じ価値観を持ったブランドに親しみを感じる傾向が強いことからも、今後、アクティビズムは企業やブランドにとって欠かせないものの一つになっていくことが予想される。

「〇〇に政治を持ち込むな」といったところで、実際に人は政治と無縁ではいられない。政治を考えなくても豊かで安定した生活を送れ、アクティビズムとは無縁の、ある意味 “幸せな時代” が長く続いた日本にも、その流れは確実にやってくる。

Interview with Chris Miller

Photos via Ben & Jerry’s Ice Cream
Text by Chiyo Yamauchi
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine

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