元“フッター派”の若者。コロニー暮らしの厳格キリスト教徒コミュニティの内情を赤裸々告白。「近代社会と隔絶した場所で、若き僕らはこう生きた」

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近代文明から隔絶し自給自足の生活を送る、敬虔なキリスト教徒「フッター派(Hutterites)」。

その知られざる暮らしぶりは以前紹介した通りだが、閉鎖的なコロニー(コミュニティ)を去り、現代社会へと飛び出したある元フッター派の若者が今年9月、コロニーの人々をリアルに撮った写真集を出版した。

book cover

▶︎近代社会と隔絶、コロニー暮らし。厳格キリスト教徒「フッター派」。閉ざされたその実生活がいま、明らかに

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北米・カナダを中心に約4万5000人が居住していると言われるフッター派。厳格キリスト教徒の彼らは、牧師をリーダーに、男性は農業を中心とした労働、女性は掃除・洗濯・食事の支度など家事全般をして生活。フッター派ドイツ語を話し、選挙投票・離婚はNGなど独自のルールを敷いている。

彼の名は、Kelly Hofer(ケリー・ホーファー)。19歳で地元カナダのコロニーを去り、いまは大都市カルガリーでフリーランスフォトグラファー、LGBT活動家として活躍する23歳だ。そう、フッター派が認めない「ゲイ」でもある彼。

「ゲイ」で「元・厳格キリスト教徒」の彼に、生い立ちやフッター派の内情、写真との出会い、現代社会で思うこと、自分自身の変化などについてたっぷりと語ってもらった。

Processed with VSCO

H(HEAPS、以下H):さて、元フッター派のケリー君。カナダのマニトバ州にある人口110人のコロニー育ちだそうで。家族について教えてくれますか。

K(Kelly、以下K):元フッター派の僕は、4年前にコロニーを去っていまはここカルガリーに住んでいるんだけど、実は姉は10年前から先に住んでいるんだ。妹も数週間前にコロニーを出てきたばかりだよ。

H:子どもたちが家を出てしまった後も、ご両親はまだコロニーにいるのですね。どんな子ども時代だったのですか?両親は厳格だった?

K:小さなころは森を駆け回っていた。図書館で本を読み漁ったり、ティーン期には部屋でこっそりパソコンで映画観たり。ビデオゲームにも夢中だった。
コロニー自体が規律に厳しいだけで、両親は割とリベラルだったよ。

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H:なるほど、どこの家庭も超厳格というわけではないのか。携帯も持っていたり?

K:うん。僕のコロニーでは、ほとんどの男性がスマホ持ち。
フッター派はハイテクなんだ。テクノロジーを一切使わないアーミッシュ(※)とはまるで違う。ネットも完備で、他のコロニーにいる教師と遠隔でバーチャル授業したりね。

※北米に住む、厳格キリスト教徒たちでコミュニティを形成して生活する。フッター派よりも戒律には厳しく、車や電気の使用を禁止している。

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H:現代社会と変わらないハイテク教育!フェイスブックやインスタグラムなどソーシャルメディアをする若者も多いと聞きましたが…。

K:みんな、フェイスブックやっているよ。若い世代だけじゃなく、60、70代も。ちなみにお母さんもフェイスブックユーザー。

H:おお、親世代もネット楽しんでいる。

K:僕たちよりも楽しんでいるかも(笑)。少し前はユーチューブはブロックされていたけどもう解禁されたから、動画見まくっていたり。

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H:コロニーの外に遊びに行ったりしましたか?

K:あ、それはできないんだ。外出するには、牧師(コロニーのリーダー)の許可が必要で。仕事関連の用事や病院に行くのにはもちろん許可が下りるけど、遊び目的はダメ。

H:え、じゃあ映画館にも行けないの?

K:映画はNGだね。
外出許可が出て用事が済んだら、こっそり観に行く人もいるけどね。

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H:買い物は?

K:基本的にはコロニーが買い与えてくれる。例えば、iPhoneが欲しいとリクエストは出せるけど。

というのも、フッター派の暮らしの基本にあるのは「共有」。
大きなコミュニティーガーデンでみんなで農作物を育て、労働で奉仕、稼いだお金はまとめてコロニーが管理するんだ。各々が報酬を貰えるわけじゃないけど、必要なものは手に入る。住宅も食事、車もコロニーが面倒をみてくれるし、病人や妊婦、高齢者はみんなで助ける。こんなに一致団結して生活を共にする集団って、世界でもフッター派だけじゃないかな。

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H:そんな密接に繋がり生きるフッター派の人々を、あなたは至近距離から美しく儚く映し出しました。コロニーでは、写真撮影をするという習慣がなくカメラの使用も厳しいと聞きましたが、あなたはどうカメラと出会ったのですか?

K:父が家で保管していた学校用のカメラをある日、ふと手にとったんだ。散歩がてらに風景写真を撮りはじめ、次第に人を被写体にするようになった。
年配の人の中には、結婚式や家族写真以外、「写真を撮られること」自体に不信感を抱く人もいたけど、若い子たちは慣れっこだった。12歳から19歳の8年間にかけて撮り続けたんだ。

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亡くなる2ヶ月前の祖父の写真。コロニーを去る数日前に撮られた。写真の女性はケリーのお母さん

H:「写真を撮る」というカルチャーがない中で、どう写真を学んだのですか?

K:試行錯誤の連続さ!マニュアルも授業も、教えてくれるフォトグラファーもいなかったから。
あとは好きなフォトグラファーの写真を見たり。ナショナル・ジオグラフィックのJoe Mcnally(ジョー・マクナリー)、Annie Leibovitz(アニー・リーボヴィッツ)とか。

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H:それでは、写真の道を極めるためにコロニーを去る決意をしたと…。

K:うん。それから、最大の理由は「ゲイ」だったから。
16歳くらいのころから自分はゲイかな、と薄々気づきはじめたんだ。

コロニーではセクシャルマイノリティは絶対にタブーだから、誰にもゲイだとカミングアウトしなかった。ついこの前も知り合いがゲイであることがバレて、コロニーを追放されたんだ。

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H:それで19歳の時についにコロニーを飛び出した、と。

K:そう。家族を訪ねに来ていたお姉ちゃんが手助けしてくれた。彼女がカルガリーに戻る日の朝、
家族が朝食を食べにコミュニティーセンターに行った隙を見て、お姉ちゃんの運転する車で逃げ出した。

H:ということは、両親にさえも言ってなかったの?

K:言ってなかったよ。フッター派がコロニーを去る時の習慣みたいなもので。去ることは、ちょっとした恥でもあるからさ。後で連絡して、ゲイだということもカミングアウトしたんだ。両親はショックを受けていたよ。

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H:あなたのように現代社会に出て来るフッター派、増えているのでしょうね。

K:というわけでもないんだ。外界に出る方がいいって考えは今はあまりなくて。自分たちの暮らしや文化を尊重する人が多くなった。

H:でも、スマホでインスタやフェイスブックを見て現代の文化に憧れる若いフッター派たちが、外の世界に出たいと思わないのかな?

K:そりゃ、興味津々だよ。でもフッター派は隔絶されているからか、新しい文化をあまり取り入れようとはしないんだ。自分の安心領域から抜け出したくないというね。コロニーでの生活で満足しているし、それに何より孤独じゃないし。ここ(現代社会)では、アパートに閉じこもっていれば1日誰にも会わないことさえある。コロニーではいつも人々に囲まれているから。

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H:なるほど。では最初は、生活環境ががらりと変わって大変なことも多かったり?

K:うーん、そうでもないよ。すごい大変ではないけど慣れるのに時間がかかったのは、ライフスタイルと人との接し方。
例えば110人しかいない地元だと、みんながみんなのことを知っているから自分のことは開けっぴろげでお互い気遣いもあまりない。でもここでは第一印象を良くしなきゃ、と常に気をつけたり。

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H:食にはすぐに慣れた?

K:故郷の味を恋しく感じたのも、ほんとはじめの頃だけ。いまはベトナム料理に中華料理に…。

H:日本食は?

K:うーん、寿司にラーメン!家の近所にラーメン屋があるから、4日間連続でラーメン食べることもあるよ(笑)

H:(笑)。フリーランスフォトグラファーにはどうやってなったのですか?

K:ソーシャルメディアを通してクライアントを増やしていった。コロニーにいた頃から自分の写真をフリッカー(写真共有サイト)やウェブサイトで公開していたから、僕が“フッター派のフォトグラファー”だということは広く知られていて。

いまは人物ポートレートや宣伝用写真、ファッション関連のイベント制作を手がけているよ。昨年にはファッションショーのプロデュースで中国に行ったんだ。翌月もまた行く。中国の文化、好きなんだ。

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H:グローバル!でも、コロニーを恋しく思う?

K:うーん、ないかな。家族のことは恋しいから、電話やメッセンジャーで頻繁に連絡するけどね。

H:じゃ戻りたいと思ったりなんては…。

K:Hell No (絶対にイヤだ)! 大嫌いというワケじゃないんだ、成長するにはいい場所だし。でも、長く住む場所じゃない。
第一、戻りたいと思っても戻れないと思う。僕のコロニーの牧師はホモフォビック(同性愛恐怖症)だから。まあどうしようもないよね。

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H:そうか、複雑ですね…。いまではLGBT活動家としても活動していると聞きましたが。

K:そう、セクシャルマイノリティのフッター派のためにフェイスブックでプライベートグループを作っている。
LGBTでフッター派というアイデンティティをどう貫くべきか、現代社会に出てきた後のカミングアウトについてなどの相談を受けている。僕が公にカミングアウトした初めてのフッター派だからね。

メンバーは30人で、半数くらいがまだコロニーにいる。実はメンバーの2人の女子はコロニーで密かに関係を続けているんだ。みんなはただ親友同士だと思っているらしいけど。

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H:フッター派はこれからLGBTに対してリベラルになってくると思う?

K:そう思うよ。事実ここ3、4年でも若い世代は特に寛容になってきている。セクシャルマイノリティを理解し支援する50代や60代の牧師や教師もいるし、フェイスブックでカミングアウトする若いフッター派も多くなってきている。
それにね、ここカルガリーにもLGBTの元フッター派が50人くらいいるんだ。来年みんなでLGBTフッター派オリジナルのパレードやりたいね、なんて話しているよ!

Kelly Hofer

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All Photos via Kelly Hofer
Text by Risa Akita

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