言葉と絵のごちそうを味わって大人になろう。読書のたのしさを知り、自分で考える・信念を探求する。子どものための雑誌『Scoop』

『おばあちゃんのチョコレートケーキ』『ハート(心臓)についてのタメになる話』『Protest Wall(抗議の壁)』子どもが抗議したいことを、壁のイラストに自由に書き込めるページ、などなど。
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子どもと雑誌。なんとなく、雑誌は大人の読み物だと思ってしまう節があるが。子どもも雑誌は読む。たとえば小学館の学習雑誌『小学○年生』シリーズ。大正11年(1922年)に創刊して以来、学習ドリルにコミック、ゲーム、工作の課題の付録などをもって、子どもたちの“学び”と“遊び”を支えてきた。
同シリーズのいくかが休刊・廃刊となるも、『小学8年生』という不思議な名前の学習雑誌もスタートしている。“8”年生という架空の学年にした理由は…。「時計などに表示されるデジタル数字の“8”はどんな数字にも変わることができる。2~6年生まで、すべての小学生がたのしめる学習雑誌にしたかったから」。大人になったいまでも、ちょっと覗いてみたくなる。

さて、時は2020年、大変便利な世の中になったというのにその古臭いカルチャーは廃れない。それどころか、絶え間なく人間的な速度で成長し続ける〈ジンカルチャー〉。身銭を切ってもつくりたくて仕方がない。いろいろ度外視の独立した精神のもと「インディペンデントの出版」、その自由な制作を毎月1冊探っていく。


The Art Issue – Rose Blake and (c) SCOOP

※※※

今回紹介する一冊は、2016年にロンドンで創刊した読書好きの子どもたちのための雑誌『Scoop(スクープ)』。本の虫の大人向けの雑誌は文芸誌にはじまり多いが、確かに本好きの子どものための雑誌はあまり見かけない。
「スクープは、現代社会を生きる子どもたちのための文芸雑誌、といったところです」。同雑誌のテーマは「愛」に「スポーツ」「アート」「音楽」「人間の体」といった年齢不問の普遍的なものから、「アクティビズム(世界を変えよう!)」や「アフリカ」「イノベーション」「想像力」「ミステリー」など大人向きのものまで。テクノロジーでの学びや遊びに慣れた現代の子どもたちへ、物語やコミック、パズルなどのアクティビティを紙雑誌として提供する。

子どもたちの学びを促すスクープだが、「あくまで私たちは雑誌であり、教科書ではありません。子どもたちに、『読むこと』のすばらしさを伝えたいのです」。あくまでも、お勉強の本ではなく、たのしみながら学べる雑誌。まるでそれは「A Feast of Words and Pictures for Kids(子どものための言葉と絵の“ごちそう”)」。

スプーンいっぱいにスクープして、“読む”をたのしむための雑誌作りを知るべく、編集長のクレメンタイン・マクミラン=スコット(以下、愛称のクレミー)に取材。自粛期間中、子育てに追われ忙しいなか、丁寧に応えてくれた。


Activism around the World – Written by Josette Reeves and illustrated by Tara Deacon and (c) SCOOP

HEAPS(以下、H):“子どものためのごちそう”を謳う『スクープ』。どんなおいしい読書体験を提供しているのかいろいろお聞きできたらと思います。

Clemmie(以下、C):誌面には、読みものを中心に子どもがたのしめるコンテンツを掲載しています。スクープは、現代社会を生きる子どもたちのための“文芸雑誌”ってところです。対象年齢は7歳から13歳。

H:小学生の年齢ですね。近年、子どもの読書離れが進んでいるといわれますが。

C:この年代の子どもにとって読書の習慣を身につけるというのは本当に大事なんです。幼いときに文章を読むことのたのしさを学んでいなければ、大きくなっても文章に抵抗を感じる子に育ってしまう。そして、コンピュータースクリーンに夢中になってしまう。
子どもの読書離れと比例して、児童文学作品の需要が減少しつつあります。これにより、子どもたちの読書の機会を減らし、読書離れをさらに深刻化させるという悪循環を招いてしまう。この状況を避けるためにも、児童文学作家が活躍することができるプラットフォームとしても在りたいですね。

H:子どもの読書熱を掻きたてるには、優れた児童文学作品が必要不可欠だ。ところで「読書離れ」といわれているものの、実際にいまの子どもたちの読書に対する考え方とはどんなものなのでしょう。

C:昔の子どもに比べいまの子どもの生活には、ゲームやスマホ、インターネットというオプションがくわわり、つねに注意力が散漫する傾向があります。だから、彼らを読書に集中させるのはそう簡単ではない。しかし、現代の子どもたちに「『紙での読書』あるいは『電子での読書』、どちらを好むのか」を尋ねてみると、意外にも、「紙媒体での読書」を好む子どもの方がいいという調べもある。本がもつ手触りや匂い、実際に手元にあることへの安心感など、大人同様に子どもたちも本を愛しているのです。

H:小さいころ、本の紙の匂い好きだったなあ。

C:子ども向けの雑誌であるからには、子どもの心を惹くような遊び心を取り入れたコンテンツを心がけています。最近の子どもは目からの情報収集に長けているので、デザインには洗練された刺激的なものを取り入れています。

H:カラーやフォントのこだわりから、アーティスティックなイラストまで、ビジュアルへのこだわりが見えます。ネットには「子ども向けの雑誌でありながら、大人もたのしめる」との評価もありました。

C:そうなんです。大人もたのしめるような雑誌を作るつもりはなかったのですが、結果的に多くの親御さんが子どもと一緒にたのしんでくれているみたいです。なかには、一人でスクープをたのしんで読んでいるという大人も。特に、ノンフィクションの短編小説が人気です。



Madness of Love – Written by Herbie Brennan, illustrated by Aga Giecko and (c) SCOOP

The Heart of the Matter – Written by Jenny Jacoby and Clementine Macmillan-Scott, illustrated by Lindsay Grime and (c) SCOOP

Make Your Own Wallpaper – Supplied by the Tate, Andy Warhol profile – Written by Jenny Jacoby and (c) SCOOP

H:本を買うか否かの選択肢は子どもではなく、大人にある。だから、大人が子どもに読ませたいと思う雑誌であるというのは大事ですね。さて、大人をも惹きつけるコンテンツ、どんなものがあるかというと…

・『おばあちゃんのチョコレートケーキ』
『The Love Issue(愛の号)』に掲載されている、英国の数々の賞を受賞した児童文学作家、マーク・ロウェリーによる短編小説。おばあちゃんの誕生日に用意されたチョコレートケーキをつまみ食いした子に起こった不思議な出来事のお話。

・『おばあちゃん仮説』
科学系ライター、トム・ウィップルが執筆。赤ん坊は祖母の近くで育った方がよく育つという研究と同様に、シャチの生命力も、おばあちゃんの元で育った方が強いという学説をイラストにした。

・ハート(心臓)についてのタメになる話
古代ギリシャ人がもっていた「心臓には人間の精神が宿る」という考えや「女の子の心臓の方が男の子の心臓より早く鼓動する」という知識を共有。

・児童/アダルト文学作品を手がける作家/編集者ジェニー・ジェイコビーによる、世界のバレンタイン文化を紹介する記事

・どちらのおもちゃが魅力的かを競うふたりの子どもを描いたコミック作品

科学的な話から歴史、文学などを、たのしい読みものに落とし込んでいる。子どもの読書熱を掻き立てるための工夫は?

C:できるだけ多くの異なるスタイルのコンテンツを取り入れるようにしています。コンテンツ選びの段階で一番重要なのは、読者の意見や考え方を否定しないようなものを選ぶこと。固定概念や意見を押しつけるのではなく、子どもの自己形成を手助けする雑誌でありたい。あくまでもスクープは“雑誌”であり、教科書とは真逆のところに位置している。読者にたのしんでもらうものなんです。

H:学びだけじゃ、おもしろくない。

C:テーマに対して、“真剣”と“遊び心”のバランスをもつことが鍵なんです。たとえば「愛」というテーマでも、アンディ・ウォーホルにまつわる“愛”の話もあれば、パズルやゲーム感覚でたのしめる“愛”にまつわるコンテンツも用意しています。



The Love Issue – Lindsay Grime and (c) SCOOP

Love Riddles – Written by Jenny Jacoby, illustrated by Lauren Veevers (c) SCOOP

Match the Owner to Their Pet + A Dog’s Undying Love – Written by Jenny Jacoby, illustrated by Lauren Veevers and (c) SCOOP

H:そのバランスをどうやって保っているのでしょう。

C:あらゆる角度からそのテーマを探求することがとっても大切なんです。そのために以下のことを徹底する。

・子どもの目線からおもしろいと思うのか。
・くれぐれも子どもに対して上から目線の内容でないこと。
・ユニークで、興味深い切り口を見つけ出すこと。
・これまで世に出ていない作品を出すこと。

H:子どもの目線ということですが、対象年齢の7歳から13歳というと、小学校1年生から中学校1年生くらいまでと、けっこう幅広い。たとえば、『おばちゃんのチョコレートケーキ』は、けっこう長文だから、年長向けかな? 小学1年生と中学1年生、どちらをも惹きつけるために、コンテンツの難易度のバランスをどう取っていますか?

C:年長向けのコンテンツを一つ制作したら、年少向けのコンテンツを一つ制作するという風にバランスを取るよう心がけています。すべての年齢の子どもの読書レベルに対応するのは難しいけど、できるだけ対応できるように努めています。

H:読書っていうと、単純には年齢で区切れないからいいのかもしれないですね。読書好きの子は、自ら高学年向けのものもチャレンジしていく気がします。
そういえば、世界のバレンタイン文化を紹介している記事では、日本のバレンタイン文化も紹介していました。アポロと苺のダースのイラストが描いてあってテンション上がりました。このように世界のカルチャーや情報もどこから仕入れているのか気になるところです。



Time for Love – Written by Jenny Jacoby, illustrated by Arabella Simpson and (c) SCOOP

C:気に入ってもらえたようで、うれしいです! 私もあの絵は大好き。スクープは世界中にコントリビューターを抱えています。また、世界中の子どもの声にも耳を傾けたいと思っている。世界各地の子どもをインタビューした特集記事も組んでいます。

H:子どもの声といったら、スクープには「子どもたちによる書評コーナー」がある。次世代の新しいヒーロー像を描いた『High-Five to the Hero』や、魔法の国への冒険記『Tales of Ramion』など話題の児童文学書を、8歳や10歳の子どもたちが評価する。自分と同じ年代の子の批評や感想は、よりリアルで親しみやすく、刺激的でしょうね。

C:そうなんです。子どもは、他の子どもの意見を読むのが好きです。親にとっても他の子どもの意見や考え方に知ることは、自分の子どもの教育の参考材料としていい知識になると思うんです。

H:なるほど!ところで、児童文学書の書評コーナーというのはあまり見かけませんが、よくあるものなのでしょうか。

C:ちょっと前までは、子ども向けの本の書評が新聞や雑誌に掲載されていたのですが、現在ではかなり減りました。英国では、児童文学書の販売が書籍全般の約30パーセントなのに対して、児童文学書のレビューはたったの3パーセントしかありません。だからこそ、私たちは児童文学書の書評に精を出すことが大事だと思っています。

H:他にも、スクープでは昨年から「ジュニア・エディター」という役職を設けています。出版する前の段階の雑誌をみてもらい、雑誌のレイアウト、デザインなどについての意見をする編集者を、毎号、子どもの応募者のなかから選出している。

C:そう!スクープでは昨年から、毎号違う子どものジュニア・エディターと大人のゲスト・エディターを招いています。スクープの編集者は、ほぼ全員母親。そしてみんな、教育関連の仕事や子ども向けの出版に携わっていた経験を持っています。そこに、毎回新鮮な意見をもらいます。


Tales of Ramion: The gift of Evil – reviewed by Xanthe (aged 8), High Five to the Hero -reviewed by Sophie (aged 7), The Somerset Tsunami-reviewed by Isha (aged 10), Forgotten Fairy Tale of Brave and Brilliant Girls-reviewed by Esmerelda and (c) SCOOP

Story by Mark Lowery and (c) SCOOP

Paper Planes -by The Etherington Brothers and David Follett and (c) SCOOP

H:また、最新の27号の『Activism(アクティビズム)』も気になります。銃問題や人種差別、気候変動、LGBTQ、男尊女卑などの社会でおこっているさまざまなことについてをトピックにしています。子どもたちに伝えるのは少し難しい話題もコンテンツ化するアプローチが見えました。

・短編エッセイ『The fall off the Berlin wall(ベルリンの壁崩壊) 』:ベルリンの壁についての歴史的背景と人々の様子を描く

・『It didn’t start with Greta(グレタから始まったわけじゃない)by JD Savage(ジェーディー・サーベージ)』:これまでに子どもによって行われた社会問題へ向けての抗議活動を紹介しているオムニバス作品

・『Protest Wall(抗議の壁)』:子どもが抗議したいことを、壁のイラストに自由に書き込めるページ」

C:これらは、少し扱いにくいテーマですよね、保護者や教師は避けがちな話題かもしれません。しかし、子どもが理解できる範囲内での事実を伝え、質問があれば答えてあげるというのがベストだと思います。彼ら自身の目と頭で捉えようとすることが大切ですから。



The Activism Issue – Cynthia Alonso and (c) SCOOP

The Fall of the Berlin Wall – by Josette Reeves and (c) SCOOP

H:これからの未来を担ういまの子どもたちが、早い段階で現代社会のことを知るというのはすばらしいことです。

C:「わからないことを質問しながら自分の信念を探究する自分の信念を探究する」「自分が信じていることのために立ち向かう」ことを知っていくのは子どもにとって大切なスキルだと思っています。

H:1号から27号までの制作、なにか大きな変化はありましたか。 

C:27号も創刊してきたことを、誇りに思います!ちょっと信じられないくらい。大きな変化は、毎月出していたのを隔月に変更したこと。急がずに少し時間をかけて取り組む方が、作家もより良い作品制作ができると思ったからです。あと、本棚にもきちんと収まるように、そして、(他の一般的なサイズの本と)揃えられるように雑誌の大きさを少し小さくしました。

H:本棚に入るの大事ですもんね!

Interview with Clementine Macmillan-Scott

Text by Ayano Mori
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine

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