生姜入りホットコーラの香り、白湯の香り。遅れてやってきた中国の香水文化に、中国カルチャー独特の「沙龙香(ニッチな香り)」

中国男性の美容業界の成長には、男性のネットアイドル(網紅:ワンホン)増加が関係しているともいわれている。
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「漢(おとこ)が顔の手入れなんて。しゃらくせえ」は時代遅れになり、「男も化粧するの?」の疑問符すら取れつつある。いま世界規模で「メンズコスメ」市場は拡大し続け、各ブランドがスキンケアやヘアケアのみならず、男性用のアイシャドーやリップ、ネイルまで展開する今日だ。

さて、特にZ世代を中心に男性の美容やコスメが広がる中で、中国の美容事情がちょっと変わっている。ここ数年で、BBクリームや口紅の使用はZ世代だと「5人に1人」まで伸びてきたところで、ある美容品が遅れてやってきた。「香水」だ。10代、男の洒落っ気としてはじめて手を伸ばしてみるものがコロンや香水だと思っていたが…。
さまざまな物事に「個性」や「自分の選択」がライフスタイルとして浸透したいま、遅れてやってきたからなのか、中国の香水が独特でおもしろい。中国発のインディーブランドが出した「白湯(さゆ)の匂い香水」なんてものもあったり。

中国男性の美容事情。BBクリーム、顔パックは浸透、でも〇〇は…?

「現代の中国において、男の美容は〈新しい標準〉になっている」。国内の高級品市場についての動向を追う中国メディア『Jing Daily(ジン・デイリー)』が、そう報道したのが今年のこと。昨年から、シャネルやトムフォードといった有名ブランドがメンズのためのメーキャップラインをスタートした。日本でも、「NUDO(ヌード)」が発売当日に売切れという人気ぶりを叩きだすなど、世界的にメンズコスメは普通のことになりつつあるが、中国においては破竹の勢いだ。ちょっと数字を見てみよう。

・Z世代(1995年以降に生まれた、現在24歳以下)の男性の5人に1人が、日常的にBBクリームや口紅を使用している。
・国内シェア第3位のECサイト「VIP.com(唯品会)」では、Z世代によるメンズコスメ商品の売り上げが、2016年の16.7パーセントから2017年には42.9パーセントまで急成長。
・国内最大のECサイト「天猫(タオバオ)」の報告書(2018年)によると、男性ビューティー部門の売上成長率が、2年連続で50パーセント増し。
・男性用アイブロウペンシル、口紅、BBクリームの売り上げは、順に、214パーセント、278パーセント、145パーセント増し

 男性メイク熱の上昇とともに、中国のソーシャルメディア「Weibo(ウェイボー)」には、フォロワー100万人超えの男性美容ブロガーやインフルエンサーが登場。コラボするブランドのプロダクト宣伝や、レビューが無数に投稿される…。社会現象にもなっている中国男性コスメブームだ。
 美意識の高いKポップスターの影響や、ユニセックス・ジェンダーレスといった「男性も化粧をしていいんだ」という時代の風潮も後押しし、「BBクリームや顔パックは、すでに中国人男性の美容のルーティンに入っているでしょう」。一方で「比較的“静か”だったカテゴリが、いまトレンド」とジン・デイリーは伝える。「それは『香水』です」。


@jingdaily

香水後進国・中国で、メンズ香水上昇中。ECサイトのトレンドにも

 高校生になったら途端に香水をつけはじめる男子学生がでてくる日本の感覚でいったら、ちょっと不思議かもしれない(学生時代、男子の間で、ジバンシィのウルトラマリンが流行っていたっけ…)。なぜ、BBクリームや口紅などの化粧品が浸透しているのに、香水はまだだったのか。

 中国人男性のこれまでの香水に対する思いは、「西洋の高級品」「エリート階級がつけるもの」「日常生活の必需品ではない」というのが相場だそうで、女性から贈りものとしてもらうことはあっても、自ら自分用には買わないことが多いという。それゆえ、中国の香水使用人口(男女含め)は世界のたった1パーセントだった(2017年)。

 しかし、最近は様子が違う。2012年から17年、中国の香水市場は年間15パーセントずつ上昇しつづけており、4年後の2023年には、17年の約37億円から約2倍の約74億円にまで成長すると予想されている。国内香水市場シェアの男女比も変化し、3割にまで男性が増えてきた。
 若者世代を中心にユーザー2億人を誇るソーシャルコマースサイト*「小紅書」の今年7月のトレンドトピック第1位は、「メンズ香水」。ちなみに同サイトに投稿された5万のポストには、「渣男香(ワルな香り)」「斩女香(女性キラーな香り)」といったハッシュタグが散りばめられていた。

*SNSとECサイトを掛け合わせたプラットフォーム。

“白湯の香り”人気で見えてくる、若者世代の独特感覚

「商业香」。これは、中国の若者たちが“つまらない香り”を指すときに使うスラングだ。商业香に含まれるのは、シャネルやバーバリー、カルバン・クラインなど、商業的な高級ブランドの匂い(「街香」という言い方もある。街中でよく遭遇する香り、という意味からだろうか)。
 これに対し、小規模生産でよりこだわって作られた香水の香りは「沙龙香」と呼ばれ、このニッチな香りが若者たちの好むところらしい。「他人と同じ」が大嫌いで、「宁愿撞衣,不要撞香(同じ服を着た人に遭遇する方が、同じ匂いの香水をつけた人に遭遇するより、まだマシだ)」という概念もあるほど。

 これまでの中国の小さな香水市場で人気だったのは、先述のような高級ブランドで、香水シェアの7割が海外ブランドだった。現在でも、中国版LINEとたとえられる「WeChat(ウィーチャット)」やウェイボーをのぞいてみると、グッチや仏コスメ大手・ランコムなど、海外ブランドの香水についての投稿がまだまだ多い。しかし、2017年、シャネル、クリスチャン・ディオール、コティといった有名ブランドの売上は停滞していた模様。最近では、「他人と同じ」が嫌いな若者たちからは「もっといろんな香りがほしい」という声があり、パーソナライズされたユニークな匂いを求めている。

 ユニークな匂いというと、ルイ・ヴィトンが「寿司のガリからインスピレーションを受けた匂い」を発するメンズ香水を発表したことが記憶に新しいが、中国も負けてはいない。60以上の実店舗とオンライン販売から成る中国発香水ブランド「気味図書館(セント・ライブラリー)」は、「涼白開〈白湯(さゆ)の香り〉」を開発。しかも、たんなる白湯ではなく、“沸かしたあとに冷ました”白湯である。白湯って匂いするのか…。他にも、風邪を引いたときに母親が作ってくれた生姜入りホットコーラの香り「姜絲可楽」や、子どもの頃のミルクの匂い「大白兎」もある。いずれも、中国文化や中国での生活を送ってきた者にしか理解できない香りである。懐かしの香り、記憶の匂いを、香水としてまといたいというのも、独特の感覚だ。


気味図書館が展開する台湾店の商品ラインナップ(中国店のウェブサイトがアクセスできず)。「猫の毛の香り」を発見。
白湯の香りや生姜入りホットコーラの香りは見当たらなかったから、中国店のスペシャルエディションなのかも。
(出典:Scent Library Taiwan Official Website

 男性のメイクが浸透しはじめた「ジェンダーレス」のいま、ただブランドを選ぶのではなく、自分を表現するものを求める「パーソナライズ」のいまになって、遂にはじまりを見せている中国の香水文化。まだまだ未開拓で、ブランドが飽和していない市場だ。ライフスタイルにおける他のものと同じように、「男女関係なく」「自分のアイデンティティや個性を光らせる『自己表現』になる」香水を求める若者たちがはじめからいる国では、今後どんな国内発ブランドが登場していくのか。中国カルチャー独特の香りには、現代の若者を形成するのに欠かせない成分が見え隠れしている。

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Eyecatch Image by Midori Hongo
Text by Risa Akita
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine

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