身銭を切ってもつくりたくて仕方がない。いろいろ度外視の独立した精神のもと「インディペンデントの出版」、その自由な制作を毎月1冊探っていく。
『Lunch Lady(ランチ・レディー)』。おいしそうな名前の雑誌。お母さんがおいしいランチを作ってくれる? いいえ、子どもと一緒においしいランチやおやつを作ります。
オーストラリア発の食や家族、子育てに関するライフスタイル誌で、毎号約180ページのボリュームの季刊誌として創刊中。雑誌創刊の起源は「お弁当(ランチ)」だ。当時9歳の娘が手づくりのお弁当が原因でいじめにあっていたことをきっかけに2013年に創刊。「親子でおいしいフードを作るたのしさ」を伝えるためだ。
ランチ・レディーは、親に向けた子育て本ではなく、親と子がともに一緒に家族としてたのしくやっていくことを教えてくれる。大人がたのしめるコンテンツ、子どもがたのしめるコンテンツ、そして両者が一緒にたのしめるコンテンツたくさんは、好きなものをたくさん詰め込んだランチボックスのよう。
現在雑誌制作を手がけるのは、編集ディレクターのルイーズ・バニスター(3児の母)とクリエイティブディレクターのララ・バーク(2児の母)。今回は、編集ディレクターのルイーズとメールのやり取りをし、育児と仕事の合間で回答してもらった。
HEAPS(以下、H):子育てに関する本は大人に向けたものが大半ですが、ランチ・レディーがフォーカスをおいているのは「大人と子がともにたのしめる」こと。
Louise(ルイーズ):親と子どもで一緒に料理をしたり、遊んだりすることで、普段の生活とは違う形で絆を深めることができるので、とても重要です。
H:家族でたのしむ雑誌って感じですかね。
L:そう、家族のための雑誌です。女性だけでなく、男性からもたくさんいいフィードバックをもらっていますよ。夫が妻にプレゼントすることもよくあるそうです。
H:ルイーズ(3児の母)は、自分の子どもたちとどのように交流していますか?
L:子どもたちの誕生日によく一緒に料理をします。まず、なにが食べたいかをみんなで話し合う。おかず系とデザート系、さらにプラス数品を選んで。
私が一番好きなプロセスは「デコレーション」。特にケーキは一番ワクワクします。昨年は、5歳になった息子の誕生日に恐竜のケーキを作ったり、娘とは一緒にファームケーキ(農場をイメージしたケーキ)を作りました。子どもと一緒に作るのって、とてもたのしいです。
H:デザインも子どものころに使っていたノートのようで、とてもカラフルでかわいらしい。
L:デザインは(この雑誌の)すべてです。人は美しい雑誌を読みたくなりますよね。子どもたちだって、かわいい形の食べ物を好みます。私の子どもたちは顔が描かれたフードが大好きです。そういう遊び心を通して、子どもたちの創造力が育まれると信じています。
H:その“遊び心”は、雑誌のモットーである「子育てをあまり真剣に捉えすぎない(Do not take parenting too seriously)」にも通じる。
L:子育てって、時にものすっごく重く捉えられている気がするんです。私自身、10年前に親になったときも、たくさんの子育て本を読み漁りました。でも、そうしたら余計に自分のなかで「子育て」が迷走していく一方だった。なにをやっているのかわからなくなって、もうさっぱりだったんです。3人目からは少しコツをつかんできて、リラックスし自信を持って子育てに取り組めています。だから、このモットーは私たちにとっては「(生活の)バランスを取りながら、リラックスして子育てに挑む」ためのリマインダーみたいなものでもあるんです。
H:ランチレディー創刊の裏にある「お弁当」づくりも、母(そして父)の毎日の大きな役目です。雑誌ではシンプルで健康的なお弁当のアイデアやレシピがたくさん紹介されています。
L:忙しい日常を送りながら作るお弁当は正直、あまり完璧にはいかないですよね。むしろ完璧からほど遠かったりする。だからこそ私は子どものお弁当はできるだけシンプルをキープするようにしています。
雑誌では、おやつや夕食のアイデアも紹介しています。マフィンやミューズリー(押し麦・ナッツ・ドライフルーツなどを混ぜ合わせた、シリアルの一種)の作り方、とか。ほら、夕方は創造力を働かせにくいでしょ。
H:毎日の夕食となると、ネタもつきがちですからね…。ちなみに、ルイーズが作ってあげるお弁当は?
L:オーストラリアのランチボックスは健康的です。午前中には軽食や水分補給の時間があって、子どもたちは野菜や果物を食べたり、水分補給をおこないます。うちはいつも果物と野菜スティック、海藻、ポップコーン、サンドイッチ(中身はピーナッツバターかサラダ、もしくはラップサンド)、ゆで卵、チーズ、クラッカーを持たせています。時には子どもたちの好物の生春巻きや、近所の寿司屋の寿司を持たせたりもします。
H:定番メニューすごくおいしそう。そして、寿司屋の寿司を学校で食べれるなんて夢のよう…。
L:料理は好きなんですけど、あまり得意な方ではなくて…。うちは旦那の方が上手かも。
H:誌面に掲載されているお弁当のレシピは、だれが作ったものなんですか?
L:毎号異なるレシピ開発者に手伝ってもらいます。彼らに「冬」「アドベンチャー」「Fun(たのしい)」などさまざまなテーマを共有して、レシピづくりに取り組んでもらうのです。
ヘルシーでありながらも子どもが飽きないたのしいレシピづくりがキーですね。毎号新しいレシピ開発者を迎えることでいつも新鮮なレシピがたのしめます。ちなみに、どのレシピにもベジタリアン、ビーガン、グルテンフリーのオプションを設けてありますよ。
H:お腹が空いてきたところで、ランチ・レディーのページをペラペラと…。
ランチ・レディー流のお弁当の作りかたを紹介。オフィス用のお弁当の献立は、野菜ヌードルサラダ、ゆで卵、ドライフルーツとナッツのミックス、ダークチョコレート。
🍰「たのしいケーキの作りかた」
にっこり笑顔の丸型ケーキの作りかたを紹介。約20センチの丸いケーキ型を2つ用意(型2つで2層仕立てのケーキを効率的に)。飾りつけにはラズベリーのコンポートを。
☁️「ふわふわマシュマロの起源について」
子どもたちのほっこりあたたかい思い出にあるマシュマロ。意外なる起源は、古代エジプト人がマシュマロという植物をハチミツで煮て、病気の治療薬として王さまに提供したらしい。
🌟「DIYキャンドル」
手づくりキャンドルの指南書。ビーワックス、アルミ缶、キャンドルの芯(クラフトストアから購入可能)を用意。キャンドルに色をつけたい場合は染料も忘れずに(食用の着色料はビーワックスと混ざらないのでご注意!)。
「たのしいケーキの作りかた」は子どもだけでなく、大人もワクワクしそう。
L:実際に作らなくても、こういうクリエイティビティを誘うイメージで頭をいっぱいにするのもいいですよね。ここで子どもに関するおもしろいなことを一つ。子どもに「退屈させること」は、重要なんです。
H:え!それはなぜ。
L:退屈な時間にこそ、子どもは想像力をたくさん働かせるからです。
H:なるほど。そういえば小さい頃には暇な時間はひたすら妄想や考えごとをしていたかも…。
L:親は子どもにスポーツなどの習い事をさせがちですが、子どもたちを木で遊ばせたり、自分たちでゲームを作らせたりして想像力を育ててあげることも大切です。
H:雑誌の誌面には、子どもたちの活気ある様子を捉えた写真もたくさん。
L:ランチ・レディーでは、子どもたちとの写真撮影は欠かせません。最近制作した号では、5人の子どもがツリーハウスで遊んでいる様子を撮影しました。子どもたちがツリーハウスに持っていきたくなるおやつを、レシピ開発者に考案してもらいました。
H:また、親向けの読みものも満載です。
🖌パキスタン人アクティビストのマララ・ユスフザイの父、ジアウディン・ユスフザイとの「父親であること」をテーマにした取材記事
🖍ポップな色彩で子どもたちのイラストを描く日本人ペインター、樋口咲耶(ひぐちさくや)とのQ&A
🖋オーストラリアで育った過去とロンドンで子育てする現在についてを語った、ある黒人の母親のエッセイ
取材対象者はどのように決めているのですか。
L:親としてなにを学びたいかをじっくり考慮したうえで、リサーチに進みます。子どもはどんどん成長し、それにより発生する問題も変化してゆくもの。子どもの成長とともに、親もどんどん学んでいかなければなりません。
H:取材対象者は全員、子どもを持つ人物なのでしょうか。
L:子どもを持つ取材対象者でないといけない、なんてことはないです。でも、なにかしらの形で子どもに携わっている人物、子どものためになにかを作っている人が多いですね。たとえば、絵本作家だったり、子どものためにイラストを描いている人だったり。
H:これまでのストーリーで印象深かったものはありますか?
L:それはもう数え切れないほど! たとえば、4歳の娘を事故で亡くした母の取材記事や、教育分野の専門家が教えてくれた「子どもが耳を傾ける話し方と、子どもに話しやすく感じてもらう方法」。親が話しかたに気をつけるだけで、子どもたちの理解力は変化するという事実はとても興味深いです。
H:そして、親子でたのしめる図工アクティビティの指南書。「DIYキャンドルの作りかた」には、どのような店で材料が購入できるかなども教えてくれて、忙しい親にはありがたい。
L:ぶっちゃけてしまうと、私、子どもたちと図工はほぼしないんですけどね(笑)。でも、図工のアイデアを考えるのは好きです! クリエイティブディレクターのララは器用で図工が得意なので、子どもたちともよくものづくりに励んでいるそう。この前は、夫婦でデパートからたくさんの段ボールをもらってきて、子どもたちの遊び場として家のガレージに“段ボールの街”を作ってあげたと言っていました。
H:うわあ、大掛かり(笑)
L:私の長女はランチ・レディーの図工コーナーが大好きです。最新号では紙人形を載せましたが、もう紙人形の着せ替えに夢中で。この号ではタトゥーシールを付録にしましたが、これにも大盛りあがり。
H:付録、大人でもワクワクします。図工でも料理でも通ずることなのですが、子どもとの共同作業は時間が倍はかかりますし、いろいろと大変そうです。テーブルの上も下もぐちゃぐちゃになるのは覚悟のうえで。
L:上手くいくときもあれば、上手くいかないときもあります。それも人生。散らかっていることはいったん忘れて、リラックスして、一緒にものづくりをする時間をたのしむのがコツです。
H:ハッピーランチ、そしてハッピーライフのコツを教えてもらった気がします。ちなみに、ランチ・レディーは、代官山蔦屋書店やShibuya Publishing & Booksellers(シブヤ・パブリッシング&ブックセラーズ)など東京の書店でも手に入るとのことなので、ぜひ!
Interview with Louise Bannister of Lunch Lady Magazine
All images via Lunch Lady Magazine
Text by Ayano Mori
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine