新しいプロジェクトからは、バラエティにとんだいまが見えてくる。ふつふつと醸成されはじめたニーズへの迅速な一手、世界各地の独自のやり方が光る課題へのアプローチ、表立って見えていない社会の隙間にある暮らしへの応え、時代の感性をありのままに表現しようとする振る舞いから生まれるものたち。
投資額や売り上げの数字ではなく、時代と社会とその文化への接続を尺度に。新しいプロジェクトとその背景と考察を通していまをのぞこう、HEAPSの(だいたい)週1のスタートアップ記事をどうぞ。
「よりグリーンなブルーが、地球を救います」。ここでいうグリーンとは緑ではなく、“環境にいい”方のグリーン。世界でもっともサステナブルなブルーで染める、新しいデニム。
鍵はバクテリアと砂糖? あたらしいインディゴの発明
ジーンズをはじめとするデニムを青く染める染料、インディゴ。天然のインディゴはおもに熱帯植物のコマツナギ属から取れる。この「インディゴ染め」の歴史は古く、インダス文明の遺跡からも発見されたり、古代エジプトのミイラの着衣がすでにインディゴで染められていたり、と4000年以上前の話もある。日本での藍の歴史も奈良時代まで遡るといわれている。
世界各地で古くから親しまれてきたインディゴ染めだが、いま広く使われている青色はかなり地球環境に悪くて…。
現在、年に20億本も生産されるデニムに使われるインディゴの90パーセントは、天然ではなく、石油を原料とした合成インディゴに置きかえられている。“より簡単に、より大量に”、の代償として、1キロの合成インディゴを作るのに、100キロもの石油を使用。さらに合成インディゴには、ベンゼンや、ホルムアルデヒド、ナトリウムアミドなどの有害な物質が含まれる。「ブルージーンズの首都」とも呼ばれる中国・広州の川が繊維工場の汚染水によって黒く汚れてしまったりと、繊維工場から垂れ流される汚染水も深刻化している。
そんな“グリーン”じゃないインディゴの現状を変えようと、数年前から天然インディゴへの転換の活動がみられてきた(タバコ畑をインディゴ畑に変えようと試みる動き)が、今回紹介するのは「バクテリア」を使用したグリーンなインディゴ染料をつくるスタートアップだ。
「世界でもっともサステナブルな染料をつくるために、バイオテクノロジーを駆使します」。2019年に米国のサンフランシスコでスタートした「Huue」は、“よりクリーンでグリーンなブルー”をつくる。
染料をつくり出すのに石油は一切使用せず、使う資源は再生可能でクリーンな砂糖とバクテリア。はて、バクテリアがどうやって染料を生み出すのか。
キーは、「バクテリア」と「砂糖」と「発酵」だ。Huue共同創設者のタミー・スー博士は、カリフォルニア大学バークレー校の研究室で6年間にわたって研究を重ね、ついに2016年、バクテリアに砂糖などの栄養分をあたえることによって「インディカン」というインディゴの元となる前駆体(化学反応などで、ある物質が生成される前の段階にある物質)を酵素的に分泌するようにプログラムする技術を開発した。
「染料は、消費者にとって服のなかで最も目につく部分である〈色〉を司るもの。現在の合成染料の危険性を消費者がより理解できるよう促せば、私たちの新しい染料の市場がきっと成長していけるだろうと期待しています」
微生物と砂糖が生み出したインディゴのクオリティは、一般的に使用されている合成染料とほとんど遜色ない出来栄えだという。また、染料を使用する染色工場への導入・普及を目指し、工場が使用している従来の染物の機械の一部をそのまま入れ替えるだけで簡単にサステナブルな染料を放出できるようなプロトタイプを試験中だ。
(出典:Huue Official Website)
バイオ技術で色産業に革命を
「自然はもっとも偉大な芸術家です。だから、私たちはバイオテクノロジー(生物×技術)によって、地球の未来を形づくる産業のために世界でもっともサステナブルな染料を作っているのです」
そんなHuueのコンセプトに共感する人は多く、同社はすでにインディゴ染色企業のインディゴ・ミル・デザインズなどと協力し、テストを実施している。また、デニムの第一人者と呼ばれるアドリアーノ・ゴールドシュミット氏をアドバイザーに招いてさらなる改良に邁進している。
世界でもっとも地球にやさしいブルーでデニムを染めるHuueだが、インディゴはほんの序章にすぎない。これからさらにバイオテクノロジーを応用させてほかの色素を生み出せるよう研究を進めていくつもりだという。見た目のクオリティはそのまま、さらに工場ラインもそのままで染料を変えるだけでいいのだから、大きな変革はそう遠くない。
ブルーのみならず、衣服のさまざまな色を新たにつくることでより地球にやさしい服を生み出していく。Huueの「色産業を再発明する」は躍進中だ。
—————
All Image via Huue.
Text by Rin Takagi
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine