個人情報「今日の体温」。パンデミック生活と、セキュリティのための新たなIDとプライバシー

スタートアップの活動や新しいプロジェクトから読みとく、バラエティにとんだいま。HEAPSの(だいたい)週1レポート
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新しいプロジェクトからは、バラエティにとんだいまが見えてくる。ふつふつと醸成されはじめたニーズへの迅速な一手、世界各地の独自のやり方が光る課題へのアプローチ、表立って見えていない社会の隙間にある暮らしへの応え、時代の感性をありのままに表現しようとする振る舞いから生まれるものたち。
投資額や売り上げの数字ではなく、時代と社会とその文化への接続を尺度に。新しいプロジェクトとその背景と考察を通していまをのぞこう、HEAPSの(だいたい)週1のスタートアップ記事をどうぞ。

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パンデミックの発生とともに、さまざまな常識やルールが変わり、また生まれた2020年。互いの安全と健康を保つため、公共の場において、“互いに把握し把握されるべき”とされる情報がくわわった。感染有無の判断要素の一つ「体温」だ。

いまや人の体温は、人の体というプライバシーに結びつくたんなる個人情報ではなく、セキュリティチェックの一つの項目となっているようだ。

新公式:顔認証+熱感知=信頼性

 世界の日常に、最近新しい光景が見受けられる。ビル入館時、スーパーなどの店舗や飲食店の入店時に「おでこにピッ」。新型コロナウイルス感染症対策として、各施設や機関が検温を導入することが一般的になっている。筆者が住むニューヨークでは露店商が盛んなのだが、先日、ハイブランドのバッグ(の紛い物)に混じって、「ピッ」のスピード体温計が売りさばかれていた。

 たんに検温器を備えるだけでなく、もとから導入していた「顔認証システム」などのセキュリティシステムに「検温機能」をくわえたシステムも発達中だ。日本を代表する電機メーカーNECや、中国のテクノロジー会社Fotric(フォトリック)が、顔認証と体温感知機能を合体させたデバイスを開発している。
 そのなかでも、米国カリフォルニアのスタートアップKogniz(コグニッツ)が開発したコグニッツ・ヘルス・カムは「コロナ禍の従業員たちを守るもっとも総括的なプラットフォームを作っています」という。もともとこのヘルス・カム、恐るべき高性能セキュリティシステムの搭載を自負しているスタートアップで、建物内の一人ひとりの活動も分析しクラウドベースで管理・追跡していたのだが、今回、パンデミックに適応するため、熱感知機能を追加したのだ。
 外気温が高くても低くても“正確な”体温を測ることができる。正確な、というのは、いままでのサーモグラフィーカメラは、皮膚の温度のみを検出するに留まり、体内部の温度は検出できていないそうで、通常、皮膚の温度と内部の温度では数度の誤差がある。ヘルス・カムはAIを駆使して、同じ空間にいる複数人の体温を考慮に入れてベースラインを作成し、人々の顔のさまざまな部分から測定値を取得し、その誤差を削減しているという。



(出典:Kogniz Official Website

 その他の“コロナ対策機能”にも抜かりがない。人が密集しているスポットを感知し、管理者に知らせるソーシャル・ディスタンス・アラート機能や、マスクなどの個人用防護具を着用しているかどうかを検知できるマスク・ディテクション機能。陽性の疑いのある人を感知した場所を検知し報告、すばやい消毒へと導いてくれるエクスポージャー・ディテクション機能など、従業員の安全と健康を守るため、顔認識と熱感知の究極のシステムを完備している。

体温は、個人情報ではない?

 米国ではビジネスが再開されるにつれ、多くの企業が従業員の健康状態を監視するため熱感知カメラを買い求めているという。コグニッツ創立者のダニエル・パッターマン氏も「とにかくたくさん売れています」と話す。

 ここにきて、プライバシー擁護者からある声が上がっている。「顔認識と熱感知ができるカメラを使用することは、プライバシーの侵害ではないか」。確かに自分の健康や身体のことは個人のプライバシーともいえる。パッターマン氏の答えはこうだ。

「体温が個人情報だって? 僕はそうは思えませんね。もし自分のことを完全に誰にも明かしたくないならステイ・ホームしてください、というところまできてしまいました」

 いまや、自分の身体のコンディションが、たまたま近くにいる赤の他人のコンディションにいともたやすく大きな影響をあたえてしまうことが証明されてしまった。自分をそして他人のセキュリティを守るため、自分の顔やIDといった個人情報とともに、体温を提示しなければならない時代になっている。これからさらに、一体私たちのどんな情報が「安全のために、互いに把握し、把握されるべき」として開示を求められていくのだろうか。

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Eyecatch Image by Midori Hongo
Text by Aya Sakai
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine

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