着けなきゃ、じゃなくて「着けたいと思えるマスクを作る」“空気と安全な生活”を考えてきたメーカーの答え|CORONA-XVoices

コロナウイルスの感染拡大の状況下で、さまざま場所、一人ひとりのリアルな日々を記録していきます。
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2020年早春から、世界の社会、経済、文化、そして一人ひとりの日常生活や行動を一変する出来事が起こっている。現在160ヶ国以上に蔓延する、新型コロナウイルスの世界的大流行だ。いまも刻々と、今日そのものを、そしてこれからの日々を揺るがしている。
先の見えない不安や混乱、コロナに関連するさまざまな数字、そして悲しい出来事。耳にし、目にするニュースに敏感になる毎日。

この状況下において、いまHEAPSが伝えられること。それは、これまで取材してきた世界中のさまざまな分野で活動する人々が、いま何を考え、どのように行動し、また日々を生活し、これから先になにを見据えていくのか、だ。

今年始動した「ある状況の、一人ひとりのリアルな最近の日々を記録」する連載【XVoices—今日それぞれのリアル】の一環として、〈コロナとリアリティ〉を緊急スタート。過去の取材を通してHEAPSがいまも繋がっている、世界のあちこちに生きて活動する個人たちに、現状下でのリアリティを取材していく。

※※※

今回はある「企業」にフォーカス。2年ほど前にHEAPSでも紹介した、スウェーデン発の〈マスク〉スタートアップ「エリナム(Airinum)」だ。

エリナムのミッションは、「深刻な大気汚染への人々の意識を喚起させること。誰もがきれいな空気にアクセスできるようにするための市民運動を起こしたい」。中国を皮切りに、インドなど、世界の大気汚染を抱える国・都市での“アーバン・マスク”が需要を伸ばすだろう——そのような予見から、エリナムのみならず、米国や欧州でマスクスタートアップが続々と登場していた。

2年経ったいま、大気汚染とは別の理由で、世界中でマスクが日常必須アイテムとなるとは誰も予想だにしなかっただろう。いまやマスクは、命の脅威となるウイルスから自分の身を守り、他者の身を守る物理的なアイテム、そしてエチケット、相手を安心させる精神的なアイテムとなった。ウイルス撲滅の目処が立たないいま、この先数年は、人が集まる公共の場には必ずマスクをして行く習慣が続くと予想される。
新型コロナウイルスが発生・感染拡大してから、マスクのスタートアップは、どのように考え、どのように行動し、消費者との関係を続けているのか。エリナムの共同創始者、アレクサンダー・ヘジャートストローム氏に、エリナムのマスクの需要と、ブランドとしての姿勢、そして未来のマスクについて話を聞いた。

※※※

HEAPS(以下、H):まずは、エリナムが生まれたスウェーデンの状況について少し聞きたいです。スウェーデンは、ロックダウン(都市封鎖)をおこなわないという独自路線で、昼間のカフェにも人があふれているという、ちょっと信じられない光景をニュースで見たことを覚えています。

Alexander(以下、A):このパンデミックは、スウェーデンに多大なる影響をあたえました。自主隔離を含め、政府としての厳しい規制をおこなってはいないものの、不必要な集まりごとを避けること、またソーシャルディスタンシング(人と人との距離をあけること)の意識は国民に植えついたと思います。自己防衛もです。公共の場で、マスクをしている人を見かけることは、まったく珍しいことではなくなりました。

H:スウェーデンの国民の意識も変わってきたのですね。さて、エリナムは、マスクのスタートアップ。コロナ状況下で、エリナムのマスクの売れ行きに変化はありましたか。

A:ウイルスの感染拡大が世界中に広まってから、需要は急上昇したといえます。ただ、エリナム創業の2015年当初から、消費者のマスクに対する認識は変化していますね。エリナムの製品について興味を持ち、マスクを着用することによる健康上の利点を多くの人が理解してきています。

H:エリナムのミッションは、「人々の深刻な大気汚染への意識を高め、みんなにきれいな空気を吸ってもらうこと」。

A:エリナムの長期的なビジョンは「人々に安全な空気を吸ってもらい、人々のもっと健康的な生活実現を手助けすること」。ウイルスが発生したあとも、このビジョンは変わっていません。自分たちがなにを吸っているのかを自覚し、なにを吸いたいか、吸いたくないかをコントロールしたい人々へ、革新的な製品を届けること。その“吸っているもの”が、空気中の有毒な埃であっても、バクテリアであっても、ウイルスであっても、そのほかの有害な物質であっても、です。


H:エリナムのマスクが、ウイルスの感染防止に使用される可能性も視野にあったと。

A:伝染病とは、ウイルスや細胞が変異し、段階的に展開していくもの。伝染病は、“もしかして発生するかも”ではなく、“いつ発生するのか”が、問題となります。ビル・ゲイツはかつてこう言いました。「伝染病は避けられないが、感染爆発は妨げられる」。エリナムも創業当初から、これ(伝染病)については念頭においていましたし、このような状況下でマスクがもたらす影響力というのは認識していました。インフルエンザの時期に、エリナムのマスクを選ぶユーザーが増えたこともありますし。

H:エリナムのマスクは、“世界一進化したマスク”をうたっています。構造は、5枚のフィルターの層から成り、それぞれのフィルターが、ガスや異臭、花粉、アレルギー、バクテリアなど、さまざまな大きさの粒子を取り除く。コロナが流行りだしてから、製品をアップデートしたり、新製品を開発したりしましたか?

A: 保健機関のニュースや新しい研究結果など、最新情報を随時キャッチし、ウイルスそのものについてや、そのウイルスが人々へどんな影響をあたえるのかを調べています。製品については、特になにも変えていません。が、新製品を開発しようと考えてはいます。

H:エリナムのユーザーについて知りたいです。どこの地域からのオーダーが多いですか。

A:当初は、中国や近隣国からの需要がほとんどでしたが、3月に入ってから、欧州と米国からの注文も急騰しました。いまや、世界中のみんながマスクを手に入れたいと思っています。また、マスクの使用頻度も増え、感染防止を完璧にしたいという願いから、高品質なマスクにお金を費やすのをいとわない人が増えてきている印象です。

H:エリナムのマスクも75ドル(約8,000円)から250ドル(約26,000円)と、高めです(現時点ではすべて完売、プレオーダーの状態)。それでも、毎日使うアイテムだからお金を惜しまないと。ユーザーからの反応はいかがでしょう。

A:とてもいいです。これをつけて買い物に行こうと思い立つ人もいますし、一般的なマスクより私たちのマスクを好んでくれる人もいます。マスクを初めて買うユーザーは、フィルターの効率性はどうなのか、再利用可能なマスクを買うことはサステナブルなのか、ということを気にかけています。

H:マスクを買うとき、使い捨てマスクにするか、再利用可能なマスクにするか、正直迷います。

A:まず、知っておきたいのは「マスクを着用する=病気にならない」ではありません。ウイルスは、目を通しても伝染しますし、エアロゾル(空気中をミストのように浮遊する)としてもマスクを貫通することもあります。しかしながら、マスクはコロナウイルスの主な感染経路である“飛沫”をキャッチすることができる。マスクを着用していた方が、なにも着用していないより、5倍も防止確率があがるという研究もあります。



H:これからも、当分のあいだマスクの需要は増え続けると予想されます。マスクの価値について、そしてエリナムはその価値をマスクスタートアップとしてどう高めていきたいですか。

A:マスクは、人命を救うこと、感染拡大スピードを落とすこともできることから、付加価値の高い製品であります。今回のパンデミックが原因で、人々のあいだに、自分が「どんな場所(たとえば、飛行機や公共交通機関など)で」「なにを吸っているのか」を自覚しようという意識が芽生えました。それによって、行動も変わってきています。
私たちは、信頼できるマスクブランドとしてナンバーワンでいたいです。マスクの競争が激化して、エンドユーザーのために、さまざまなマスクの品質がよくなることへの期待もしていますよ。さまざまな機能も搭載されると思いますし。

H:現代社会に生きる“私たちの生活を守るマスク”を作りつづけてきたエリナムが考える、未来のマスクのかたちを教えてください。

A:世界のみんなが持つ「マスクに対する見方」が変わると思います。“負”のイメージではなく、健康を守るアクセサリーとして捉えられるような。「着けなきゃいけない」と思わせるのではなく、「着けたい」と思わせるようなハイクオリティな、“ライフスタイルアイテム”。そんなマスクを作りつづけたいと思います。

Interview with Alexander Hrjertström, CEO & Co-Founder of Airinum

エリナム/ Airinum

2015年、スウェーデンで創立したマスクのスタートアップ。共同創立者のアレクサンダー・ヘジャートストローム氏が、大気汚染が深刻なインドで持病の喘息が再発してしまったという自身の出来事をきっかけに、マスク産業に着目。市場に出回るマスクの機能とデザイン性を刷新するようなマスク作りに着手した。環境問題にも積極的に取り組んでおり、売上の一部を、大気の質向上に取り組む環境イニシアティブへ寄付している。

Instagram: @airinum

All Photos via Airinum and @airinum
Text by Risa Akita
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine

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