パタゴニアやザ・ノースフェイス、L.L.ビーン(創業者の孫娘がトランプ支持の政治団体に献金をしたことが報じられ不買運動が起きているが…)、をはじめ、米国には押しも押されもせぬアウトドアブランドブランドが存在する。これらは国内はもちろん、海外にも巨大なマーケットを持つ大企業だ。
ここに参入していくのは非常に困難なのだが、「パタゴニアやノースフェイスに対抗しうる、唯一の新興アウトドアブランド」として注目を集めているブランドが出現。米国ユタ州のソルトレイクシティを拠点とする「Cotopaxi(コトパクシ)」だ。
Photo by Chris Brinlee
パタゴニアも、そろそろ45歳か…
「最近の若者は、アウトドアに興味がない、もしくは、お金をかけたくないのか?」。パタゴニアやザ・ノースフェースは米国の若者、ミレニアル世代を巻き込むことには苦心していた。
いや、そんなことはない。大企業が獲得しかねていたミレニアルズからの支持を集めることに成功したのが、新しいアウトドアブランド「COTOPAXI(コトパクシ)」だ。
「パタゴニアやザ・ノースフェイスは、『利益追求』と『フィランソロピー。サステナブルな社会の実現に向けたCSR(企業の社会的責任)』を両立したすばらしい企業だと思う。ただ、どちらも創業から、45年近い年月がたっている」。
だから、僕はもっとミレニアルズの価値観に寄りそった、次世代のアウトドアブランドを作りたい。次世代のアウトドアブランド「Cotopaxi(コトパクシ)」のCEO、Davis Smith(デイビス・スミス)はそう話す。
2013年に米国ユタ州のソルトレイクシティを拠点に創業。カラフルな「Luzon Del Día(ルソン・デル・ディア)」シリーズの一点モノのバックパックは、日本でも人気だとか。
とはいえ、ファッション性が高いからミレアルズに人気、というわけではない。ミレニアルズの心をつかんだ大きな要因は別にある。
Photos by Chris Brinlee
ファンが育てるアイドルならぬ、「ミレニアルズが育てるリアルなブランド」
コトパクシは、商品を作って売るだけではなく、体験型のアドベンチャーイベント「Questival(クエスティバル)」を手がける。クエスト(探求、冒険)とフェスティバルを合わせたクエスティバルは、冒険好きの仲間たちとチームになって「ずっとやってみたかったこと」にチャレンジする「24時間、アドベンチャーレース」だ。若い消費者が求める「ブランドを一緒に作り、関与し、経験したい」という欲求に寄りそったイベントは、フェスであると同時に「宣伝」の役割を果してきた。
Photo by James Roh
2014年、まだ無名に等しかったコトパクシが、イベントの告知にまず何をしたか。
「クレイグスリスト(クラシファイドサイト)で一匹のリャマを購入しました」。そして、そのリャマを連れて米国各地の大学キャンパスを行脚。これで、初回イベントには学生を中心に「4000人以上が参加した」という。
参加費35ドル(約3850円)を払うと、もれなくチケットとコトパクシのバックパックが貰え、それを背負って仲間と冒険へ出る。チャレンジする内容は「スープキッチンでボランティア」「山登り」「川下り」など100以上のリストから選択可能。また、それぞれのチャレンジには採点もされ、その基準には「目標達成できたか」はもちろん、それぞれのグループがチャレンジする様子を、自撮り&グループ撮りし、オンタイムに投稿したインタグラムの写真も含まれる。投稿数というより、どれだけ「クリエイティブか、楽しそうか、臨場感があるか」などがポイントらしい。
実際のクエスティバル。楽しそう。 Photos by James Roh
と、まぁ、ミレニアルズの感度に合う要素がてんこ盛りだということが言いたい。クエスティバルは現在、全米各地で行われ毎年規模を拡大し続けている。これは、コトパクシのフィロソフィーが広がっていることを意味する。イベントに参加するということは、ブランドを体験するということであり、ブランドをサポートすることでもある。そして、楽しい経験をした参加者(=顧客)は、ブランドへのロイヤリティを高める、という好循環が築かれている。
値段に納得できるストーリーを
アウトドアブランドは長い間、新素材やより高性能なギアの開発など、テクニカルな部分に注力し、競い合っていた。しかし「機能性だけで勝負する時代は終わりです。値下げの競争もです」とスミス氏。若い消費者がモノに求めるのは「ストーリー性」だと説く。
モノがそれなりの値段なのにはワケがある。「だとすればそのワケ、つまり、それは誰の、何のために役立つ、という明確なストーリーを消費者に伝えて納得してもらえばいい」。
たとえば、前述のバックパックは、すべてフィリピンで手作りされている。コトパクシは、どんな人が、どんな環境で、どう作っているかや、売り上げはどう使われるのかといった、明確なソーシャルインパクトを提示している。さらに特筆すべきは、カラーパターンは現地の職人たちのセンス、裁量に任されていること。「職人たちが幸せか、仕事を通して自信をつけてくれているかは、ブランドにとって重要なこと」
Photo by Chris Brinlee
前例や先輩のアドバイスは、「無視して正解だった」?
コトパクシのスローガンは “Gear for Good”(ギア・フォー・グッド)。冒険に出かけたくなるハイクオリティのアウトドアギアを通して「貧困に苦しむ人々を救う」ことをミッションとし、社会をもっと良くする「ソーシャルグッド」に真剣に取り組む。
どのくらい真剣かは、コトパクシが創業当初から「ベネフィット・コーポレーション」であり、「Bコーポレーション」も取得していることがよく物語っている。
「ベネフィット・コーポレーション(2013年取得)」と「Bコーポレーション(2015年取得)」、どちらも簡単にいえば、経済的利益だけではなく社会的利益も積極的に追求する「ソーシャルグッドな会社印」。
Photo by Chris Brinlee
だったら、取得しない手はない!と思いきや、“先輩” 起業家たちからは「投資家がつきにくくなるから、ビジネスが軌道に乗るまで取得しない方がいいアドバイスされた」そう。
経済的利益より「社会貢献」をアピールすると、投資家がつきにくくなる(投資家の利益追求は、法の上である程度制限されるから)という、スタートアップ企業には痛いスティグマ。
実際、コトパクシが掲げる「人を助ける」の理念に疑問を持つ投資家は少なくなかったという。
「ノンプロフィットではないのに、なんで人助けなの?」「アウトドアのブランドだったら、パタゴニアみたいな大自然の絶景を守るとか環境保護じゃないの?」。また、「巨大かつ老舗アウトドアブランドが存在する米国で、新興ブランドが実店舗も持たずに太刀打ちできるとは思わない」とも。
しかし、結果的には「先輩のアドバイスは無視して正解だった」とスミス氏。「ベネフィット・コーポレーション」と「Bコーポレーション」認定を取得したスタートアップ企業でありながら、ベンチャーキャピタルなどから異例の9.5ミリオンドル(約10億4500万円以上)以上を集めることに成功。
決め手は、コトパクシが、従来のアウトドアブランドにはない「次世代の消費者を惹きつけられる可能性のあるブランドだから。可能性に説得力を持たせるキーとなったのが『認定』です。これが投資家の信用、また消費者の信用を獲得することにつながりました」。
「環境問題や貧困を解決するには、いままでのようにノンプロフィットや政府だけの力では、間に合わない。ビジネスという大きな力で、より多くの人を巻き込んで、世界を変えていきたい」。
コトパクシのようなブランドや企業が増えれば、「お金を使う」という概念は今後、確実に変わっていくだろう。変えていくのは、もちろん「ミレニアルズや若い世代です」。
Cotopaxi
Photo by James Roh
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Photos via Cotopaxi
Text by Chiyo Yamauchi