2015年、“彼ら”の数はおよそ6億6000万人。2025年には地球上の3分の2が“彼ら”に該当するといわれている(国連調べ)。彼らとは、安心安全な飲料水が手に入らない「水難民(みずなんみん)」だ。
元世界銀行副総裁は「20世紀は石油をめぐる戦争の時代だったが、21世紀は水をめぐる戦争の時代になる」と予言し、現在水不足への対処は地球規模での命題。ただこの重篤すぎる課題を前に嘆くばかりでは何もはじまらないと、テクノロジーで水不足を解決しようと立ち上がるスタートアップが世界中で続々と登場しているのも事実だ。
南米・チリを拠点に活動する「FreshWater(フレッシュウォーター)」もその一つ。同社が開発したのはなんと、“空気”から飲料水を生成する魔法のような装置だ。まずはその仕組みを簡単に説明。
1、大気中にある水分を取りこみ、装置内で雨雲を形成
2、そこで生まれた水を濾(ろ)過して飲める水を生成
→ ボタンを押すだけで、安心安全な飲料水が出てくる!
世界中のどこに行けども、水がないところはあっても空気のない場所はない。画期的なアイデアが生まれた背景には、開発者の実の娘の病があった。「生まれながらにして腎不全を患う娘にとって、チリの飲料水環境は適していませんでした」とフレッシュウォーターの生みの親、ヘクター。難病に苦しむ娘に安全な水を、との想いのもとたどり着いたのが、大気中の水分から飲料水を生成するという海軍などでも用いられていた軍事技術。その技術を、世界中のどこでも誰でも利用できるようにと目下奮闘中。チリ国内の水不足が深刻な貧困地や乾燥地帯ですでに装置のテスト済みで、今後まずは南アメリカ全土に普及させていきたいと話す。
実のところ、フレッシュウォータの他にも、自転車の風で水を作るペットボトルなど、“空気から飲料水”のプロダクトは誕生してはいるのだが、決して安いとはいえない値段(約2〜3万円)。先進国の高給取りなら痛くもかゆくもないが、水不足が深刻な発展途上国の人々にとっては到底及ばない代物だ。これでは逆に格差を生んでしまい、“平等な空気で平等に飲料水を”のモデルが崩れてしまう。発展途上国チリから生まれたフレッシュウォーターがこれからこの格差をどのようにクリアし、世界の水不足を解決する旗手となるのか要注目だ。
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All images via FreshWater
Text by Shimpei Nakagawa
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine