スタート時の従業員はたった三人。それが一年半足らずで月間ユニークユーザー450万人という驚異の数字を叩き出し、コカコーラやプリングルズなど大手企業がスポンサーに名を連ねる新興メディアがある。発足はアフリカ、人はこのメディアを「アフリカのBuzzFeed(バズフィード)」と呼ぶ。創業時すでにエンジェル投資家から110万ドル(日本円で約1億円*)を寄せ集めたことから、そもそも期待度は高かった。が、舞台はアフリカだ。地域によっては「まずはインフラ整備から・・・」。先進国とは勝手が違う広大な大陸で、末恐ろしいスピードで大手企業からの絶大な期待とミレニアルズからの人気を掌握し、新興メディアがあっと驚く急成長を遂げたワケ、知りたくないか? 世界が注目するメディアOMG Digitalにそのメディア運営の戦略について語ってもらう。
ミレニアルズによるミレニアルズのためのメディア
“アフリカのバズフィード”と形容されるそのメディア、どんなもんかとちょっと覗いてみた。
・「あなたが知るべき、ガーナのイケてる歴代戦士たち6選」
・「 ケニアでは、ビニール袋所持でムショ行き」
・「どデカふわふわアフロを手に入れる方法」
(言っちゃ悪いが)なんじゃそりゃ、である。ずらりと並ぶのはその土地に住む者でないとなにもピンとこないようなド級のローカルネタ記事。それでいて“黒人のナチュラルヘア”など、若い世代の琴線に触れそうなトレンドはしっかりおさえている様子。これが、いまアフリカ、いや世界が注目するミレニアルズメディア「OMG Digital(オーエムジー・デジタル、以下OMG)」だ。
「これまでアフリカのメディア業界は古典的な大手企業に支配され、主に政治や硬派なニュースなど堅苦しいもので埋め尽くされていた。ぼくらアフリカのミレニアルズのことを知り、語ることができるメディアは一つもなかったんだ」。存在しないのであれば自分たちで作ろうと、アフリカのミレニアルズ三人衆、ジェシー(30)、プリンス(29)、ドミニク(25)が立ち上げた。現在は、ガーナ、ケニア、ナイジェリアに個別コンテンツを配信する「OMG Voice(オーエムジー・ヴォイス)」とアフリカンフードを紹介するフェイスブックページ「ServePot(サーブポット)」を運営している。
左からドミニク、ジェシー、プリンス。
今回取材に応じてくれたプリンスに「企業、そして若者の心を掴んだOMGのメディア戦略は?」と投げかけると、その鍵は「究極のローカライゼーション」と「コンテンツ以上にディストリビューション重視」との答えが返ってきた。この二つのストラテジー、プリンスと一緒に読み解いてみよう。
①:コミュニティ構築で“ハイパー・ローカルポップコンテンツ”
OMGのセールスポイントは「ハイパー・ローカルポップコンテンツ」を作り上げる徹底したローカライゼーションだ。メディア立ち上げ前に米スタートアップ養成所*の狭き門をくぐり抜けたときから一貫してそこを推し、実現してきた。これは、各国その地に根ざした独自でポップなコンテンツ配信を行うことを意味する。
*米国シリコンバレーにある「Y Combinator(ワイ・コンビネーター)」。合格率は3パーセントと言われる。DropboxやAirbnbといった、名だたる企業を育てたことで有名。
「各国のミレニアルズが、何に興味があってどんなコンテンツが見たいかをわきまえている」。OMGでは展開する三ヶ国(ガーナ、ケニア、ナイジェリア)別に、ファッションやエンタメ、食など、どのトピックに注力したらいいかを把握し、究極のポップなローカルコンテンツ、つまりハイパー・ローカルポップコンテンツを配信する。
世界でもっとも多様な大陸とされ、アフリカ大陸内のトライブ(民族)は2500以上。それに加え、公用語は英語とフランス語が主なものの、母語を数えれば2100以上の言語で、国によって発展具合にも雲泥の差がある。大陸の外では「アフリカ」と乱暴にも横並べにしがちだが、「アフリカンミレニアルズ」と一つ括りに訴求を試みたところで、彼らには全く何も響かない。なので、各国のミレニアルズにはそれぞれ訴求していかなければならならい。
さらに、ただポップでもだめ、なんとなくローカルでもダメ。多種多様な各国のユーザーにとって何がローカルで何がポップなのかをユーザー目線で理解するため、彼らが力を入れるのはOMGと読者間のダイレクトなコミュニティ形成だ。配信コンテンツのいいね数など、読者のリアクション分析や欧米メディアのトレンドリサーチはさることながら、読者のコミュニティフォーラムをサイトに設け「読者の◯◯が読みたい」を集めている(フェイスブックアカウントさえあれば誰でもサインアップできる。ちなみにNY在住の筆者でも登録できた)。読者の意見を参考に、バズフィードやリファイナリー29など海外メディアを参考にトレンドを組み合わせることで、各国のアフリカンミレニアルズにドンズバな“ハイパーローカルポップコンテンツ”が誕生するわけだ。コミュニティ内では、読者がコンテンツ制作し投稿することも可能。OMGがいい!と思ったものは編集され、サイトに載る。読者は、アフリカ初のミレニアルズのためのメディアに、作り手として関わるという“参加”の充実感も得られるというわけだ。関わりが密接になって然りのシステムだ。
現在はチームも拡大。
②:Eメールレターよりスマホ通知「スマホ使用時に確実にアタック」
「いくら良質なコンテンツがあったとしても、人に届かなければなにも意味がない」。創業時は三人、当時からもっとも重要視しコンテンツ制作以上に注力してきたのがディストリビューションだ。現在、ウェブへのアクセスの約9割がスマホなどのモバイルデバイス。ちなみにほとんどのトラフィックはフェイスブックからのため、とOMGはフェイスブックからの流入はもちろんのこと、「ユーザーのスマホ使用時」に確実にアピールすることを必須とする。なので、Eメールのニュースレターではなく、ショートメッセージを使ったサブスクリプションや、アフリカンミレニアルズに人気のスナップチャットやワッツアップなどのSNSを駆使し新規ユーザーを獲得。
「ユーザーがくるのをただひたすら待つのではなく、こちらから向かっていくのが鉄則」と日々試行錯誤を重ねている。「広告主はOMGにたった一つ広告を打つだけで、各国のミレニアルズに確実にリーチできる」。ミレニアルズを獲得したい広告主たちにはオイシイ話でしかない。
年内には、南アフリカ、ザンビア、ウガンダ、タンザニア、そしてフランス語圏にも進出予定。またOMGヴォイスに加え、テックやジャーナリズム、女性に特化した新たなプラットフォームもつくっていくと話す。来年の春を目処に「アフリカ大陸最大のメディアになる」と勇みたっているプリンスたち。先述したが、これまでアフリカにはミレニアルズのためのメディアはなく、政治や硬派なニュースしかなかった。ミレニアルズを楽しませる、というメディアの目的ともう一つ、そこには「この大陸に住む、ミレニアルズの多くは未だ、自分たちの声を届ける場所がないと感じているんだ。ぼくらの使命はアフリカに住むミレニアルズに声を持ってもらうことだね」という、大きなミッションがある。声を持てば社会に影響力のある層になる。たった3人のミレニアルズからはじめったOMGがアフリカンミレニアルズの代弁者となるのか。
たった一年半足らずでアフリカ大陸最大メディアの冠に急速に近づいたOMGデジタル。ミレニアルズはアフリカ大陸に推定4億人以上だから、この急成長まだまだ爆進していきそうだ。さしあたり、私たちは彼らからミレニアルズ脳を駆使したメディア戦略を学んだようだ。
Interview with Prince Boakye Boampong from OMG Digital
All Images courtesy of OMG Digital
Text by Shimpei Nakagawa, edited by HEAPS
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine