右腕としての女性、ギタリスト。“アリス・クーパー”というステージで尽くす全力

火曜にバンドと初めて会って、水曜と木曜にステージでリハ。で、金曜がライブ初日。緊張する時間はなし。
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音楽誌のバンド紹介文でみかける「紅一点」。ある女性ギタリストは、いろんな意味で“超強靭な右腕”をつとめあげてきた。あの(これまたいろんな意味で)桁外れなアーティスト直属の、女性ギタリスト”だ。

“アーティストの右腕”としてのギター

 裸でガラス破片の上を転げ回って救急車で運ばれたイギー・ポップに慄いてはならない。同格にやりあえるとすると、ステージ上に投げ込まれた鳩を食いちぎったオジー・オズボーンくらいだろうか…(オジーは突然変異の遺伝子を持っているとの研究結果が明らかになった)。アリス・クーパー(71)という名のロックアーティストのこと。
 1963年から現役の“とんでもロックおじさん”。ステージには蛇や2メートルのフランケンシュタイン(操り人形)、死体(これも人形)、血まみれナース(これは人間)たちがウヨウヨ登場し、ギロチンで赤子の人形やマネキンの首を切断するなど過激なパフォーマンスが繰り広げられる。ロックミュージックとホラーなシアトリカルなエンタメを融合した“ショックロック”というキワモノなジャンルを確立。ホーンテッド・マンションとアダムスファミリーとナイトメア・ビフォア・クリスマスとビートルジュースを足して4で割ったようなステージで、魔物たちを操る暗黒サーカスの団長のようにステッキを振り回す。米国ではキャリア50年の国民的スターで、アリスといったら不思議の国のアリスではなく、断然アリス・クーパーだ。

 さて、今回はこのとんでも級ロックスターのアリスではなく….彼の強靭なる右腕にギラギラとライトをあてたい。ギタリストのニタ・ストラウスだ。2014年からアリスのバンドにジョイン、愛称は“ハリケーン・ニタ”。ギターサウンドは研磨したてのナイフのように耳をつんざき、ハリケーンの轟音のように鼓膜に重たく残る。各音楽誌の「知っておくべき女性ギタリスト10選」で1位。ちなみに、オーストリアのクラシック作曲家ヨハン・シュトラウス2世の末裔とのこと。弦を弾くべく生まれてきたようなギタリストだ。

 男性人口が多いギターの世界だが、ソロやガールズバンド、バンドメンバーとしての女性ギタリストは数多くいる。ただ、アリス級アーティストの右腕をしている女性ギタリストといわれると…途端に名前がでてこなくなる。
 アリスのツアーの合間、初のソロツアーをしていたニタさんに「世界的なアーティストの右腕に徹すること」について聞いてみたら、近所のロックなお姉さんのような気さくさで謙虚に答えてくれた。

※(この記事は2019年に取材・執筆したものです。なぜかお蔵にはいっていたので、引っ張り出しました…。)

Nita Strauss(以下、N):(ガチャ)ハイ、元気?

HEAPS(以下、H):ぬぉ、なんと本人直通ですか!

N:直接かけちゃった方が早いときは自分でかけるよ。調子はどう?

H:(ドキドキ)よ、良いです…! 日本でのニタさんのファンを増やしたいと思っていました。

N:アリガトゴザイマス(照れながら)。

H:あ、ドウイタシマシテ(照)。ソロギタリストとしての活動も聞きたいですが、アリス・クーパーの女性ギタリストという、スーパースペシャルな肩書きにチューニングしたいと。

N:うんうん、いいね。

H:ギターの弦を買い求め楽器店に出入りするようなティーン期を過ごしたそうですが、その頃から将来はこんなギタリストになりたい、このアーティストと共演したい、なんて夢はあったんですか?

N:やりたかったことはただ一つ。ギターを弾くこと。これだけだったな。自分の曲でもいいし、誰かが書いた曲でもいい。なにを演奏するかはあまり気にならなくて、とにかくギターを演奏するのが好きだった。

H:「お前の弾きたいものを弾け」、ザック・ワイルドを彷彿とさせる魂です。十数年後、アリス・クーパーというメガトン級ロックスターのギタリストになるとは想像していましたか?

N:夢の夢だよね。部屋の壁に貼られたアリス歴代ギタリストたちのポスターに四方を囲まれながら育ったんだから。

H:アリスのライブ、初体験は何歳?

N:実はアリスのギタリストになるまで、彼のライブを観たことがなくて。だから、彼のライブのオーディエンスに未だになったことがない。

H: ライブの観客になる前にライブの演者に…!すみません、ちょっと取り乱してしまいました。キャリアスタート時には、女性のみで構成されるアイアン・メイデン(英大物メタルバンド)のカバーバンドに在籍していたそうですね。他のギタリストにない、自分のギタリストとしてのセールスポイントはどこにありましたか?

N:どんなにギャラが安いライブもすすんでやったし、自分の曲を演奏できないとやだ、なんていうエゴもあまりなかった。ステージに立って、抱えているギターを弾く。これだけでよかったんだ。で、それを実践したというわけ。

H:そうしていたら、2014年、27歳のときアリスのギタリストに抜擢。なぜこの座につけたのだと思いますか? もちろんニタさんのギターの腕が一番の理由ですが。

N:うーん、業界内の「いい評判」じゃないかな。信頼できるギタリストだ、っていう。時間通りに現れて、いい演奏をして、曲を早く覚える。結局、これが求められているものだと思う。

H:実直です。

N:曲を正確に弾くだけじゃなくって、たとえば、人とうまく渡り歩くことや、ツアーメンバーやクルーに敬意をもって接するとか他のいろいろな要素があるじゃない。私は、そういった求められている条件にあてはまったみたい。よかった(笑)

H:ステージ上では魔物のような風貌のアリスですが、最初に会ったときはどんな人だと思いましたか?

N:アリスは誰でも歓迎するような人。やさしいし。一緒にいるだけでたのしい。人好きもするから、ファンから他のミュージシャン、バンドメンバーまで、会う人会う人と仲良くなれる人。

H:初めてのセッションはどんな感じでしたか。

N:初めての練習は、ツアー中だったんだ。月曜にツアーがキックオフして、火曜にバンドと初めて会って、水曜と木曜にステージでリハ。で、金曜がライブ初日。緊張する時間すらなかったし、練習しながら曲を覚えていったという。

H:出会ってからライブまで、高速スピードっすね!

N:そう。だから「いつでもかかって来い!」の構えじゃないとね。

H:バンドに加入するまでアリスの曲を弾いたことは?

N:エアロスミスやボン・ジョヴィなんかの80年代のロックを演っていたカバーバンド時代、アリスの『ポイズン』という曲をプレイしていた。昔は小さなバーで30人のお客さんを前にこの曲を演奏していたのに、いまやスタジアムで3万人の観客の前で演奏しているんだから、信じられないよね。

H:2018年のアリスのニューヨーク公演で、ニタさんの演奏を初めて観ました。アリスを引き立てつつ、ニタさんファンを喜ばせるような超絶技巧盛りだくさんで。ソロでの演奏するときと、モンスター級のバンドのギタリストとして演奏するとき、なにが大きく違いますか?

N:もちろんのことながらソロでは自分が主役だけど、アリスのライブでは、私はアリスのサポート役に徹する。全力を尽くしてアリスのライブを完璧なものにできるようサポートして。

H:彼のために演奏するときは、あくまで助演に回りながらも自分のギタースキルやギタリストとしての個性を目立たせる。ニタさんは、このバランスを取るのが巧妙だと思います。

N:バランスがすべてだと思う。ソロなら自分の好きなようにできるけど、アリスのライブは、彼を頂点へ押し上げるように設計されている。で、ラッキーなことに、ギタリストのパンチあるパフォーマンスが、その押し上げる力になるわけ。

H:ド派手ながらも緻密な計算で設計されているライブですから、衣装やパフォーマンスについて、ああしてくれこうしてくれと、指示はなかった?

N:まったくなかった。というか、まだそんなことは起こってない(笑)

H:一番アドレナリンが放出するときはいつでしょうか。

N:ステージの幕が上がる瞬間かな。観客席から歓声がどっと溢れるときに、私の血が騒ぐ。ロック史のアイコニックな曲を、その曲を書いた本人と同じステージで演奏できる。

H:そういえば、女性ギタリストで世界レベルの大御所アーティストの専属ってあまり聞いたことがないです。アリスに限っては、ニタさんの前にはオリアンティという女性ギタリスト(マイケル・ジャクソンの『THIS IS IT』でプレイしていた)を抜擢していましたが。

N:彼は、女性のギタリストがもつダイナミックさが好きなんだと思う。アリス・クーパーのショーは、エンターテインメントがすべてだから。

H:紅一点という言葉が昔から使われているように、女性ギタリストがいると華やかになりますが。なぜ、大御所アーティストの女性ギタリストってあまりいないのでしょうね。

N:ただ単に、新しいシーンなんじゃないかな。誰かがそう望んでいる、いない、ではなく。国内外で成功したバンドで演奏したことのある女性ギタリストが少ないという、数字があるという。最近は、女性ギタリストも台頭してきているから、期待しているんだ。

H:自分が大御所アーティストの“女性”ギタリストであるということについては、なにか特別な意識はありますか。

N:世の女性ギタリストに対して「私ができるんだからあなたもできる」と伝える使命感はある。これまでも、ジェニファー・バトゥン(ジェフ・ベックやマイケル・ジャクソンのリード・ギタリストを務めた)がいて、次にオリアンティがいて、そしていま私がいて。“女性”ということにこだわらず、我武者羅に奮闘するのみ。

H:ギタリストといったら、男性というイメージはいまの時代でもありますよね。

N:たとえば男性ギタリストがステージに上がったとき、観衆は「このギタリストは演奏があまり上手くないだろう」とは思わない。でも女性ギタリストだと、そう思われることが多い。利点がある欠点があるというのではなく、男性ギタリストとは“違う”ということ。なにが言いたいかというと、女性ギタリストのシーンには、もっともっとひらかれるべき部分が残っていると思う、ってこと。

H:ギタリストとして、パフォーマーとして、人として、アリスからなにか学んだことはありますか?

N:謙虚であること。

H:アリス・クーパーと謙虚。ステージの暴れっぷりからは、想像がつかない。

N:彼はファンがやって来たら、絶対に彼らと交流する時間をつくる。ゴルフをしていても、ご飯を食べていても。忙しくても忙しくなくても。絶対にその手を止めてファンと接する。50年間ロックスターをやってきて、ずっと謙虚。これが彼から学んだ一番大切なこと。

H:野暮な質問ですが、ケンカもしたことない?

N:ない。一度も。上司と喧嘩なんてそうそうしないでしょ?(笑)ケンカする火種がない。

H:ニタさんは、2018年に初ソロアルバムをリリース。制作費はクラウドファンディングを集めて。ソロツアーにはサポートギタリストもいましたね、ライブでも彼の演奏は目立っていました。

N:私自身、アリスのステージでもソロ演奏をする機会をもらってきたから、私のサポートギタリストにも同じ機会を与えたくて。アリスのライブで得てきたスポットライトを私のバンドのみんなにもね。

H:ソロ公演は満員御礼。「ニタ・ストラウス=アリスのギタリスト」というイメージは乗り越えたいところ?

N:自分自身の曲をリリースし続ける、っていうのはしたいね。第一にアリスのギタリスト、第二に自分のソロ活動。まだまだアリスのギタリストとしてやり続けるよ! アリスたちや他のメンバーが私にいて欲しい限りね。

Interview with Nita Strauss

Photo by Kana Motojima
Text by HEAPS
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine

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