「水をやる必要もなく、自分で育ちます」サボテン大国メキシコ生まれ。生命力ゆえのやさしい素材〈精彩のサボテンレザー〉

サボテン、ヴィーガンレザーになる。黒くシックな華を咲かせる。
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水をあげずともムクムクとたくましく育つ多肉植物、サボテン。このサボテンが全土に生えている国、メキシコ。世界で一番、サボテンが生息している国。
このサボテンが新たな分野で注目を集めている。環境汚染に最も遠いヴィーガンレザーとして、かつてないポテンシャルを秘めているというのだ。

サボテン大国。そこらじゅうに生えるサボテンが秘めていた可能性

 ビーチ、タコス、麻薬組織。テキーラ、ラテン音楽、陽気なおっさん(あっ。そしてプロレス)。メキシコといえばだいたいこんなイメージ。そして、いつだってそこにある〈サボテン〉。メキシコは、サボテンの生育数が世界一の国。世界には約1,400種類のサボテンがあるとされており、そのうち669種はメキシコで発見され、518種はメキシコ固有のもの。自他共に認めるサボテン大国なのである。食用も多くあり、トゲを削れば生でも食べられるらしい(粘りがあり、少々の酸味を効かせたあっさり味)。メキシコでは家庭料理やストリートフードにも重宝されているんだとか。食べてみたい。そして、新たに秘めていた意外な可能性というのが、ヴィーガンレザーとしてのポテンシャル。サボテンのとげとげスパイクとレザーのイメージ、なんとなく相性はいいな、うん。

 ところで、ヴィーガンレザーとは。サボテンから作られることからなんとなく察したと思うが、動物の皮から作られる「本皮」に対して、別の素材から作られるレザーのこと。ファッション界の必須アイテムである本皮が、動物愛護の観点やヴィーガン志向、環境問題への意識拡大によって疑問視*されるなか、このヴィーガンレザーへの需要は高まり続けている(グローバルの市場規模は2025年までに90兆円に達する見込み)。

*食用のためにと殺される動物の皮革を副産物としてエコの観点から革製品とする企業やブランドもある。近年の環境観点からの問題点には、皮革を精製する過程で利用される化学物質が環境汚染に繋がっているという指摘もある。


 高まる需要の中で、ヴィーガンレザーへの期待も複雑化している。化学繊維やポリウレタン樹脂から作られる人工皮革に対しては、「プラスチックの使用」についてが問題視されるようになった。対してさらに需要を伸ばしているのが、自然由来のレザー。これまでに、バナナの茎の繊維からできた「バナナレザー」や、パイナップルの葉の繊維から作られた「パイナップルレザー」、そして近年あらゆる分野で大活躍中のキノコ(菌糸体の繁殖力を利用)の「キノコレザー」などが登場している。

 そして、ヴィーガンレザー市場の新星こそ、サボテンから生まれる〈サボテンレザー〉なのだ。メキシコ発のスタートアップ「Desserto(デザート)」が開発。創業者は、メキシコ人の男性2人組。自動車業界のレザー部門で働いていたエイドリアンと、ファッション業界で働いていたマルテ。サボテンを選んだ理由は。「サボテンは水をやらなくても勝手に育つし、いたるところに生えているメキシコのシンボルだからね」。


左がエイドリアン、右がマルテ。

 これまでのヴィーガンレザーのなかでも、“もっとも大気汚染から遠い素材”の一つといわれるゆえんは、自生であり、育てるのに水を必要とせず、つまりは生産のための施設を必要としないため、栽培のエネルギーが限りなく抑えられること。資源枯渇の心配も少なく、持続可能な生産の実現が見込める。

 環境観点で突出しているサボテンだが、純粋に素材としてもこれまでのヴィーガンレザーのなかでもピカイチだとその評価は高い。分厚く頑丈なサボテンは、本革の質感を再現するのに最適で、その仕上がりは本革に見劣りしない。柔軟性と通気性にも優れ、少なくとも10年は使えるという。これまでのヴィーガンレザーは耐久性に難ありのものが多く、この点をクリアしたのも大きい。昨年10月には、ミラノの世界最大級の皮革見本市「リネアペレ」に出展して話題をさらう。素材の手触りや柔軟性、色味などが抜群によく、展示された“持続可能な素材”のなかでも、高級ブランドでの使用にも最も適すると好評を博した(現在世界中から注目を集めている)。気になるお値段はというと「本革と同じくらいか、少々高価」だそうだ。



サボテンを、3日間の天日干しに

 気になるのがサボテンがレザーに変身するまでの工程。2年間の研究の末に辿り着いたというサボテンレザーの作り方を聞いてみた。

1、サボテン栽培場で栽培されるウチワサボテンの成熟した葉のみを収穫(本体は切り倒さないため、再び成長を待てば葉の収穫が可だ)。丁寧に洗い、トゲを取り除く。

2、それらをすり潰し、3日間天日干しする。

3、その後、粉砕し粉末状態に。粉末を独自開発したオーガニック薬品と混ぜ合わせ、あらゆる形へと型どる。

 収穫に、丁寧に洗いトゲを取る、すり潰して天日干し。文字だけ見るとアナログ感。同量の本皮に比べると、生産過程での二酸化炭素の排出量は80パーセント削減されるという。「現在、僕たちのサボテン栽培場は2ヘクタール(東京ドームの約半分)。大量生産を実現するため、40ヘクタール(東京ドーム約10個分)まで拡大予定です」。
 メキシコのあちこちに生えている国のシンボル、サボテン。地元で育つその生命力溢れる資源を、自分たちの手で素材化したサボテンレザーは、その意味でもリアルだ。フェイクレザーではなく「もう一つの本物のレザー」として、堂々と君臨する日も近いかもしれない。

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All images via Desserto
Text by Ayano Mori, edited by HEAPS
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine

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