ノーフラッシュ・ムーブメント、流さないトイレ。流さないから生まれるもの、堆肥、飲料水。原始的に進化するトイレのこと

ノーフラッシュ、流さない。そしてその、流さないものの行方。
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排泄物を肥料に変える「コンポスト・トイレ」が増えている。巷では「ノーフラッシュ・ムーブメント(The no-flush movement、“トイレ流さない運動”とでも訳そうか)」とも呼ばれている。ハイテク化のトイレとは真逆に、原始的方法へと逆行しながら進化しているトイレ事情。

ノーフラッシュ・ムーブメント、流さないトイレのこと

 流さないトイレ、と聞けば、ぼっとん便所の存在を思い出す。その名の通り、排泄物を「ぼっとん」と落下させる汲み取り式便所のこと(田舎のばあちゃん家がそうだった)。「臭くなったら、掃除のおじさんがうんちを持って行ってくれるんだよ」なんて教えてくれたっけか。

 さて、昨今の流さないトイレ「コンポストトイレ」は、もちろんだけどこの時代の便所とは違う。まず、コンポストトイレは汲み取り不要であること。細かく粉砕したおがくずを用いてそのままトイレ内で排出物の分解が可能。排泄物を溜めておがくずに分解すること、また独自の処理装置によって臭いや不衛生面も解決しているため、当時の3Kならぬ5K(くらい、汚い、臭い、怖い、壊れている←!?)はすべてクリアしている。
 利用上は普通のトイレとなんら変わらない。用を足した後はスイッチをポチッ、おがくずと排泄物が掻き混ぜられて発酵タンクに送られ、バクテリアによって堆肥化される。



一般的なコンポストトイレの様子。

 コンポストトイレ増加の背景には水資源の危機がある。家庭の生活用水の中で風呂・トイレがその大部分を占めるなかで、「水を流さなないノーフラッシュ・ムーブメント」「エネルギーを使わない」「堆肥化(再利用・資源化)」があいまって、世界各地で多種多様なコンポストトイレが生まれているのだ。
 コンポストトイレを導入して家庭菜園に活用したり(コンポストトイレを自作する強者も)、なかにはフェスの簡易トイレとしての導入例も。英国の音楽フェス「グラストンベリー」では、2014年からコンポストトイレを採用して地元の農場で堆肥化。周辺の農場にも分配している。

 水不足だけでなく、水質汚染が深刻な土地でも重宝されている。下水整備がなかなか進まないインドでは、廃水が池や地下水に直接流れ出ている現状を食い止めるため、環境保全団体「サドハナ・フォレスト(Sadhana Forest)」がコンポストトイレを積極的に村に設置している。

 宇宙技術を用いた循環型トイレなんてのもあった。「SEMiLLA(セミラ)」は、特殊なフィルタリング技術を駆使して人の尿から飲料水を、排せつ物から肥料やバイオガスを作るという。すでにオランダの音楽フェス「ユーロソニック」で導入され、尿から抽出した飲料水でミントティーを作り、来場者に提供しているそうな(賛否あるだろうなぁ)。


@semillasanitationhubs

 人の動きを感知する自動開閉機能を備えたトイレや、掃除の手間を減らす自動除菌機能を搭載したトイレ。そして、日本のトートーが開発した、尿成分から健康状態を知らせてくれるトイレ。テクノロジーを駆使して進化を遂げるスマート・トイレが次々と生まれる一方で、「流さない」というプリミティブ(原始的)に返りながら、排泄物を「飲料水」にするという、ぼっとん便所の頃にすれば錬金術の進化を遂げているトイレが生まれている。環境に考慮し、ノーフラッシュ・ムーブメントの“流さない”も素晴らしいが、流さないトイレの真骨頂は「流さないものの行方」にあるようだ。

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Eyecatch Image by Midori Hongo
Text by Ayano Mori, edited by HEAPS
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine

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