「戦力は遠隔作業する自閉症の人々」インスタグラムも顧客、正確作業の逸材たちが集まるプラットフォーム

「彼らは、最速200パーセントの稼働速度と、99.99パーセントの正確性を提供します」。あるスタートアップで黙々と遠隔作業する従業員、全員が自閉症だ。
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自閉症と“彼らの能力が必要な”テック企業

 発達障害のひとつで、コミュニケーションの困難や強いこだわり・興味、特定の行動を繰り返すなどの特徴をもつ自閉症(*1)。対人関係に難があり、就職試験の面接で苦労したり、職に就いたとしても社内のコミュニケーションでつまずき長続きしないことが多く、不完全就業率(*2)は高い。によれば、州の発達障害向けサービスを利用したことのある成人の自閉症のうち、有給の仕事に就いているのはわずか14パーセントだったという報告もある(全米自閉症指標報告書 2014-15 調べ)。

(*1)自閉症は、重度の知的障害を合併している者から、知的障害がほとんどない者までがその対象の範囲とされ、IQ(知能指数)や個性も多様。「知的障害」「自閉症」と明確に区切ることができず、まるで虹の光のように連続していることから「自閉症スペクトラム(ASD)」ともいう。

(*2)就業してはいるものの、労働条件が著しく劣っていたり就業が不安定であるなどして、半失業状態にあること。

 社会人生活を送るのが困難だと思われがちな自閉症の人々だが、同時にこうも言われる。「驚異的な集中力を秘め、得意分野の業務を迅速かつ確実にこなす能力に長ける」と。その自閉症の長所に着目し、彼らの特性を求めるAI開発会社やデータを扱う企業を繋ごうと、昨年一念発起したのがニューヨークのテックスタートアップ「Daivergent(ダイバージェント)」だ。


(出典:Daivergent Official Website

 繰り返し作業を好み、いわれたままに理解する傾向が強い自閉症の人々は、あいまいな指示を受けると戸惑ってしまうことが多い。そこでダイバージェントは、遠隔でタスクの細分化進捗管理ができるプラットフォームを開発。
 大きなプロジェクトを細かいタスクに細分化し、自閉症である従業員が着実に業務を積み重ねられるシステムを提供。主なタスクは、AI開発などにおいての画像タグづけ、データ入力、他に校正、ウェブリサーチ、在庫や連絡先情報の更新など。
多くの人には“単調でめんどう、骨の折れる作業”。1時間もすれば、ミスも多くなりますが、ダイバージェントの自閉症従業員なら一日中はもちろんのこと、一週間ずっと、そして来る月も来る月もできるのです」。同社の共同創始者でCEO、自閉症の弟をもつバイラン(28)はそう話す。顧客にはインスタグラムや、以前HEAPSでも取り上げたコワーキングスペースのクロワッサンも。自閉症従業員の能力と成果を提供している。

 現在ダイバージェントでは、遠隔で働く約200人の自閉症従業員を擁している。従業員は主に米国の大学やエージェントリクルートし、データ管理のエキスパートによってトレーニングする。勤務時間は週に5〜30時間で、それぞれが働きやすいようにスケジュールを組んでいいそう。給与は、時給12ドルから20ドル(約1,400円から2,300円)で、これまでの自閉症従業員の平均時給8.1ドル(約910円。米国児童青年精神医学会のレポート、2013年)に比べると2倍以上だ。

自閉症の人々の“得意”がますます必要となるAI社会

ダイバージェントの従業員は一般の従業員よりも、最速200パーセントの稼働速度と、99.99パーセントの正確性を提供します。自閉症スペクトラム障害、自閉症の人々がもつ特性は、雇用側が求める“資産”になり得るんです

 IT大手のマイクロソフトやドイツのソフトウェアメーカーSAPなど、自閉症の人々の雇用を積極的におこなってきた企業はこれまでにもあった。日本でも、発達障害の人々を雇用する企業では、ソーシャルスキルトレーニングや特性を活かした仕事を割りあてたりしている。

 ダイバージェントのような、自閉症の人々が主な戦力となる企業が生まれた背景にあるのは、テック職、特にAI開発のために正確な作業を長時間こなせる人材の需要がいままで以上に高まっているからだろう。昨年、サイバーセキュリティやデータ分析などデジタル社会に必要不可欠な「ニューカラー」と呼ばれる人材が話題になった。自閉症の人々にしかこなせない仕事内容と成果の質が、さまざまな産業でAI化が進むいまの社会に急速に求められているというわけだ。

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Text by Yu Takamichi
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine

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