「シリアの“現場”に届いたのはわずか1%」解決の糸口はクラウドファンディング、必要な場所に救援金を確実に渡す

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私たちが寄付したお金は、本当に必要なところに届けられているのだろうか。あらゆるものに透明性が求められるようになった昨今、寄付にも、いや、寄付にこそもっとそれは求められるべきなのかもしれない。
シリア現地で人道支援をおこなう医師はこう話す。「人の命に直結する重大な救援活動の75パーセントをも担う現場には、たったの1パーセント以下の救援金しかいっていないんです」。その状況の改善に、彼女はクラウドファンディングに糸口を見い出した。

世界初、クラウドファンディングで開業に成功した病院「Hope Hospital」

 世界各地から集まった「救援金」の多くを束ねているのは、国連や国際NPO。窓口となるそれらの大きな組織は、集まった救援金を必要に応じてシリア現地の小さな団体に分配する。しかし、その国際的な援助が末端、つまり現場まで届かないケースは珍しくない。

「2014年、シリアに向けて世界各地から多額の救援金が集まっていたにも関わらず、現地の人道支援者たちが必要なときにすぐに受け取れたのは、そのうちの1パーセント以下」。そう話すのは、医師として現地でボランティア活動を行なってきたローラ・ハラム氏。英国在住のシリア人である彼女は、内戦がはじまった11年より現地で救援活動に携わってきた。

Dr Rola Hollam (1)
Rola Hallam(ローラ・ハラム)

 内戦が激化するにつれ、医薬品は底を尽いた。麻酔機器などの重要な医療機器の数も追いつかない。16年の11月には、小児病院を含むアレッポ市内の5つの病院が爆撃を受け、閉鎖に追い込まれる大惨事に見舞われた。このままでは民間人、とりわけシリア内戦の一番の犠牲者である子どもたちを救うことができない。「一刻も早く病院を再建しなければならない状況なのに、必要な救援金はその時におりてこなかった」。この状況を打破する為に、彼女はクラウドファンディングに踏み切った。

 彼女が立ちあげた「キャンドゥ(CanDo)」は、クラウドファンディング機能を兼ね備えた人道支援プラットフォームだ。彼女はこれを使い、爆撃を受けた後、たった12日間で世界10ヶ国、5,000人以上の人々から約3,700万円(約250,000ポンド)の資金調達に成功。小児病院の再建の為に必要な物資を英国で揃え、直接シリアへと配送し、アレッポに小児病院「Hope Hospital(希望の病院)」を再建した。クラウドファンディングで開業した病院はこれが世界初だという。この成功を皮切りにキャンドゥは様々な資金調達キャンペーンを実施し、困窮する現場に必要な物資を届けている。

Dr Rola Hallam practicing
ローラ、病院で。

現地の声が吸いあげられない。現在の人道支援システムでは「救える命も救えない」

 ローラはクラウドファンディングに踏み切った理由についてこう話す。「現地で救援活動をおこなう人間が、救援金を束ねる大きな組織に『現地でこれだけの人が治療を必要としていて、最低でもこれだけの医薬品が必要だ』と訴えても、その声が吸いあげられない。また、吸いあげられたとしても、煩雑な手続きが多く、すぐに動いてはくれません。それが私がシリアで見てきた人道支援システムのあり様です。これではいくら現地に医師が集まっても、救える命も救えません。必要なときに、必要な医療品や機器、設備がないのですから」。だからこそ、現地の人道支援家たちの声を吸いあげて支援したい人たちと直接つなぐ「透明性のある(人道支援の)エコシステムが必要」だと。

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現在、Hope Hospitalは機能を存続させるために再びファンディングをしている。

 
 空爆に巻き込まれて負傷した子どもの姿をテレビやインターネットで目にした人が「この子や民間人の命を救うために何かしたい」と感じて寄付したお金も、窓口が大きな国際NPOやチャリティ団体だとしたら、現地には届いていないかもしれない。なんせ届いていたのは「1パーセント以下」なのだから。だからといって寄付したお金が無駄になったわけではもちろんないが、意図していた最終地点にたどりつくとは限らないということは、適切な寄付先を見極めるために知っておくべきことだろう。

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民主化する救援・援助の世界。ボトムから変えていく

 また、「これはシリアに限った話ではなく、貧困や被災地区でも、現地で救援活動をおこなう人々は同じ問題を抱えている」とも。つまり、クラウドファンディングを用いることで支援者と現場を直接つなぐキャンドゥの事業モデルがうまく行けば、世界各地の大きな問題を改善することに繋がる。

 本当に必要な物やお金を現地まで確実に届ける「ラストワンマイル」の物流。キャンドゥ自身、継続的な資金調達の実現など課題は残るものの「現在の人道支援システムを改善してより効果的な活動を行うために、人道支援の起業家や事業モデルを育てるアクセラレーターとして機能していければ」と話す。
  
 過酷な状況に生きる市民が自ら映像を配信するなど、情報伝達の速度は飛躍的にあがった。そんな中で、「いま苦しんでいる人々を救いたい」と考える人が増えるのは必然であり、それを可能にする為の人道支援システムをつくるには「ボトムから変えていくしかない」。どこにおカネを払うかでその時代がつくられていく。消費だけでなく、寄付も含めて。寄付したお金が確かに“生きた”ことを一人ひとりが実感できるようなシステムができれば、きっと世界が動く。

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情報提供:CanDo

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Photos via CanDo
Text by Chiyo Yamauchi
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine

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