混迷しながら前進する女性のセクシュアル・ウェルネス(性玩具)の世界。熱い想い・暴走するプロダクト

「Sex Sells(セックスは売れる)」。近年は炎上しがちだが、セックスや性とは関係なさそうな商品に力技でエロの要素を盛り込んだ広告。「宮城、イっちゃ…う?」「肉汁いっぱい出ました」などあげたらキリがない。ならば、性具などセックスや性に直接関係する商品の場合は「イケる!ヌケる!」のどんちゃん騒ぎかというと、そうでもない。「薄さたったの何ミリ、けれど破れない、漏れない…」と急にテクニカルになったり。性を前にすると不自然な動揺が見え隠れするのが男性目線の広告だとすれば、女性目線のそれはどうなのか。多くは冷静沈着かつノーブル。考えすぎゆえ、たまに混迷したりしながらも、アダルトグッズの世界に確実に多様性をもたらしている。

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ひとり旅、ひとり飯、ひとりH…。

 オナニーやひとりHを「セルフプレジャー」と呼び、そのための性具は「セルフプレジャー・アイテム」と呼ぶ。新しい言葉が流通するということは、新しい流れや価値観が誕生した証拠のひとつなのだろう。

 ここ数年、フェミニズムにおける議論がかつてないほど活気づいている。女性に対する差別発言を繰り返すトランプ米大統領の就任をきっかけに「ウィメンズ・マーチ」が各地で広がったことや、ハリウッドを起点に膨れあがったセクハラや性暴力の告発、そしてここ半年の「#MeToo」や「#TimesUp」といったハッシュタグの急増。そんな動きの中で同じように勢力を増しているのが女性主導の「セクシュアル・ウェルネス」革命だ。

「女性の性欲、マスターベーションに対するタブー意識を払拭しよう」という動きは確かに強まっている。たった3年ほど前は、投資家の多くは男性で、彼らは女性向け商品への投資を渋るなんて話をよく耳にした。いまもその状況が改善されたとはいえないものの、女性の投資家が積極的に女性起業家をサポートするなど、その状況は変わろうとしている。

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 実際、この1年半で女性の「セルフプレジャー」を応援するスタートアップの数も商品の種類も増えた。昨年夏にHEAPSで取り上げたカップル向けセックストイの『デイム・プロダクツ』や、約2億7,000万もの投資集めに成功したセクシュアル・ウェルネス専門のオンラインストア『アンバウンド(Unbound) 』、マリファナの成分を配合した刺激をより感じやすくするためのスプレー『フォリア(Foria)』など、女性の目線でつくられた「女性のため」「カップルのため」、また、あえて「ジェンダーレス」を謳った性具まで、様々な商品やプラットフォームが生み出されている。

 どれも「性具はジョークグッズじゃない」「健全な性を広めたい」といった熱い想いが秘められており、真剣かつ誠実に真心を込めてつくられた物なのは十分伝わってくる。ただ、強すぎる想いは、時に混迷することもあり…。理念があまりにも先行しすぎて「性の欲望がついていける気がしない」と感じた商品を以下、2つ紹介。

性具であることを微塵も感じさせない性具は一体何を売っているのか?

 たとえば、今年4月に誕生した『モード(Maude)』は、バイブ、潤滑剤、コンドームなどの商品を展開する。どれもクリーンでミニマルなデザインであるのは「私たちの商品はジェンダーニュートラル、すべての人に向けたものだから」。個人的にはバイブでありながらバイブらしからぬ、右にも左にも曲がらず天に向かってスッと伸びた陶器のような佇まいに慄いた。性具でありながら、性具であることを微塵も感じさせないそのデザイン。ライフスタイル雑誌のおしゃれな食卓にひょっこり混じっていても違和感がない。ただ、デザインというものが、複雑な課題を整理して、人々にわかりやすく示して、ある方向に導くものだとすれば、このバイブが導く世界は一体どこなのか。デザインから溢れ出る美意識の高さにムラムラしていた性欲を揉消されてしまうのは私だけだろうか。

 また、『ロラルス(Lorals)』というスタートアップにより、女性がもっと積極的にオーラルセックスを受けられるように開発された「世界初のオーラルセックス用の下着」というもまぁ凄い。まず、オーラルセックスをレシーブするのに下着を脱がず履いたままという、発想そのものが摩訶不思議。履いていた下着を一度脱いで、この専用の下着に履き替えるというプロセスも謎。つまりは、臭いや毛の未処理具合を気にして拒む女性が多いため、それを専用の下着を履きかえることで封じ込めて解決しよう、ということらしい。ただ、気持ちよくなれなければ元も子もないので「極薄にすることで、刺激を感じやすくしました」と。封じ込めることで女性に自信を、そして気持ちよくなることで性生活の充実を。「お舐めなさい!」とどこまでも女性目線を突き進む潔さは圧巻だが、舐める側の気持ちが置いてけぼりではないか。ただ、クラウドファンディングで目標額を達成しているのでそれなりのニーズがあるのは確か。


        

十人十色の欲求を応援する女性解放運動の活動家たち

 性は普遍的な関心事であるにも関わらず「いままでアダルトグッズなんどれも同じだと考える人が多かった」。ハードコアプレイからごく一般的な潤滑剤やコンドームまでどれもひとくくりに「性的なもの」と解釈されるのはおかしい。そう指摘するのは、先述のセクシュアル・ウェルネス専門のオンラインストア『アンバウンド(Unbound) 』の創業者ポリー・ロドリゲス氏。
 バイブの見た目ひとつとっても、モロ男性器のビジュアルに興奮する人もいれば、ポップでキュートなものを好む人も、また上述のようなバイブ感を一切排除した”ライフスタイル系” を求めている人もいる。「セクシャル・ウェルネス業界に必要なのは多様性」であり、それこそが女性の性に対するタブー意識を払拭することに繋がると彼女は説く。

 いまは、性の啓蒙活動期間の真っただ中。さまざまな性の欲望が存在すること可視化するために、その欲望を満たす道具を世に送り出すことはとても重要なのだろう。そりゃ売れるに越したことはないが、売れなくても存在価値は大いにある。他者の欲望を知って、自分の中の未開拓の欲望に気づくこともある。自分の快感を知るということは、究極の自分探しである。

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Text by Chiyo Yamauchi
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine

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