凹凸と色だらけ、まるで自分の頭のなかにいるみたい。わたしの素晴らしい家【#1:Doug Meyer/New York】

住みやすいというより、生きやすい。洒落てるというより、素晴らしい。そんな家シリーズ。
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いい家ってなんだろう?

住みやすい、というよりは、いきいきと生きやすい家。

実用性、お洒落、インテリアの好み、断捨離やミニマルとかそういった家づくりとはまた別の、
その人だけの、生きて暮らす譲れないもの、息づくこだわりが見えるもの。

どんなに無秩序でありったけ散らかっていようとも、
その人だけの条件や正しさがある、はなはだしい良さがある。
そんな素晴らしい家をたくさん見てみたい。

家で過ごす時間が増えているいま、いろんな人の、いい家を探っていくシリーーズ。はじめます。

第一回は、ニューヨークのチェルシー地区に住む、Doug Meyerの家。
ドアを開ければ、凹凸と色だらけ。
それはまるで、ずっと彼自身の頭のなかにいるような家。
アーティストにとって、それはきっとひとつのいい家の条件。
他人から見たらとても住みづらそうだけど、彼にとってはたった一つの、手作りの生きやすい家。

ピンク、青、凹凸、棒。自分の頭のなかにいつもいる

「この家にあるものはほとんどのものは自分で作ったよ。ラグにオブジェ、家具の数々。ピンクの壁を作るのは大変だった。宇宙的でしょ?」。「足を踏み入れるときは、水槽の中に入っていく気分になる」。それは、真っ青の図書部屋。

ニューヨーク、チェルシー地区にある、いたって平凡な外観の大型アパート。ある1ベットルームは、どんな部屋にも似ていない。目に飛び込んでくるピンクの凹凸の壁。にょろっと飛び出すたくさんの棒、惑星(?)。宇宙人みたいなのもいる。前衛的な絵画やオブジェがあちこちにあり、ふと足元をみると不思議なところにもアートが貼ってあったりする。


 住んでいるのは、アーティスト兼インテリデザイナーのダグ・メイヤー(Doug Meyer)。夫と暮らしている。生活感ではなく、ファンタジー(SF感)が溢れる空間。
 湧いてきたインスピレーション、作るもの、作りたいもの、作る・作る・作る(それから誰かがつくったアートピースを貼って、飾って、挿して)。

 そんな具合の部屋なので、それはもうほとんど、彼の頭のなかに入ったみたいだ。ダグさんはずっと、自分自身の頭のなかにいる。



 ダグさんに限らずとも、自分の部屋というのはわりかし、多かれ少なかれ自分の頭の中・心の中と近い存在だったりすると思う。雑誌の切り抜きを貼ったり、好きなキャラ人形を置いてみたり、考えごとのメモをあちこちに貼ったり、気分の花を挿してみたり。このあたりは、なにかをお手本にして部屋作りするインテリアとはちょっと違う部分。

 ニューヨークを拠点にアーティスト兼インテリアデザイナーとして活動し生活するダグさんの部屋は、どこもかしこも漏れだした思考のよう。心からうっかりこぼしてしまったかのうような自由な色合い。ちなみに、スタジオは別に構えているので制作場所ではない。基本的になにかしらの個展を抱えていて大忙しの日々で、仕事をするときにはスタジオにでかけてゆく。

 休みの日はこの家でゆっくりする。「若い頃はクラブやパーティーにいくのが大好きだった。いまはなんにも心配しなくていい1日が大好き。食材を買いにちょっとだけ出かけてすぐ帰宅する。夕食を作って、ゆっくりしながら馬鹿みたいなテレビ番組を家で見てリラックスするのさ」。

 リラックス。ダグさんはこの部屋で、リラックスする。たくさんの凹凸に囲まれ、つくったオブジェにみつめられ、作りたいものをそのままに作ったために収納スペースはなくあちこちに物が置いてある場所で、だらだらする。自分の頭のなかみたいな部屋で、溶けていくようにだらだらするのだ。ダグさんといい家について、電話で話した(後日、家に招いてくれた)。


Doug Meyer(ダグ・メイヤー)

HEAPS(以下、H):こんにちは、ダグさん。

Doug(以下、D):ちょうどスタジオで作業をしていたところだよ。うちからたったの8ブロック(8区画)先なんだ。

H:制作場所は別にあるんですもんね。カラフルな世界観で家具やオブジェを制作するアーティスト兼インテリアデザイナーのダグさん。家の装飾は昔から好きですか?

D:60年代初頭に僕が生まれ育った家はモダンハウスで、両親によって設計されたものだったんだ。その家がどんなのだったかというとね、基本的には床も壁も全部真っ白。玄関のドアはホットピンク、バルコニーはグレー。室内には、ガラスでできた吹き抜けの天井と壁、それから暖炉もあった。庭には噴水まで! とってもクールじゃない? いかにも60年代のアメリカの粋なモダンハウスって感じだよね。そういう環境で育ったから、昔からインテリアが大好きだった。

H:まるで映画のなかの家だ。思春期は、どんな部屋でしたか?

D:家の中は真っ白だったんだけれど、自分の部屋は唯一、自由にしてよかったスペースだった。それで「自分の部屋をピンク(の壁紙)にしたい」というリクエストをしたんだけど、母は「No(ノー)」の一点張り。それでも諦めずに2年以上ずっとお願いし続けて、やっとピンクの部屋を手に入れた。当時、僕は7、8歳だったかな。でもある日、兄の友達が僕のピンクの部屋を見てこう言ったんだ。「妹がいたなんて知らなかったよ!」って。その彼の何気ない発言が幼い僕にはすごくショックでね。すぐ母のところにいって「ピンクの部屋はもうイヤだ」って伝えた苦い思い出がある(笑)

H:部屋だって、人からの見えかたが気になりはじめますよね、思春期って。

D:でも、思春期の頃に自分だけの空間(世界)を作りだすというのはとても大事だと思う。僕は幼い頃からアートをしたり、ひとりで遊ぶのが大好きで、自分の部屋にこもることも多かった。その頃から、なにかを「凝視」するのを欠かさないようにしていたんだよ。自分が誰であるのか、なにを望んでいるのかと向き合うために。

H:自分の部屋で?

D:椅子に座って、とにかく部屋の一点を見つめ続ける。そしたら、心の中に雑念が現れはじめる。雑念と葛藤することでインスピレーションが沸いてきたり。

H:部屋は、考えて向き合う場所。なんか、いまのダグさんの部屋はそれらが凝縮されている感じがします。

D:僕の家の壁はもはや壁というより、彫刻作品のようでしょう。ほかにはない、自分だけのユニークな世界を作りだすんだ。店で購入した家具を人は気にいるけれど、僕はあまり好きじゃない。人とは違うものを自分の手で作りだすのが好き。

H:思い描いたものを、世界として作りだす。ちぐはぐさもあって。機能性はどうですか?

D:機能性は、とっても大事。

この壁の色を考えるのは本当に苦労したよ。1日でも、どの時間帯かによって色の見え方って結構違う。窓はいくつあるのか、窓からの光はどんな感じか、電気はどんな感じか、夜はどんな感じで見えるのか。いろんなことを考慮しないといけないんだ。実は、夫はピンク好きではないんだけれど、僕は大のピンク好き。だから、様子見で壁の色を一部ピンクにしてみたんだ。そしたら、夫が以外にも「いい感じだね」って言ってくれたんだよね。

H:わ、意外な回答でした。

D:ピンクの壁は、ひとつの部屋を2つに分ける役割がある。この壁は光が両方の部屋にも入るように考えて設計されているんだ。船の窓のような丸い窓から、隣の部屋に光を注ぐ。それに、ピンクの壁は足元が空いているから空気を循環させることだって可能なんだ。

H:バッチリですね。リビングと図書室では、かなり雰囲気が違い、驚きます。

D:リビング側の壁はピンク。図書室側の壁はブルー。ピンク側の壁はいろんな形をした出っ張りがあって、美しい表面に仕上がっている。ブルー側の壁には光沢があって、鏡やグラス、色を埋め込んだ。

1日のあいだ、時間帯によって色の見え方って違うんだ。窓はいくつあるのか、窓からの光はどんな感じか、電気はどんな感じか、夜はどんな感じで見えるのか。いろんなことを考慮しないといけない。この壁の色を考えるのは大変だったなあ。



H:ピンク色に。

D:実は、夫はピンクが好きではないんだ。でも、僕は大のピンク好き。様子見で、壁の色を一部ピンクにしてみたんだ。そしたら夫が以外にも「いい感じだね」って言ってくれたんだよね。

H:思春期に苦い想いをした、大好きなピンクの壁をふたたび実現。

D:でもね、1週間かけて壁の全体をピンクに塗り終えたとき、夫はそれを見て「なんでピンクにしたの?」って言ったんだよ。「いい感じって言ってくれたじゃん!?」って…。まあ、なんとか了承を得れてよかったよ(笑)

H:夫の話がでてきたところで。ベッドルームも、ダグさんの作品が壁に埋め込まれていますが、グレートーンで落ち着く感があります。ここは、彼の意見ですか?

D:僕の旦那は弁護士で、ほとんどのパートを僕の好きにさせてくれた。でも、ベッドルームはね。ここは彼のリクエストでグレーにした。時々、ブルーやピンクの装飾を入れたけれども。ベッドカバーも枕もすべてグレイだよ。


H:家全体から宇宙的(SF的)雰囲気が漂っていますが、テーマはあるんですか?

D:うーん。家全体の具体的なテーマは特にわからない。だって、その時々に自然に思いつくアイデアばかりだから。歳を重ねるとその分いろんなことを経験するからか、ときおり奇妙なことを思いついたりするようになるんだ。その思い浮かんだ奇妙なことをインテリアという形で表したら、気づけば家が宇宙になっていた。

H:だからこそ、頭のなかっぽいんだな…。急に思いついたようなランダムさがある。それでも一貫性がある。それがダグさんっぽさなのでしょう。

D:イエス!その通りだ。僕の頭のなかが、僕のインテリアに、部屋にあらわれている。それはもう、奇妙な部分やユーモアまでも。







H:そんな家のなかで暮らすのは、どんな気分?

D:とっても落ち着く。

H:凸凹はたくさんだし色もちかちかしていて、住みにくい、という人もいるでしょうが、ダグさんにとっては究極に暮らしやすい家。

D:記事にさ、コメントが残せるタイプのやつがあるでしょ。僕の記事に、いろんな人がこんなコメントをしているんで興味深かったよ。

「どうやって人はここに住むんだ」「カラフルすぎる」「クレイジー」とか。僕からしたら、これが僕の幸せの形なんだから、いいじゃんって思うよ。



H:ちなみに、家のなかにつまりは作品がたくさんあるわけですが、傷つけたら、という心配は?

D:僕ない。僕からしたら、ただ住んでいるところに過ぎない。

H:おゲストに壊されたらどうしようとか、思いますか。

D:思わない。以前、友人を招待してクリスマスパーティーを開催したことがあるんだ。僕が誰かと話し込んでいるうちに、青い図書室で誰かが酔っ払って僕が作ったオリジナルのラグにワインをこぼしたんだ。でも、僕は特に気にしなかった。ゲストを家に招き入れているのに、彼らに美術館に来たかのような思いをさせるつもりはないよ。弁償してほしいとも思わない。ワインのシミが取れればラッキーだし、取れなかったら仕方ない。

H:ダグさんの頭も心のなかも、広い。

D:この考えかたは母から教わったんだ。粋な母はいつも綺麗に家を装飾していたんだ。12、13歳だったかな。ある日、リビングにあった母のお気に入りの18世紀物のアンティークテーブルを壊してしまったんだ。そのときは心臓が止まるかと思った(笑)。

 泣きそうになりながらそのことを母に打ち明けたら、母は顔色も変えずこう言ったんだ。「大丈夫。あなたは私の息子。あなたはこのテーブルよりもずっと大事な存在なんだから」って。高価なもの、価値のあるもの、美しいもの、自分にとっての宝物、なんであろうと、もしそれが壊れたって世界が終わるわけではない。それから僕はそう考えるようになったんだ。

H:素敵な話。ダグさんの部屋は、やっぱり自分が変わっていけば家も変わっていくんでしょうか。時間とともに、デザイン(色、凹凸など含め)をだんだんと足していくこともありますか?

D:僕の旦那が言うには「君は永遠に芝を刈り続けているね。僕には、なにがゴールで、なにが理想の姿なのかが見当がつかないよ(笑)」ってね。いつも家の中のなにかが変わり続けているよ。

H:そのなかで、毎日暮らす。家で、どんなふうに感じられることが、ダグさんにとってはいい家なのでしょう。

D:この家で暮らしていると、僕の気分はとても良い。それはドレスアップしたとき、ヘアカットをしたとき、体が鍛えられているとき、健康的な食事をしているときと同じような感覚。見た目はもちろん、気分も上がるでしょ。いつもよりバージョンアップした自分になった気分になる。それがいい家がもっているものだと僕は思うよ。


Interview with Doug Mayer

Photos by Kohei Kawashima
Text by Sako Hirano
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine

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