あと3日で、グッバイ「平成」。平成といえば日本映画が豊作でした、ということで、前回は「平成に公開された邦画の名シーンを英語にしたら」第一弾をお届けした。今回は、第二弾。2005年から2019年までにスクリーンを飾ったあの映画あの主人公のあのセリフを英語にして、平成を締めくくりましょう(今回はいつもより1つ多く)。
1、「自分探し、みたいなことですか?(Are you on a journey for self-discovery?) 」
—預金百万円貯ったらお引越し。“微住”ロードムービー『百万円と苦虫女』
『百万円と苦虫女』(2008年)の苦虫女は、蒼井優演じる主人公鈴子。あることがきっかけで前科もちに。実家に居づらくなった彼女は「百万円貯まったら出て行きます!」と宣言、自分のことを誰も知らない土地に行こうと、各地を転々としながら流浪する。100万円貯まったら次の町へ、また100万円貯まったら次の町へ。海辺の町では海の家でバイトしたり、山岳部の町では桃園に住み込み。そんなこんなで、転々、転々。東京から近い地方都市へ流れ着き、ホームセンターで働いていた鈴子は、そこで知り合った大学生・中島と恋に落ちる。中島に経緯を打ち明けると、中島はなぜそのような生活を送るのか、と尋ねる。
中島「自分探し、みたいなことですか?」
鈴子「いや、むしろ探したくないんです。どうやったって、自分の行動で自分は生きていかなけゃいけないですから。探さなくたって、嫌でもここにいますから」
これを英語にしてみると、
中島「Are you on a journey for self-discovery?」
鈴子「No, I think I don’t want to discover myself. You can’t help but live with your own actions no matter what. You end up where you are without trying to look for anything.」
ちなみに、鈴子の暮らし方は「微住(びじゅう)」と呼ばれているらしい。移住や定住でもなく、旅でもなく。転々としながら、その土地で一定期間暮らし、仕事し、また別の土地に行くというスタイル。移動する暮らしや、ノマドのような働き方が注目された平成の時代の流れとも、偶然なのかシンクロしている。
2、「大事にできるものがあるときは、大事にしとけよ。(When you have something that is important, cherish it. ) 」
—ある法廷画家の目を通して描かれる時代と、夫婦の繋『ぐるりのこと。』
舞台は1993年。カナオと翔子夫妻の話。第一子を授かり幸せな日々を送っていたが、まもなくして、子どもは亡くなってしまう。それが原因で、翔子は鬱になり、カナオは静かに見守り、献身的に支える…。
子を失い、苦しみを乗り越えるまでの10年の夫婦のストーリーに平行して、描かれるのが、法廷画家であるカナオが近くで目撃してきた「時代」だ。彼は法廷にて、幼女誘拐殺人から地下鉄毒ガス事件など、実際に90年代に起きた事件をベースにした事件の公判を傍聴する。耳を覆いたくなるような被告人たちの供述に、それを言いのける彼らの表情。残虐な事件がおこってしまう時代を法廷から見つめているのだ。
劇中、カナオが知り合いのベテラン記者・安田にアドバイスを受けるシーンがある。
「大事にできるものがあるときは、大事にしとけよ」
英語で言ったら、「When you have something that is important, cherish it.」。
平成におこった、社会の事件。家庭の事件。「ぐるりのこと」とは、自分たちのまわりを“ぐるり”と囲む人や出来事を指すという。社会のぐるり。家族のぐるり。ぐるりと見渡して見た暮らしにある、たいせつなことをたいせつにしたいものだ。
3、「あたしが思うに、大人は“まぁいいや”のカタマリだ。(I think all adults are a mass of “whatever”.) 」
—ジャガイモの有毒な芽のように“大人たち”の毒素をチクチクと『ソラニン』
宮崎あおいと高良健吾が主演した映画『ソラニン』…ではなく、浅野いにおの原作漫画のなかで、名言と名高い一言があるので紹介したい。
「あたしが思うに、大人は『まぁいいや』のカタマリだ」
英語にすると、「I think Iall adults are a mass of “whatever”.」。
「Whatever(ホワットエバー)」には、どうでもいい、なんでもいい、という意味がある。
大人は「お腹が出てきてもまぁいいや」「どこかで戦争や災害が起きても 自分が無事ならまぁいいや」…。で、芽衣子は「この会社は給料がいいからまあいいや」。大人が思ってしまいがちな痛いところをついてくる。そして的を得ている。だから、ちょっと耳が痛い。タイトルの「ソラニン」は、ジャガイモの芽に含まれる有毒成分(くり抜かなきゃいけない部分)。映画のタイトル通り、毒のようにちくっと刺さる言葉だ。
4、「じゃあ、金貸してくれよ。(Then, lend me some money.) 」
—“いいやつ”世之介と、“いいやつ”を取り巻く人たちの青春映画『横道世之介』
1980年代の東京が舞台。大学進学のため上京してきたばかりの横道世之介は、表裏のないお人好しで、みんなにとっての“いいやつ”。ガールフレンドに、大学の友人に、と人々に囲まれながら大学生活を送る。映画では、世之介の日常と、まわりの人々のその後の人生を描いている。
人生のどのタイミングにも必ず出会う“いいやつ”。世之介のいい人(というより、お人好しぶり?)が醸し出されているのが、友人・一平との掛け合いのシーンだ。
世之介:俺にできることがあったらなんでも言ってくれよ。
一平:じゃあ、金貸してくれよ。
世之介:いいよ。
一平:え、えー、いいよ。
世之介:いいよ。
英語にしたら、
Yokomichi: If there’s anything that I can do for you, let me know.
Ippei: Then lend me some money.
Yokomichi: Sure.
Ippei: What? No, no, it’s alright…
Yokomichi: I said it was okay.
Well… is it really okay, 世之介くん?
5、「何がって、絆(Well, the bond.) 」
—オバマ前大統領もお気に入り映画リストに。平成に描かれた“いびつな家族”の姿『万引き家族』
是枝裕和監督は、これまで『誰も知らない』や『そして父になる』などで、一筋縄ではいかない、いびつな家族の形を描いてきた。今回の“家族”は、衝撃のタイトル通り、万引きという犯罪で繋がる家族で、血や戸籍でつながる家族ではない。東京・下町の古ぼけた平屋。貧困のため、万引きをして生計を立てている6人の“家族”の生活が描かれている。
ある日、道で少女を拾った家族。彼女には虐待されたらしき跡がある。少女・ゆりを家族に迎え入れ、ゆりも一家に残ることを決めた。そこで家族の一員、信代(安藤サクラ)は初枝(樹木希林)にこう話しかける。「選ばれたのかな、私たち」。「親は選べないからね、普通は」と答える初枝に「でもさ、割と自分で選んだ方が強いんじゃない?」と信代。「何が?」と聞き返されると、こう答えた。
「何がって、絆」
英語にすると、「Well, the bond.」。
絆は「bond(ボンド)」。それを聞いた初枝、「私はあんたを選んだんだよぉ」。
ちなみに、オバマ前大統領も自らの〈2018年お気に入り映画リスト〉に本作を入れたのだとか。「3.11」で多くの人が感じた「絆」。平成最後のウルトラマン映画のテーマも「絆」と、平成は、「絆」が大きなキーワードだった時代だった。
6、「お前の人生が嘘ばっかりだから!(Because your life is full of lies!) 」
—低予算ワンカットのゾンビ映画…を撮った撮影クルーの舞台裏『カメラを止めるな!』
映画は二重構造になっている。まず前半の話…。山奥の廃墟。自主制作映画の撮影クルーがゾンビ映画を撮っている。本物を追求する監督は、ヒロインがゾンビに襲撃されるシーンを繰り返し撮り直す。もう42テイクにもなる。監督はしびれを切らし、ヒロイン役に近づき、こう怒鳴る。
「なんで嘘になるか教えてやろうか? お前の人生が嘘ばっかりだから! 嘘ついてばーっかりだから! 嘘まみれのそのツラ、はーがーせよ!」
結構辛辣な言い方である。「Because your life is full of lies!」。英語にしても、結構ひどい言い方だ。
そんななか、撮影隊を本物のゾンビが襲い掛かり…。しかし、ワンカット撮影、途中で失敗したら、もう一度最初からやり直しである。だから監督は叫ぶ。「撮影は続ける!カメラは止めない!」…とここまでが37分ワンカット。実はこの前半が、「ゾンビ映画を撮影していたら、本物のゾンビに襲われた!」という撮影クルーをドキュメンタリー風に撮ったフィクション(モキュメンタリー)。
で、続く後半は、一ヶ月前に遡って制作に携わる人々とトラブルだらけのバタバタ劇をコメディタッチで描く、フェイク・メイキングムービーとなっているのだ。
…とあらすじを書いていて、なんども迷子になってしまうほど入り組んだストーリー構成になっている本作。「平成最後の夏にインディーズがメジャーを超えた」と呼ばれているので、平成最後の3日間で未視聴の人は観てください。
英語コンテンツ、新シリーズスタート。
“I’m just a musical prostitute, my dear.”
「ぼくは、ただの音楽を演る娼婦なんだ」
この発言主は、映画「ボ◯◯◯・ラ◯◯◯○◯」で
日本で第3次ブームを巻き起こしている、あのバンドのあの人。
おたのしみに!
▼これまでのHEAPS A-Zボキャブ
・もしも〈平成邦画の主人公のセリフ〉が英語だったら。空飛ぶ豚・フーテン寅さん・ジョゼ、平成30年間の「あの一言」AZボキャブラリーズ
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Illustration by Kana Motojima
Text by Risa Akita, Editorial Assistant: Kana Motojima
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