登場人物を惑わす〈ふっかふかのプレッツェル〉!塩のきいた焼きたてパン菓子とソフトな笑い。A級ドラマのおいC、B級フード

シティの真ん中からこんにちは。ニュース、エンタメ、SNS、行き交う人から漏れるイキな英ボキャを知らせるHEAPS(ヒープス)のAZボキャブラリーズ。
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シリーズ「A級ドラマのおいC、B級フード」。人気海外テレビドラマの劇中に登場するB級フード(おやつも含む)と、それにまつわる英語を全4回にわたって紹介する。

小津安二郎監督の名作『秋刀魚の味』のトンカツや、マフィア映画『グッドフェローズ』のミートボールトマトソース煮込みなど、映画に登場する“映画飯”というものはたびたび紹介される。今回のシリーズでは、ちょっと変化球で、映画の代わりに「テレビドラマ」、飯の代わりに「B級フード(か、おやつ)」。“ドラマB級食”について、ときにシリアスに、ときにコミカルに、ときに愛をこめて言及する登場人物たちのセリフをかじってみたい。

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結び目の形が特徴的。ドイツ発祥の焼き菓子/菓子パン、プレッツェル。結び目の形が特徴的。米国でも広く愛され、ストリートの屋台から、ショッピングモールに入っているお店まで、「小腹が空いたらプレッツェル」の方程式が成立している。なにもつけなくても、まぶされている塩のおかげで、じゅうぶんしょっぱいのだが、これにバターを挟んだり、マスタードをつけたりするのも通な食べ方。

ちなみに、筆者のお気に入りは、モールによく入っている「アンティ・アンズ(Auntie Anne’s)」。日本にも進出し(一時大きな人気を誇るも、昨年に1店舗まで減ってしまったらしい)、プレッチェルとはなんぞやをアジアにも広めたプレッツェルチェーンだ。ここのミニプレッツェル(結び目のやつではなく、ロールパンの形)には王道にバターが入っていたり、邪道にソーセージが入ったりしていて、どうもにもこうにもB級舌を満足させてくれる。

スーパーやデリには、顔より大きい袋に入ったプレッツェルのスナック(小さくてぽりぽりかたい)もある。スナックはスナックでおいしいけど、やっぱり、あったかくてふかふかのパンの方のプレッツェルが食べたい。それは、テレビドラマのなかの主人公たちも同じようで。今回は、3つの人気コメディドラマに出てくるプレッツェル英語を、熱々のうちにはむはむっと。

1、生理でむしゃくしゃ、ルームメイトに八つ当たり「 I want soft pretzels.(もっちもちのプレッツェルが食べたい)」

『ダサかわ女子と三銃士』という、一周まわってかっこいい日本語の副題つきで日本でも放映された米国発のコメディードラマ『ニューガール』。ルームシェアをする男女4人のドタバタ日常劇で、2011年から2018年にかけて7シーズンにわたって続くなど人気を博し、ゴールデングローブ賞作品賞・女優賞にノミネートされた実力派。主演は、映画『(500)日のサマー』で人気女優の仲間入りを果たしたズーイ・デシャネルだ。

ズーイ扮するアラサー教師のジェスは、同棲していた彼氏に浮気され、家を出ることに。ネットの掲示板を通して見つけたルームメイトは、3人の男たち。まじめなバーテンダーのニック、ニックの親友で敏腕弁護士、ナルシストのシュミット、ニックの幼なじみで楽観的で負けず嫌いな元バスケ選手のウィンストン。そんな性格もバラバラな独身男3人がルームシェアをするアパートに引越したジェスは、恋愛経験が元彼しかないため、異性を意識しすぎて変な行動を取ってしまうなど、笑いを誘うシーンが満載。即興で歌をつくってしまったりと、ちょっとぶっ飛んだ性格のジェスと、彼女の親友でモデルのシシ、3人の男たちが、一つ屋根の下で家族愛(?)を育むストーリーだ。レトロなワンピーススタイルがトレードマークのコケティッシュなジェスに米国中の女性が夢中になり、ジェスが着たブランドが売れまくるなど、一種の社会現象にもなった。

あるエピソードでは、家賃が払えず、ルームメイトたちからお金を借りようとするジェスに対し、3人は腹を立て喚くシーンが。それに耐えかね、いま私は生理だから感情的になっていると前置きし、ジェスはこう開き直るのだ。

「I feel like I want to murder someone, and also I want soft pretzels.(もう人殺ししたい気分、それに、もっちもちのプレッツェルも食べたいし)」

ハチャメチャな発言である。ジェスにとって、むしゃくしゃしたときには、プレッツェルがいるらしい。そして立ち上がり、あんたたちのキンタマを蹴り上げるわよ、と捨て台詞。これが許されてしまうのは、ジェスさまだけだ。

2、“なんにも起きない”国民的ドラマ、主人公たちが連呼する「These pretzels are making me thirsty.(このプレッツェル、のど乾く)」

1989年から98年まで放送され、当時無敵だったドラマ『ER緊急救命室』を抜いて全米で6年連続視聴率1位をキープし、アメリカ人の4人に1人が観たといわれる国民的ドラマが『となりのサインフェルド』。『フルハウス』が日本にあれだけ浸透したのに、なぜ『となりのサインフェルド』の知名度が圧倒的に低いのかは謎だ。フルハウスは西海岸のサンフランシスコが舞台だが、となりのサインフェルドの舞台は、ニューヨーク。

スタンダップコメディアンのジェリー(演じるのもコメディアンのジェリー・サインフェルド)とチビ・デブ・ハゲの親友ジョージ、唯一別れても友だちとなれたサインフェルドの元彼女のエレイン、挙動不審な隣人クレイマーの4人のユダヤ系ニューヨーカーの主人公が繰り広げる平凡でおかしな日常を描く。

コンセプトは「a show about nothing.(なんでもないことについてのドラマ)」。恋愛話から男同士の友情について、車が盗難された災難やアパート探しなど、誰の日常にも関わることから、どこに車を駐車したのかわからなくなるエピソード、誰がいちばん長くマスターベーションを我慢できるか、などのくだらない話まで。扱っている話題は平凡なのに、ユーモアのセンスが抜群なジェリーたちのおかげで、絶え間ない笑いを誘発するピカイチなシットコムとなっている。主人公たちがよく行くダイナー(アッパーウェストサイドに実在する「トムズ・レストラン」)や、スープ専門店(「スープキッチン」)など食生活も含め、ニューヨーカーたちのなんてことない普段の生活やアメリカのカルチャーが垣間見えることも、となりのサインフェルドの特典だ。

さてさて、肝心のプレッツェルが出てくるのは、1991年に放映された28話。ジェリーの車が盗まれ、ジョージは駐車規制に伴って車を道の反対側へ移動させる仕事を、エレインは別れ話を切り出したら発作を起こしてしまった66歳の恋人の看病を、とみな自分たちの日常で忙しい。クレイマーはというと、ウッディ・アレンの映画でのちょい役をもらうことができたようだ。しかも台詞つき。その台詞をみんなの前で披露する。

「These pretzels are making me thirsty.(このプレッツェル、のどが乾きますね)」

その場にいた3人は苦笑い。「お前、言い回しが変だよ」と。おもむろに、みなそれぞれが、自分たちの「プレッツェルでのど乾く」を表情とともに発表していくという、どうでもいいけどおもしろい、サインフェルドがつまったエピソードだ。

「No hugging, No learning(ハグなし、学びもなし)」。ベタベタした友情・成長物語を見せつけられるわけでもないし、人生の教訓を学べるわけでもない。そんなあっさり飄々、別段あなたの人生を救ってくれるわけではない。けど、ふとした日常生活に「あ、サインフェルドだな」モーメントをもたらしてくれる“となりのお兄さん”的ドラマ。筆者にも、よく「こりゃ、サインフェルドのあのエピソードみたいだな」とか「サインフェルドでこういう台詞がある」などと、ことあるごとに言うニューヨーカーの友だちもいるほどだ。

3、スベりまくりのマネージャーから、営業担当まで。社員が心待ちにする「Pretzel Day(プレッツェルの日)」

ペンシルバニア州のスクラントンという、なんの変哲もないアメリカの小都市にある製紙会社、ダンダー・ミフリン。その「オフィス」で発生するドタバタの出来事をモキュメンタリー形式(ドキュメンタリーに似せた手法)で描いたコメディ『ザ・オフィス』。本家の英国版もおもしろいと評判なのだが、今回紹介するのは、米国版の方だ。

オフィスの従業員は20人ほど。マネージャーは、マイケル(『40歳の童貞男』で主演を演じたスティーブ・カレル)。ネットで買った「World’s Best Boss(世界で一番のボス)」マグカップを机に置き、部下に気に入られようふざけるも、どうにもスベってしまい逆に迷惑をかけるイタいキャラ。猟奇的な笑顔でマイケルの腰ぎんちゃくに徹するマージャー補佐のドワイト、ハンサムな販売主任のジム、かわいい受付係のパム、クロスワードばかりしている営業担当のスタンリー、おしゃべり好きなカスタマーサービス担当のケリー。同僚にイタズラを仕掛けたり(ホチキスを入れたゼリーを作ったり)、ハロウィーン、クリスマス、新年とそれぞれのシーズンには社内でアットホームなパーティが催されるのも恒例だ(そしてマイケルが張り切る)。

そんななかでも、“一部の”社員が心待ちにしているのが年に1回の「プレッツェルの日」。会社が社員に無料でプレッツェルをふるまう日。それだけだ。「それだけのことでしょ」と騒ぎ立てないパムのような社員もいれば、冷静になれない社員もいる。たとえば、マイケル。プレッツェルがふるまわれる1階に行くエレベーターのなかで興奮気味にこう話す。

「I’m just gonna have my soft pretzel now, get to work and I’m to be super productive. (もっちもちのプレッツェルを食べて、仕事に戻れば、ものすごくはかどるだろう)」

スタンリーも冷静ではない。「I wake up every morning in a bed that’s too small, drive my daughter to a school that’s too expensive, and then I go to work to a job for which I get paid too little, but on Pretzel Day? Well, I like Pretzel Day. (毎朝、小さすぎるベッドで目を覚まし、授業料の高すぎる学校へ娘を送っていき、給料の少ない仕事をしにオフィスに来る。でも、プレッツェルの日は? プレッツェルの日は大好きだ)」

1階に着くと、そこにはプレッツェルを求める社員がなす長蛇の列が。マイケル、しぶしぶ並ぶ。この時間を利用して、とパムがマイケルにサインしてもらいたい書類を差し出すも「トイレ行っている間にここの位置にいてくれ」と、パムを立たせてしまうダメ上司ぶり。上司としてのモラルをも狂わせてしまう魔力がプレッツェルにはある(もともとマイケルにはそんなモラルはないか)。

次回のA級ドラマのおいC、B級フードは、
アメリカのおふくろの味
「マック&チーズ」。
言わずとしれた男女6人の老舗シットコムから、
ある郊外に住む“妻たち”のミステリアスなドラマまでの
チーズが濃厚にかかったマカロニの英語で
溶ろけよう。

▶︎これまでのA-Zボキャブ

▽A級ドラマのおいC、B級フード

ドーナツの穴から真実は見えた?事件解決には喉が焼ける甘みを片手に〈犯罪ドラマとドーナツ〉。

▽懐かしの映画・ドラマ英語

もしも〈平成邦画の主人公のセリフ〉が英語だったら第二弾。平成残り3日。苦虫女、万引き家族の一言を嚙みしめよう

Eye Catch Illustration by Kana Motojima
Pretzel Collage by Midori Hongo
Text by Risa Akita
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine

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