ドーナツの穴から真実は見えた?事件解決には喉が焼ける甘みを片手に〈犯罪ドラマとドーナツ〉A級ドラマのおいC、B級フード

シティの真ん中からこんにちは。ニュース、エンタメ、SNS、行き交う人から漏れるイキな英ボキャを知らせるHEAPS(ヒープス)のAZボキャブラリーズ。
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シリーズ「A級ドラマのおいC、B級フード」。人気海外テレビドラマの劇中に登場するB級フード(おやつも含む)と、それにまつわる英語を全4回にわたって紹介する。

小津安二郎監督の名作『秋刀魚の味』のトンカツや、マフィア映画『グッドフェローズ』のミートボールトマトソース煮込みなど、映画に登場する“映画飯”というものはたびたび紹介される。今回のシリーズでは、ちょっと変化球で、映画の代わりに「テレビドラマ」、飯の代わりに「B級フード(か、おやつ)」。“ドラマB級食”について、ときにシリアスに、ときにコミカルに、ときに愛をこめて言及する登場人物たちのセリフをかじってみたい。

***

アメリカ人は、ドーナツがあれば、みんながハッピーになると思っている。と思う。ドーナツの部分は「ピザ」でもすげ替え可能だ。大学のサークルや団体の勧誘会にドーナツ、オリエンテーションの日にドーナツ、ある朝のオフィス風景には気の利かせた同僚が(あるいは上司が部下たちのご機嫌とりに)いつの間にドーナツ。オレンジやらスカイブルーやらの鮮やかなアイシングが目に痛いチェーン店の「ダンキンドーナツ」が多いような気がする。ドーナツさえあればとりあえずその場の雰囲気がよくなる、ドーナツがあればとりあえず人が集まってくる、というドーナツ事なかれ主義(ちなみに、これはピザの話だが、通っているフィットネスジムには、毎週月曜に「Pizza Monday」がある。痩せるため、健康になるためにジムに通うのに、毎週月曜にピザなんて食っていたら、そのあとのワークアウトは相当がんばらないと汗)。

みんな大好きドーナツだが、異常にドーナツを大量消費している人種がいる。ドラマのなかの“ポリスメン”だ。刑事さんも含む。彼らは、パトロール中の車や、派出所、警察署の会議室で、なにかにつけてドーナツをむさぼる。今回は、3つの人気A級犯罪ドラマに出てくるドーナツ英語を取りあげてみる。

1、カルトドラマの甘党捜査官、1日で食べた「fifteen doughnuts(15のドーナツ)」

2017年に新シーズンとして20年以上の時を経てよみがえったことで、若い世代からもいっきに注目が集まったドラマ『ツイン・ピークス』。オリジナルは、1990年から1991年に放映。製作総指揮は、映画界の鬼才デヴィッド・リンチということもあり、その映像美と奇怪なストーリーラインでカルト的な人気に。日本でも海外ドラマブームの火付け役として、社会現象にまでなった。

物語の舞台は、架空の田舎町ツインピークス。女子高生ローラ・パーマーが殺害された。事件を解決するために、FBIからデイル・クーパー特別捜査官が送られてくる(演じるのはカイル・マクラクラン、テレビドラマによく出てくる顔だ)。犯人を探すべく、クーパー特別捜査官のみならず、ローラの友だちなど町の人々も動き出す。そうしているうちに、いっけん平穏にみえた町の“闇”が明るみにでてきて…。リンチ自身「犯人が誰なのかはどうでもよかった」と言っていたという逸話があるほど、ドラマの焦点は、町の不穏な影にあるといえる。

このクーパー特別捜査官というのが、かなりのクセ者である。重度のコーヒー・アディクトで、チェリーパイと「ドーナツ」が好物の甘党。そして、常備しているテープレコーダーに向かい「ダイアン」という謎の女性に、食べたものから事件についてのことまで、日記をつけるかのように、逐一吹き込む。たとえば、こんなドーナツネタもダイアンに報告。

「Consumed fifteen doughnuts today, Diane. All jelly.(ダイアン、今日は15個のドーナツを消費した。全部ジェリーのやつだ)」

ジェリードーナツとは、ジャムがはいったドーナツ。喉が焼けるほど甘いし、胃にかなりのくどさを残してくれるやつだ。これを15個、コーヒーで流し込むという離れ業。糖分とカフェインで、事件の手がかりは閃いたのだろうか?

2、裏の顔はサイコパス殺人鬼。柔和な“ドーナツガイ”・デクスターの「Donut?」

マイアミメトロポリス殺人課の鑑識、デクスター・モーガンが主人公の『デクスター~警察官は殺人鬼』。鑑識とは、犯罪捜査で、筆跡・指紋・血痕などの資料を科学的に調べ、犯人特定につなげる仕事。その鑑識として働く裏で、デクスターにはもう一つの顔が。実は彼、「サイコパスの連続殺人鬼」なのだ。鑑識という職業柄、証拠なしの完璧犯罪はお手のもの。ただし、彼が殺すのは、法が裁けない凶悪犯のみ。昼は淑女、夜は娼婦さながらの、昼は善人、夜は悪人。この極端な二面性をもったデクスターを主人公にした衝撃のプロットで、2006年から8年間、8シーズンも続いた息の長いドラマである(米国のドラマは、人気がないと容赦なく打ち切りになる)。

職場では「いい人」のイメージを保つデクスター。対人関係を良好にするため、毎朝、職場の人たちに“差し入れ”をする。その差し入れのブツが、なにを隠そう「ドーナツ」だ。にこにこ笑顔で、さあさあドーナツどうぞ。上司にも同僚にも部下にも「デクスターって、いい人だな」を刷りこむ刷りこむ。そしてデクスターが欠かさずにドーナツをあげるのが、事件関連の資料を管理する資料課職員のカミラ・フィグ。

デクスターにとって、カミラと仲良くなるのは重要だ。なぜなら、自分のターゲットである殺人容疑者の資料を彼女から貸してもらうのだから(もちろん、彼女はデクスターが殺人鬼であることは知らない)。デクスターとカミラの、資料とドーナツのギブ・アンド・テイク。劇中、こんな掛け合いがある。


デクスター「Donut?(ドーナツ、いります?)」。
カミラ「You keeping your fingernails clean?(爪はきれいかしら?)」
デクスター「Never leave home without my rubber gloves.(ゴム手袋なしで外出しませんよ)」
カミラ「Good boy.(いい子ね)」
デクスター「So, anything new?(ねえ、なにか新しい犯人情報ある?)」。

その後、デクスターのおべんちゃらがツラツラと続き、カミラが半分本気、半分冗談で「Just don’t get me fired.(資料を見せていることがバレて、私がクビになるなんて状況だけはさせないでよね」。それにデクスターはこう切り返す。

「Then who would I bring donuts to?(そうなったら、僕、誰にドーナツあげるんです?)」。

3、よれよれコロンボ刑事、難解事件解決できても大好きドーナツは没収

刑事ものの元祖といえば、1968年に放映スタート、ピーター・フォーク主演の『刑事コロンボ』。ロサンゼルス市警察殺人課のコロンボ刑事が、どんな相手にも飄々とした独特のテンポでジリジリ追い詰め、事件の謎の解明までを導く、老舗刑事ドラマだ。エピソードの冒頭で殺人シーンがあり、視聴者は最初に犯人が誰かわかってしまうという斬新な技巧。あとは、コロンボ刑事がどのように犯人を追い詰めていくか、いかにして難解な事件のトリックを解いていくのかをたのしめるという、当時としては画期的な手法をもちいている(ちなみに、日本の刑事ドラマの主格、田村正和主演の『古畑任三郎』も、この手法から影響を受けている)。毎話、犯人役には女優のフェイ・ダナウェイや監督スティーブン・スピルバーグなど、豪華ゲストを迎えていることも、刑事コロンボの味わいどころだ。

トレードマークの薄汚れたよれよれレインコートに身を包み(ピーター・フォーク自前のレインコートだったらしい)、ガタガタの車に乗って、ことあるごとにこぼす「ウチのカミさんがね」。ネクタイは、たいて曲がっているコロンボ刑事の好物も、もれなくドーナツ。1977年に放映された、40話『殺しの序曲』での1シーンが秀逸だ。

このエピソードでは、高いIQがないと入会できない天才たちの団体「シグマクラブ」で起こる殺人事件について。事件の手がかりを探るため、証言者とダイナーで落ちあうコロンボ刑事。ダイナーへと歩いてくる彼の手元には、ドーナツ。もぐもぐしながら、そのままダイナーへと入ってしまう。

証言者が待つ席につくとウェイトレスがニコリともせず、「You bought that here?(ここで注文したんですか?)」。フード持ち込み禁止。威圧感が凄まじい。ややたじろぎながらコロンボ刑事「Um, no I bought it in a donut shop because I was gonna eat it in the elevator but then I saw my friend here and then, um, I am terribly sorry.(いやあ、ドーナツ屋で買って、エレベーターのなかで食べようと思ったのですが、ちょうど知り合いを見かけましてね…。すみません、本当にごめんなさい)」。刑事恐縮。ドーナツ没収。

渡されたメニューに「Well, let me see, um..(ええと、どうしようかな…)」。ウェイトレス「I can come back.(時間が必要なら、戻ってきますよ)」。「No, no, no, いやいやいや…」。

コロンボ刑事が出した答えは…「I’ll have an…, I’ll have a donut.(えぇと…、ドーナツをいただきます)」。!!!

ここまできたら、もはやドーナツをかけた意地なのか、ウェイトレスへの当てつけなのか。それとも、ドーナツにしか目がないほどのドーナツ好きで、まだ食べ足りなかったのか。いやはや、没収されたドーナツより、このダイナーのドーナツの方がおいしかったならよかったけど。

次回のA級ドラマのおいC、B級フードは、
テーマパークの屋台でよくある
「プレッツェル」。
アメリカ人の4人に1人は見たという国民的コメディドラマや、
オフィスのドタバタ人間模様を描くモキュメンタリーまで。
笑うところにプレッツェルあり、
を食そう。

▶︎これまでのA-Zボキャブ

▽煌めいて★アジアのポップス

「Wah Lau!(オーマイガー!)」自由勝手な英語がいいね、シンガポールのいまの音楽。

▽アイコンたちのパンチライン

「「大統領の“イエスマン”にはなりません」米政界重鎮ダニエル・イノウエ氏、半世紀の吐露は重く濃く。

▽懐かしの映画・ドラマ英語

「シャキっとしなさい!」一筋縄ではいかない2000sキャラたちのパンチなひとことを吟味しよう。

Eye Catch Illustration by Kana Motojima
Donut Collage by Midori Hongo
Text by Risa Akita
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine

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