海だけでない、“空気中のプラスチック”。車によるもう一つの排出、見落とされがちだった「タイヤ」について

スタートアップの活動や新しいプロジェクトから読みとく、バラエティにとんだいま。HEAPSの(だいたい)週1レポート
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新しいプロジェクトからは、バラエティにとんだいまが見えてくる。ふつふつと醸成されはじめたニーズへの迅速な一手、世界各地の独自のやり方が光る課題へのアプローチ、表立って見えていない社会の隙間にある暮らしへの応え、時代の感性をありのままに表現しようとする振る舞いから生まれるものたち。
投資額や売り上げの数字ではなく、時代と社会とその文化への接続を尺度に。新しいプロジェクトとその背景と考察を通していまをのぞこう、HEAPSの(だいたい)週1のスタートアップ記事をどうぞ。

今回は、海でなく「空気中のプラスチック」の話。自動車が撒いていた、排ガス以外のもの。

「将来的に自動車による大気汚染は、排気管から出る排気ガスではなく、タイヤが原因になるでしょう。私たちのチームは、目に見えない汚染を、発生源でできるるだけ軽減することを目指します」

これまで注目されなかった。“空気中”に浮遊する目に見えないプラスチック粒子

 実は私たちが吸っている空気も、プラスチックによって汚染されている。大きな原因の一つは、車だ。車といえば、走行によっておこる排ガスは周知のことだが、車のタイヤからは、プラスチックが排出されている。摩擦によって消しゴムが削れるのをイメージするとわかりやすいと思う。ブレーキを踏んだときや角を曲がるときに道路との摩擦など、走行中の摩擦によってタイヤから少しずつ「タイヤの粒子」が削れおち、空気中に微小なマイクロプラスチックを撒いている。

 マイクロプラスチックは、ほかにもタバコのフィルターやクリーニング用品、パーソナルケア商品などからも発生していてる。今年に入って報告された研究では、リサイクルにまわされたものや埋め立て・焼却処理されるものの18パーセントほどが、分解のプロセスで次第に断片化し極小のマイクロプラスチックとなって空気中に分散するという。

 さて、車の走行では、一体どれくらいのマイクロプラスチックが出ているのか? 乗用車での通勤(16キロと仮定)の場合、1日に2.08グラム(英国の2ポンドコインおよそ3枚分)、ロンドンの路線バスがすべてのルートを1日かけて走った場合、336.3グラム(コインおよそ485枚分)ものマイクロプラスチックが発生するという。現在、欧州だけでも年間約50万トン(プール約20,000杯分)ものタイヤ粒子が排出され、世界で2番目に大きな海洋でのマイクロプラスチック汚染の要因ともいわれている。タイヤが削れて生み出すだけでなく、走行のブレーキや排ガスは道路の表面に含まれるプラスチックや体積したマイクロプラスチックを空気中に舞い上がらせる要因にもなるとも。

*酸化反応により引き起こされる生体にとって有害な作用。


さまざまな種類の車を走らせた場合のタイヤの破片生産量の比較。

まるで消しカスクリーナーのよう。シンプルな仕組みを取り入れた新たなタイヤ

 だからといって、タイヤ撤廃というのは無理な話。ならば削りおちる粒子を空中に放出される前にキャッチしてしまおうというのが、昨年英国で設計された世界初「タイヤの粒子を回収する装置」。理工系に強いインペリアル・カレッジ・ロンドンと、アート・デザインに特化した​​ロイヤル・カレッジ・オブ・アートの4人の大学院生によって結成されたチーム「The Tyre Collective(ザ・タイヤ・コレクティブ)」が設計し、現在も開発段階だ。


 白のボディーに丸みを帯びた、かわいらしい見ため(青×黒のカラーバリエーションもある)。さまざまな種類の気流が発生する地面と近い部分に取り付け、ホイールの回転と気流の動きを利用して、タイヤの粒子を回収するという仕組み(もちろんだが、取りつけても通常運転できる)。この装置は現在、60パーセントの空中浮遊粒子をキャッチすることが試験でわかっている。なんだか、懐かしの、消しゴムとクリーナーがセットになった消しカスクリーナーみたい。消しカスを自分でコロコロ回収。
 一定の量がたまれば、取り外し可能なボックスから回収し、それらの粒子は新しいタイヤや印字用インクの原料などに再利用される。「(車を走行させると)タイヤがすり減ることはみんな知っているのに、そのすり減ったタイヤの行き先は誰も考えていませんでした」と開発チームの一人、ヒューゴ・リチャードソンは話す。




収集されたタイヤの粒子のサンプル。高い吸引力の掃除機で有名な「ダイソン」社によって受賞される
「2020年度ジェームス・ダイソン賞」をはじめ、さまざまな賞を獲得済みだ。

電気自動車の時代に必要なもの

 欧米をはじめ世界では2035年からガソリン車の販売を廃止すべきだという意向を示している。日本でも2030年半ばには新車のガソリン車販売が禁止されるという話も。環境問題への取り組みとして積極的におこなわれるガソリン車から電気自動車への移行だが、大きな落とし穴もある。

 それは、電気自動車の方が、このタイヤから発生する粒子が多くなる、ということ。自動車に課されるバッテリーの重量が要因となる。バッテリーを積んでいるためガソリン車よりも平均25パーセント重くなるため、走行中により多くのタイヤの粒子を生みだすのだ。ガソリン車から電気自動車に移行し、排出ガスは削減できたとしてもまいウロプラスチうの問題は悪化する。「将来的に自動車による大気汚染は、排気管から出る排気ガスではなく、タイヤが原因になるでしょう。私たちのチームは、目に見えない汚染を、発生源でできるるだけ軽減することを目指します」

 環境問題への取り組みは、たとえば一つ引き出しを閉めたら別のところが開いてしまうタンスみたいに、つねに一筋縄ではいかないもの。ある一つの大きな転換があるとき、そこには小さな粒子のように見えづらい隠れた問題が紛れているものだ。
 自ら粒子を掃除していくこのタイヤ、消しカスクリーナーみたいだといったが、「車はルックスが大事だから、これはちょっと…」という人も少なくないかもしれない(実際、ちょっと駐車禁止の車輪止めに見えなくもない)。が、自分で出したゴミは自分で拾うように、自分の車が出したゴミをきちんと回収しながら走ることそのものが、かっこいいと思う。


The Tyre Collectiveの開発メンバー。

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All Images via The Tyre Collective
Text by Ayano Mori
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine

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