新しいプロジェクトからは、バラエティにとんだいまが見えてくる。ふつふつと醸成されはじめたニーズへの迅速な一手、世界各地の独自のやり方が光る課題へのアプローチ、表立って見えていない社会の隙間にある暮らしへの応え、時代の感性をありのままに表現しようとする振る舞いから生まれるものたち。
投資額や売り上げの数字ではなく、時代と社会とその文化への接続を尺度に。新しいプロジェクトとその背景と考察を通していまをのぞこう、HEAPSの(だいたい)週1のスタートアップ記事をどうぞ。
伝統の“ストリート”カルチャーが、現代の“ストリート”カルチャーに。大衆の生活シーンに溶けこむメキシコのドリンクが、いま、若者たちのポップなライフスタイルに入りこんだ。
おばあちゃん由来のレシピもヒントに
メキシコのストリート・ベンダー(日本語でいったら、屋台)シーンに古くから根をおろしている飲み物がある。名前は「テパチェ(Tepache)」。メキシコで何世紀にもわたって親しまれている発酵飲料だ。パイナップルをベースに、スパイスなどをブレンドしてつくられるこのテパチェの歴史は、なんとマヤ時代にまでさかのぼるそう。
パイナップルのほかにどんな果物を入れるか、どんなスパイスをブレンドするかは、家庭や地域によってさまざま。幾千のバリエーションをもち、国民の生活にずっと寄りそってきたドリンクだ。
そして、市内の街角に現れる、車輪つきのカートにオレンジ色の大きな樽をのせたテパチェ売りは国民にとっておなじみの光景だ。ティアンギス(メキシコのいたるところで開催されるストリート・マーケット)でも、食べ物やら日用品やらがごったがえす人びとの賑わいのなかでテパチェの屋台も軒を連ねている。高速道路を走れば、その路肩にはでかでかと「TEPACHE」と書かれた看板を掲げたテパチェ売りが、ドライバーたちの喉を潤している。
場所変わって現代の米国・ロサンゼルスで、いまテパチェが人気だ。スタートアップ「De La Calle(デ・ラ・カル)」の商品、De La Calle Tepache。。テパチェを缶飲料として製造し、国内やオンラインで販売を展開している。メキシコのストリートスピリットや伝統文化がたっぷり凝縮された缶飲料だ。
メキシコ旅行でテパチェに出会ったアレックスと、メキシコ出身で祖母からテパチェの作り方を教わっていたラファエルが2020年に創立。ありとあらゆるテパチェを研究し、オリジナリティを尊重しながらも、新しさのあるレシピを考案することに励んだという。
できあがったフレーバーは現在9種類。ベストセラーの「パイナップル・スパイス」にはじまり、「ウォーターメロン・ハラペーニョ」「オレンジ・ターメリック」「ウチワサボテン」など、南を感じる組み合わせ。オーガニック認定を受けたパイナップルを使用し、伝統的な材料と現代的な材料を融合させたレシピに仕上がっている。発酵の製造プロセスにより、腸を活性化するプレバイオティクスとプロバイオティクスが豊富に含まれているほか、果物をふんだんに使用することで抗酸化効果のあるビタミンCもたっぷり。糖分控えめの1缶40キロカロリー未満と、健康志向の消費者にも響くアプローチだ。
それはとっても“いま”な具合で
材料の原色がそのまま染まったかのような鮮やかなパッケージに、目にたのしい踊るようなフォント。De La Calle Tepacheは、メキシコ土着の特有のドリンク文化が、モダンなブランドイメージとして落としこまれている。パキッとした色づかいは、果実のジューシーさとスパイスのアクセントを視覚化したようだ。IGに並ぶイメージも、いまっぽいグラフィックデザインやライフスタイルといった感じ。スケートボードを片手に、パーク帰りにタコスをつまみながら、缶のテパチェで乾杯、ってか。
古来からメキシコのストリートに存在したドリンク文化がいま、缶飲料という手軽さで、ポップなデザインを身にまとい、現代のストリートに姿をあらわしている。異なる時代のストリートカルチャーを横断し、さらにメキシコから世界へと飛びだした文化は、伝統のストリートドリンクスピリットをDNAに持ちながらも、新しいすみかで愛されはじめている。
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All Image via De La Calle Tepache
Text by Iori Inohara
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine