信じない住人、信じすぎる外部者。“UFO集落パイン・ブッシュ”の不思議を追う

「I Want to Believe(真実を求めて)」——?
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超常現象を追う二人のFBI捜査官が主人公のドラマ『X-Files』のテーマ——ではないが、UFOを「want to belive(信じたい)」住民と、多くの「don’t believe(信じない)」住民が暮らす人口1,500人の小さな集落がある。そしてそこを、絶えず途切れず「belive(信じる)」マニアが訪れる。毎年恒例のUFOフェアに、建設中のUFOミュージアム。UFOを地元のアイデンティティとしようと、「世界のUFO首都」を自称する小さな集落なのだ。

ニューヨーク北にある、不思議集落

【UFOHOTLINE:1-845-940-5000】。何度もこの番号にかけても、留守番電話サービスに繋がってしまう。「原因不明の不可解な現象を目撃したら、電話かメッセしてください」と書いてあるのに。

ニューヨーク・マンハッタンから車で1時間半北上したところにある小さな集落、パイン・ブッシュ周辺では、数十年前からUFOの目撃情報が相次いでいる。この地域でのUFO目撃情報を24時間365日直通で報告できるホットライン「Pine Bush UFO」が先の番号なのだが、残念なことに機能していないようだ。
Eメールをし取材を申し出てみた。パイン・ブッシュ周辺でUFO観測を日々しているという、ホットラインと同名サイトの運営者らしき男性が取材を引き受けてくれるとのことで指定された日時に電話をかけたが、やはり留守番電話に繋がった。翌日も、その翌日も、1週間後も掛け直してみたのだが、やはり繋がらなかった。「I Can’t Believe(信じられない)」だ。

それでもこの謎のUFO集落のことが知りたく、毎年おこなわれるUFOフェアというUFOをテーマにした集落きっての一大イベントを主催する、集落のある町クローフォードの町役場に問い合わせると、地域サービス課・課長ドマニエさんが返信をくれた。

「よろこんで。お話しすることは、たくさんあります」。

繋がったビデオ通話の画面には、ドマニエさんと同僚の町役場のマリアさん、UFOミュージアムを計画中だというランスさんという男性、そして、UFOフェアや同地域のUFO関連イベントに必ず出てくるUFOご意見番(?)で、UFO文筆家/研究者のリンダさんがいた(リンダさんのZoom背景は、UFOモチーフだった)。彼ら4名によるUFO集落についての話と、UFO集落へ通い、写真シリーズとして記録を残した写真家ケイトさんによる“部外者”の目と耳がとらえた不思議なストーリーに、真実(?)を求めてみたい。

大地から放たれる光線

「世界のUFO首都」を謳っていても、小さな集落だ。その存在は知られていないに等しい。写真家ケイトさんは、集落周辺の地域で育った友だちを通して知ったという。周りにこのような人がいないとなかなか知ることは難しい。

 それでも、いわゆる“都市伝説”のようなものではない。ここ10年だけでも、集落周辺で2,500件以上のUFO目撃情報があり、ニューヨークのハドソンバレー郡(UFO集落が属する郡)で、UFOの出没が1980年代以来最多となった(理由はわかっていない)。「2016年のある晩には、集落からコネチカット州(東側に広がる別州)までを点と点で繋ぐように、UFOが線状に目撃されたこともありました」。UFO文筆家のリンダさんはそう裏づける。さらにUFO目撃情報は、19世紀にもさかのぼるという。「集落から2、3マイル(3、4キロ)離れたところで農場を経営している人に取材しました。祖父母の世代(1890年代)から目撃されていたらしいのです」。リンダさん自身の初目撃は、1979年、19歳のとき。集落周辺だったという。

「集落周辺のUFOの動きには特徴があります。光線が“地上”から出てくるんです。地表から出てきて、また地上に戻っていきます。UFOといったら、普通見上げなければ目撃できないと思いますが、集落では見下ろさなければいけないんです」。地下になにがあるのだろうか。目撃が多発する季節や時期は、特にないそうだ。「ハロウィーンの夜に多く出没する、なんてことはないですよ」。

 集落の様子は…ケイトさんが撮った写真を見たら想像がつくだろう。のどかそうなアメリカの田舎の町だ。ところどころにひょっこりと現れるエイリアンやUFOモチーフの飾りや看板を抜きにすれば。ケイトさんはこう振り返る。「集落の印象は、“ニューヨーク北部の平均的な町”、ですね。小さいんです。短いメインストリートがあって、そこには小さな村にありそうなお店が並んでいて。よくよく観察してみると、なんか変わった町だなということに気づいた。窓に緑のエイリアンの絵が貼ってあったり、UFOの彫刻があったり。出会う町民のほとんどが、UFOに関する話や考えを教えてくれました」。

 名所は、町民の憩いのダイナー「カップ&ソーサー」。ソーサーとは、英語でカップの受け皿という意味の他に、「空飛ぶ円盤」のことも指す。「たしか、メニューには『外界からやって来た食べ物です』なんて書いてあった気がしました」。

住民のUFO信仰はいかほど?

 町のいたるところに、UFOや宇宙人モチーフの“なにか”がある、とのこと。町民のUFO信仰もそれそうとう深いものなのだろうか。

 たとえば、理髪店のブッチさん。UFO文化の蒐集家・歴史家・スポークスパーソンとして、この集落とUFOの歴史や記録を集めている。お店には、何年もかけて集めた新聞の切り抜きや、ブッチさんのお店を訪ね写真を撮らせてもらったケイトさんもこう話す。「彼は、集落のそばにある畑に友人たちと出かけ、スカイウォッチングをするらしいです。友人には、宇宙人に会った経験者もいるそう」。また集落周辺で育った人は、彼らの人生のなかにUFOが織り込まれているそうだ。「彼ら自身、あるいは親や親戚、友だちが目撃者なので」。

 何度かけても繋がらない謎のUFOホットラインを運営しているというヴェニーという男性は、日中の仕事が終わったら1時間半かけて車で集落まで通い、深夜2時、3時まで滞在し、夜空を観測、その後、数時間寝て、また朝から仕事に行くのだという。このようなライフスタイルを送る同地域のUFOマニアは、彼だけではないらしい。

 UFO文筆家/研究者のリンダさん自身も、時間があれば集落の暗がりを散策する。「先月も6人くらいの仲間と行きました。トウモロコシ畑の上空を、UFOのような物体が平行に、行ったり来たりしているのを目撃しました。ヘリコプターの音も他の音もない静寂のなかで起こったんです」。こんなにも、UFO信者を惹きつける集落なのだから、移住してくる者もいるだろうと思いきや、「UFOが原因で移住してきた住民は知らないですね。訪問客はたくさんいますが」。

 でも「多くの住民には懐疑派もいることは言っておきたい」とのこと。ドマニエさんも懐疑派の一人。「残念なことに、超常現象を自分の目で見たことはないです」。それでも、懐疑派な人、自分はUFOを見ることなんてないと思っている人が、町役場に目撃したとの電話をしてくる人が後を経たない。リンダさんもこう付け加える。「ERの内科医から科学者、教師から軍人まで、いままでUFOのことを信じていなかったさまざまな人々が目撃している。“一番”の目撃者は、懐疑派の人たちです」。

 集落で暮らしていると、日常的にUFOカルチャーについて目にしたり耳にするのだろうか。「メインストリートを歩いていると、多くのお店の窓からは、エイリアンの絵がのぞいていたり。曲がる角曲がる角に、“エイリアン”を見かけます」とドマニエさん。毎月、UFOについて話しあうグループ「United Friends Observers Society(略してUFOs)」の会合もある。「地元の野球チームも『Pine Bush Invaders(パイン・ブッシュの侵略者)』という名前で、チームシャツにはエイリアンが描かれている。どこにでもエイリアンは見かけることができます」

「UFOフェアの日に、集落の外へ出かける住民もいます」

 UFO集落の一大イベントは、毎年恒例の「UFOフェア」だ(コロナの影響で中止となり、オンラインのパネルディスカッションへと切り替わった)。フェアには集落外、特には海外などから2万人のUFO、エイリアンファンが訪れる。UFOに誘拐された経験を持つその界では有名な人物トラヴィス・ウォルトン氏などを招いたトークショーや、UFOがテーマの曲を演奏するバンドのショー、エイリアン仮装コンテストなどの催し物がおこなわれ、通りには子どもから大人までがエイリアンモチーフを身につけて練り歩く。集落が蛍光グリーン一色になる日だ。「エイリアンだけではなく、スターウォーズからスタートレックのファンまで、宇宙コミュニティも来ます」とランスさん。

 主催は町役場だ。ドマニエさんとマリアさん、そしてUFOミュージアムを建てようとしているランスさんの3人だけで切り盛りするという、スーパースモールオペレーション。「3つのタイプの来場客がいます。UFOにとても真剣な人、とても興味を持ている人、仮装をしてパーティーを純粋にたのしみたい人」。普段からUFOがDNAとして流れている集落の大きな行事なのだから、さぞかし集落民もたのしみにしているのだろうと思いきや…。

「わからないです。住民のなかには、フェアの日に違う場所に出かける人もいます。何千、何万人もが集まる大きなフェアなので、特にお年寄りの住民には『手に負えない』と、その日だけ集落を留守にするんです」。現実的な事情。なんとなくわかる気がする。

 世界から人が集まってくるUFOフェア。くわえて、UFOミュージアムも計画中だ。この集落はUFOで地元を活性化し、経済的にも観光収入で潤おうとしているのか。ミュージアム計画のリーダー、ランスさんによると、ニューヨーク州の観光課もスポンサーとして協力してくれているという。また、クリスタル(ヒーリングストーン)ショップのオープンも考えているらしい。そしてすかさずリンダさん、「ドマニエさん、前から言っているでしょう。集落へと繋がる高速道路には『ETハイウェイ』という道路標識が必要だって」。なんだか、どんどん不思議集落、スピリチュアル村となってはいないか。いや、別の意味で。

UFOは、集落民の心を繋いでいるのか

 UFOのもとに繋がる集落…という仮説は崩れた。しかし、集落民には、はっきりとは見えないが、無意識にUFOが繋ぐ見えない輪のようなものは、なんとなくあるという。ドマニエさんはこう話す。

「UFOの話題が出ると、集落民同士で肘を突き合うような、なんとなくの連帯感のようなものはあります。信じていても信じていなくても、UFO目撃を経験したことがあってもなくても、UFOを中心とした、お互いの距離は近い」。

 リンダさんもつけくわえる。「私の目線で、ひとつお話を。先ほどお教えしたように、集落で開かれているUFOの会合に先月行きました。UFOという共通項がなければ、知り合うことのなかったメンバーが、ソーシャルディスタンスを保ちながら、一つの家族のようにUFOをもとに集まっていたのです」。

 UFOを信じる者もいれば信じない者もいる。気にする者もいれば、特に心にとめない者もいる。ここらが、世界のUFO首都を自称するUFO集落の真実(?)といったところか。

Interview with Kate Truisi
Interview with Domanie Ragni, Linda Zimmermann

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Photo by Kate Truisi
Text by HEAPS
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine

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