大都市のロフトではじまる新しい園芸ビジネス「Tula」。ライフスタイルの原点を、植物と思い出す

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クローゼットにとっておきの一着があるだけで心うきだつように、部屋の一角に立たせれば日々を変えるだけの存在感と影響力を漂わせるのが、植物だ。

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今年1月、ブルックリンはブシュウィックにてはじまったのは、これまでにない植物ビジネス。季節ごとにコレクションラインまで持つのだから、ライフスタイルの手入れとなってくれるのは間違いない。新しい植物ビジネスモデルに期待が高まる。

さんさんと夏日の降り注ぐ、植物ビジネスTula(トゥラ)の拠点・ブルックリンのスタジオへ。

完全予約制。Show Room型の植物屋

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 一番安価なもので65ドル(約6,500円)、高いものは400ドル(約4万円)。気軽に立ち寄れる路面店ではなく、位置するのはビルの2階。ここは完全予約のショー・ルーム型、植物をカスタマイズ販売している。
 わざわざ人気になるのを避けているのかと勘ぐってしまうほど、買いやすさはない。それでもこの植物屋トゥラへの人足が途絶えることがないのは、ひとえにここでしか手に入らないものがあるからだ。

 とはいえ、珍しいものだけを取り揃えているかといえば「普通に市場へ行って仕入れているのも多いわよ」とファウンダーでありオーナーのChristian Summers(クリスチャン・サマーズ)。パートナーであるIvan Martinez (アイバン・マルティネス)が隣で続ける。「僕たちは、植物たちをこれまでにない姿に“デザイン”しているんだ」

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左:アイバン、右:クリスチャン

植物を新しい姿へ

 彼らの工夫は「何を」ではなく「どれを仕入れるか」。デザインを学んできたアイバンの目をもって、総合的なビジュアルで植物を選ぶ。「どの植物がどのポット(器)に合うか。どの植物ならポットといいコラボレーションを見せるのか」。これはキュレーションだね、とアイバン。
 もう一つは、仕入れた後。例にとって見せてくれたのはこの植物、仕入れ時には垂直に伸びるものだったという。それを、クリスチャンがアーチ状にデザインした。

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 植物たちを通常から逸れて、これまでにない姿に導くのがトゥラの特徴の一つだ。ただし、そのデザインも「見た目よければすべてよし」ではなく、「植物の声を聞きながら、植物の望む方向に仕上げる」。性質に沿って眠っているポテンシャルを引き出すのだ。スタジオにあるすべての植物の正式名はもちろんのこと、通称・俗称、性質、育て方、その植物が望んでいる育てられ方、がすべて頭に叩き込んであるクリスチャンだからできること。

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 前職は広告、ファッション業界を転々。植物ビジネスへの着手は「念願叶って」。牧場で生まれ育ち、叔母が毎週末行っていたフラワーマーケットのお手伝いが、幼い頃の日課だったクリスチャンは、「彼女が遺してくれた花に対する思いを受け継ぎ、将来おばあちゃんになったら、絶対にお花屋さんがしたい」という思いをずっと抱えてきた。植物との関わり合いが生きてきた年数だから、長年の腐れ縁。物言わぬ植物のことがクリスチャンにはよくわかる。

「あなたのお部屋は何向き?」

 簡単には売らない。「お客さんがトゥララハウスに入ってきて、まず私たちが訊ねるのは部屋の方角ね。植物にとって太陽は生命線だから」。トゥラはその後の育て手となる客にいくつかの質問を投げ、それぞれのライフスタイルにあった植物を当てがい販売する。

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 どれだけお金をつぎ込む顧客であっても、植物とライフスタイルが適当でないと判断した場合、販売はしないという。
「植物は生きているの。一つひとつにあったケアの仕方をしっかり理解し、愛情と責任をもって育てることで、彼らは幸せを感じ、本来あるべき姿で大きく成長してくれる。これこそが私たちの謳う“Plants are alive. Grow wild.(植物は生きている。あるがままに育てよ)”ということなの」

植物のコレクションライン

 
 トゥラの独創的な植物へのデザインと”スタイリング”に欠かせないのが、セラミックを扱うのインデペンデント・アーティストたち。
「植物を通し、ライフスタイルを伝える」ためにはじめた植物のコレクションラインを仕上げていくのは彼らだ。
 今年の春、第一弾として、陶芸家であるJordan Colon(ジョーダン・コロン)とコラボレーションした、2016 spring コレクション「naked(ネイキッド)」。

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 クリスチャンとアイバンが植物のためにデザインした器を、アーティストの勘と手が、具現化していく。トゥラのシグネチャーは、伝統的な「Terra Cotta(テラコッタ、赤土の素焼き)」。地球から生まれる粘土を成型し、つやつけなどを一切おこなわずに素焼きしただけの鉢植え、裸の状態の素材だ。

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 今回はその器をすべて人間が体現できる、strech(伸ばす)、fold(折り曲げる)、perch(腰を下ろす)、pinch(つまむ)という四つの型で展開、生まれたままの状態を表現した。手作業のみで行われるため、同じものがないのもまた味だ。

「時にはpinchがperchになることもあるわよ」と楽しそうに笑う。「粘土が私たちの思うように動きたくないのなら、彼らの動きたいように動けばいいの。そこはセラミック・アーティストたちに任せる。彼ら、つまりアーティストと粘土が望む形にしたいから」

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 今夏の終わりには新たなアーティストとコラボレーションしての「stoneware(ストーンウェア、炻器)」を用いたレイトサマーコレクションの発表も控えている。

街を走る温室、Tulita(トゥリタ)

 どこまでも独自のフィロソフィーを持ったトゥラだが、お高く止まったところはない。週末は美しいスタジオを飛び出して、ぼろぼろをリノベートしたトラックをガタガタ走らせて、街へ植物を売りに行く。

「フードトラックや服を販売するトラック、フラワートラックはあるけどこれまでにプラント・トラックってなかったじゃない?」
 Tulita(トゥリタ)、タコスやチキンオーバーライスに代わって植物を販売する、可動型グリーンハウスだ。

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「街を走れば、トゥリタを見てみんなが驚いた顔をしているね。“走るグリーンハウス”なんて見たことないだろ? トゥリタがトゥラを知るきっかけになることは勿論のこと、植物にその手で触れ合うきっかけになる」と、アイバン。

 街を軽快に走るトゥリタは、たまたまその場を通りかかった人に、植物の存在を思い出させる。トゥラハウスとトゥリタが二つがあって初めて、“看板も路面店もない植物屋”を可能にするわけだ。

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都市だけをリスペクトするのはナンセンス

 彼女たちがライフスタイルを彩る植物の存在とともに思い出させることはもう一つ、大切なこと。
「シティに集まってくるものは必ずどこかで大切に育てられたもの。現代の園芸師として、それを思い出してもらうのも私たちの使命だと思うの」

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 都市に住んでいるとあらゆる場所からいろんなものが集まってくるから不便することはない。だから、つい忘れがちになる。マーケットに積み上げられたトマトも、農場主が虫を殺し陽に当て添え木を作り、大切に育てたものなのだ。

 都市に住みながら、その利便性を保ち続ける都市だけに感謝するのではなく、まずは、集まってきたものの“Origin(オリジン、原点)である地方と、作り手に感謝をする。それが都市に住む人間が自然と寄り添う、最初のステップになる。
 スタイリッシュで新しい園芸ビジネス・トゥラが見せるのは、都市に生きる人々に向けた、とても人間的なライフスタイルの原点だ。

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Tula

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Photos by Yuta Kawanishi
Text by HEAPS, Editorial Assistant: Shimpei Nakagawa

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