カップ酒に「オヤジ」の印象がつきまとうに、淡いピンク色のロゼには「甘くてガーリー」、スピリッツ(蒸溜酒)には「ハードボイルド」といった、なかなか頑固にこびりついたイメージがあった。それゆえ「ロゼなんて、オレ、キャラじゃねぇし」と、イメージを理由に嫌厭していた人たちもいた。
だが、そういった固定概念は、時代の流れとともにだいぶ薄まり、特にいまの若者は、どんなアルコールにも比較的ニュートラルな視点で接しているらしい。これを好機と捉え、「ワインだからといって、ワインボトルに詰める必要はない」というアウト・オブ・ザ・ボックスな発想で、シンプルだが大胆なイメージチェンジをはかり消費者の裾野を広げたロゼと、同様のケースのスピリッツの例を紹介しよう。
「“ガーリー”なロゼ」と「“ギャング”な40オンス」を掛け合わし。この夏、大ヒット
以前、ここ近年でロゼワインがミレニアルズに支持されていることを紹介したロゼワインがミレニアルズに支持されていることを紹介が、ロゼをはじめワインのイメージを一新し、注目を集めているブランドがある。ニューヨークを拠点とする人気ソムリエ、パトリック・カピエロ氏が手がける2016年創業の「フォーティー・オンス・ワインズ(Forty Ounce Wines)」だ。
その名の通り、40オンスのボトルがシグネチャー。あら、寸胴のボトルに入るだけで一気に削がれるロゼっぽさ。40オンスは通常の750ミリリットル(約25オンス)のワインボトルの約1.5の量で、値段は16ドル(約1600円)と、コスパが良い。添加物不使用で味も良い。それらも売れている理由だが、やはり40オンスのボトルによってイメージが変わり「ロゼのTPO」が広がったこと。いままでのロゼにない40オンスでスクリューキャップボトル、というのがウケた(スクリューだからどこでも開けられるし)。
もともと、米国では「40オンス(のボトル)」といえばモルトリカー(ビールみたいな味の発泡酒。アルコール度数はビールより高い)である。いってしまえば、安くて量が多くて酔える酒で、いわゆる“悪そうな奴ら”が40オンスのボトルをラッパ飲みしているシーンをギャング映画でみたことがある人もいるだろう。
この一番左の。でかいやつ。
パトリック氏はこう話す。「ニューヨーク州郊外の低・中所得層に生まれ育った僕にとって、40オンスのボトルは身近なものだった。スケーターやラッパー、パンクキッズたちが集まる場には必ずあって、僕もストリートでヤンチャをしていた頃はよく飲んでいた。一方で、ロゼにはちょっと気取った感じや、女性の飲み物といったイメージがあった」と。
彼はソムリエという職業柄、もちろんロゼは甘いものばかりではなく、どんな料理にもあう、ドライで程よく酸味もありバランスの良いものも多いことは知っていた。加えて「ここ数年、米国のミレニアル世代がロゼを支持しているのをみて、ひと昔前の米国にあった『ロゼ=甘い』の先入観がなくなってきていると感じた。つまり、ロゼの美味しさを知ってもらい、消費者の裾野を広げるには良いタイミングなのではないかと。そこで、ロゼにつきまとう、ちょっと気取った感じや、ガーリーなイメージを無くして、もっと誰もが身近に楽しめるようにできないかと考えた」という。そうしてできたのが「40オンス」のボトルに入ったロゼ。この見た目、なんだかファンタを思わせるせいか、確かに気取った感じはない。
この夏、フォーティー・オンスのロゼは、それまでロゼの醸す雰囲気に拒否反応を示していた人たちを獲得し、消費者の裾野を広げることに成功。また、ガラスの瓶より軽くて、量も多いフォーティー・オンスのボトルは「みんなで楽しむホームパーティやピクニック、キャンプなどのイベントにもぴったり」と、つながり願望の強いミレニアルズのニーズにもフィット。今秋からレッドワインも限定販売中だ。
「“私たちっぽいハードリカー”を探していた」
実際、ウィスキーやクラフトジンに興味津々の女性は多い。ホームパーティーでカクテルを作ることもあるだろう。しかし、花やオードブルを並べてオシャレに飾ったテーブルに合わないからか、「ジンやウィスキーのボトルはワインの用にテーブルに並べられることは極めて少ない。キッチンのどこかに隠されていた印象です」。そう話すのは、ブルックリン発のクラフトジン「フォーサブ・スピリッツ(Forthave Spirits)」の創業者ダニエル氏。15世紀のヨーロッパのハーブ酒文化がインスピレーションといい、18種類のオーガニックハーブを重ねたドライジンの他、アペリティーボ(Aperitivo)やアマーロ(Amaro)などのリキュールもスモールバッチで生産する。
これらはどれも、日常的にオシャレなフード写真をSNSに投稿しているタイプのインフルエンサーから「(自分たちが売りにしている)ヘルシーでクリーンな印象を損なわない」と大人気。オーナー曰く、インスタ映えを意識して作ったわけでなく、あくまで、ボタニカル・スピリッツらしさを表現した結果らしいが、オシャレピープルたちの思わぬニーズにハマったようだ。
個性を尊重する教育を受けてきた若い世代は、既成の価値観にとらわれず、自分らしさを大切にし、自分が良いと思うものを選ぶ—、などと言われて久しい。そのことを考えると、彼らが、「ロゼ=甘い、ガーリー」」といった先入観にとらわれず、より“自分っぽい”アルコールを支持しているというのは、当然の論理かもしれない。凝り固まった考えがないから、「あなたにも合いそうですよ」というきっかけさえ差し出せば、彼らは消費してくれる。40オンスなんて、ロゼを詰めるボトルを寸胴の40オンスに変えただけで飲まれるようになった。
だがそれは、アルコールも“自分っぽい”か、いつメン(いつものメンバー)と違和感なく馴染めるか、をよくみられているということでもある。その判断基準は、先入観や値段、味よりも、プロダクトの佇まいやアティチュード。たかが、ボトル、されどボトルである。
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Photos via Forty Ounce Wines/ Forthave Spirits
Text by Chiyo Yamauchi
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine