昨年に続き今年も名刺交換の機会は減ったなと思い返していました。zoomでの打ち合わせ、背景が個性的だと覚えやすいんだけど、名前を見てもどうもパッと顔が思い出せないこともしばしば…。zoom打ち合わせで「はじめまして」した人たちの、自分用のイラストジンでも作ろうかな。
HEAPSでは毎月、2冊のインディペンデントな出版物を取りあげています。1冊は雑誌から、1冊はジンから。いずれも個人たちの独立した精神でつくられる出版物だが、特にジンからの一冊は、時代性、社会性、必要性などの存在意義も問わずに、世界一敷居の低い文芸・ルールが存在しない世界一自由な文芸「ジン(ZINE)」のおもしろさを探っていきます。
さて、今月の一冊は、「世界中の理解しがたい行動をとる人たちを集めたジン」。
実はみんな誰かにとっての、
ちょっとした“テリブル・ピープル”かもね。
『Terrible People』
作った人:Jennifer, Oriane, Yuting (ジェニファー、オリエン、ユーティン)
「Terrible」。テリブル。ひどい・おそろしい・極端などの意。おもにネガティブな表現として使われるこの言葉。タイトルの「テリブル・ピープル」のまんま、このジンが取り上げるのは迷惑だったり自分中心だったりとひどい行動をとる人々や、理解し難い文化や習慣を紹介。取材やエッセイ、写真やイラストを通してあかるく風刺してます。
そしてこういいます「それらを知ることで、自分たちの行動も振り返ってみない?」。そして「このテリブルって、なんで起こるんだろうね?」と。
———テリブルな人たち。どんな人たちですか。
私たちがフォーカスしているのは、日常のテリブルネス(ひどいこと)。嫌なマナーだったり、自分中心の愚かな行動だったり…。誰しもがなりうるテリブル・ピープルたちです。
———テリブルな人を詰め込んだジンを作ろうと思ったのは?
ロンドンで大学生活を送っていたんですが、私ふくめて制作メンバーがみんな「外国人」で。その目でロンドンの街や人々の行動を観察すると、ゴミ箱にゴミを捨てない人、電車のドアに頭を挟まれているのに必死で電車に乗り込もうとする通勤者とかがいて…。
———なるほど、ロンドンでの日常におけるテリブルへの気づきが制作に繋がったんですね。ほかのメンバーにはどんな人が?
大学のプロジェクトとしてスタートしたのですが、当初は、フランチェスカ(イタリア出身)、ジェニファー(ドイツ出身)、ジュリア(オーストリア出身)、マリア(ポルトガル出身)、オリエン(フランス出身)、ユーティン(台湾出身)の6人。現在はジェニファー、オリエン、ユーティンの3人で活動している。
余談だけど、創刊時にミスって学校から許可されている以上の予算を使っちゃって。当時のうちらのそのテリブルな行動があったからこそ、ジンを創刊できたという(笑)
———(笑)。テリブルな人だけでなく、テリブルな文化や習慣も紹介しています。実際、どんなのが?
デンマークでは、25歳の誕生日を迎えた独身者にシナモンを浴びせるのが伝統らしい。そしてブータンでは、家を守り争いごとを遠ざけるため家の壁に男根を描くんだって。世界にはそういったテリブルな文化や習慣がたくさんあるんだよ。
———だ、だんこ…すごい。我々からすると、だいぶテリブルです。ほかにも、
・上海では、見知らぬ人の靴に唾を吐く
・南アフリカの人は、謎の生物「トコロシェ」を恐れている
・バリでは、同じ名前の人がたくさんいる
などを取り上げていますね。現在第4号まで発刊。毎号、メンバーそれぞれが自国のテリブルエピソードを持ち寄っている感じ?
私たち3人の脳みそから絞り出してるだけじゃないんだ、3号目からは定期的に公募をしてる。そうすればまだまだ新鮮な切り口やストーリーが集まるからね。ヒープス読者のみんながもしテリブルな文化、習慣、人々を知ってたら、メールちょうだいね。
———読者のみなさん、だそうです。公募から実際に採用したテリブル・エピソードを教えてください。
アムステルダム在住の寄稿者が実例をあげながら教えてくれた「ティンダーに潜む“ソフトボーイ”を見抜くヒント」。寄稿者いわく、ソフトボーイとは羊の皮を被ったファックボーイのこと。サブカル草食系で、表面的には感情的になれるけど、裏では人を操るというタイプ。ソフトボーイに遭遇したことある人、多いんじゃないかな。
———恐ろしいタイプ。個人的に「まだ子を授かっていないカップルに『まだ?』と聞くべきでない理由6選」に激しく共感でした。悪気がなかったとて、当人にすれば余計なお世話なわけで。気づかないうちにテリブルなことって、しちゃいがちですよね、自戒も込めて。3人が選ぶ、ダークサイドを持つテリブルな人、トップ3が知りたいです。
うーん、決めらんないなあ、だって毎号新しいタイプのテリブルな人が現れるから!でもそういうテリブルな行動って、文化の違いや無知からきてると思うんだよ。
———行動は文化や習慣からくるから、私たちにとってはテリブルでも、それはその人にとっての普通の行為であることもありますね。
文化的背景やアイデンティティ、社会やライフスタイル、それからジェネレーションギャップもあって、私たちはみんな偏見を持ってるわけじゃない?
ジンを通して、うちらみんなが自分の行動を振り返ったり、周囲の人々をテリブルと思うときに、文化や習慣の違いにも目を向けてよりよく理解できたらいいなと思うんだ。
結局は、みんないつだって誰かにとってのちょっとした「Terrible People」になりうるんだから。
Eye Catch Image via Terrible People
Text by Ayumi Sugiura
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine