コンビニアイスはあれだけケチって買うか悩むのに、ジンの印刷費となるとポンッと出せてしまうから不思議。大人になっても手を動こかす工作ってたのしいんです。世界一敷居の低い文芸で、ルールが存在しない世界一自由な文芸「ジン(ZINE)」。
さて、今月紹介するのは「フレンドシップ」がテーマの3冊。友だちがいるって素晴らしいことだけど、みんなと良い関係でいるのはなかなか難しい。人づき合いの悩みって、どこの国でも、何歳になっても、きっと共通の話題。
大人になったら、どうやって友だちをつくる?
「台本(ジン)片手に、役者気分で演じてみて」
『How To Make Friends as an Adult』
Image via Steven Fraser
大人になってから友だちをつくるって難しい。『How To Make Friends as an Adult(ハウ・トゥー・メイク・フレンズ・アズ・アン・アダルト)』には、友だちづくりのアイデアや秘訣が詰まっている。自閉症で、クィアで、メンタルヘルス不調を抱える筆者が自身の経験を通して綴った28ページだ。人づき合いが苦手でも安心して。大事なのは「自分のペースで、ハッピーに」。
———友だちをつくる、かあ。しみじみ考えてみると難しいかも。
基本的に一人でいるのが好きだから何でも自分でやっちゃいたいってタチなんだけど、それでも時々、誰かと一緒だったらなぁ、共有できたらなぁ、と思う。やっぱり、理解し合える人が側にいるって、素晴らしいよね。
———わかるわかる。で、ハウツージンをつくろうと。
実はね、自分自身でも最初はどうやって友だちをつくればいいかわからなかった。自閉症で、クィアで、いろんなメンタルヘルス不調とつき合いながら生きているから、偏見やネガティブなイメージがあるから難しいだろうと思ったりもして… でも、逆に新しい人と出会うきっかけになるかもと思ったんだ。それで、ジン制作を通して自分の置かれてる状況に立ち向かってみようって。
———スティーブンだからこその友だちづくりのアイデアが、このジンに詰まってる。
うん。まずは「自閉症やその他いろいろを抱える人にとって、友だちづくりは超難しい!」ってことを伝えて、そのうえでその人ならできることをどうやって伝えて、どうやって背中を押してあげられるかを考えたんだ。
周りに馴染むために演技することを強いられているように感じることがあるけど、これがまあめちゃくちゃ疲れるでしょう。だったら、友だちづくりの秘訣をリスト化して、いっそ台本みたいにしちゃうのはどうかって思いついたんだよ。読む人は役者気分でそのリストをこなしていけばいい。
———ナイスアイデア。どれどれ、ちょっとページをめくってみよう。リストには「ガンガン嘘をつく」「好きじゃないことも好きなように振舞ってみる」「笑顔の仮面を被る」「酔っ払ってみる」などなど。割と演技力が必要ですね(笑)
全部が全部みんなにハマるわけではないから、どれを選ぶかは、その人次第。
———やっぱり、大人になったら子どもの頃よりも友だちづくりって大変になったと思う?
年を重ねるにつれて機会は減るよね。クィアでいると居心地の悪さを感じることもあるし、自閉症だと人混みの中で苦しくなって、とてもじゃないけど喋れなくなることある。それでも外に出て人に会わなくちゃ、人との繋がりを持たなくちゃ、と感じちゃう。
———大人になったからこそそれを感じることも、苦しさの一つなのかも。最後に、自身でまとめた友だちづくりの秘訣から、お気に入りを教えて。
自分がハッピーになれることをする、かな。「酔っぱらう」とかも試したけど、僕にはハマらなかった(笑)。結局は、幸せがゴールだからね!
「自分の大切な人には、自分以外からも大切にされてほしい」
フレンドシップを、もう一歩踏み込んで考える『PALS』
Image via Lee P
友情に恋愛並みの愛情を注いだっていいじゃない。1人に限定せず大好きな人みんなと愛し合ったっていいじゃない。人とのつき合い方って、みんな違ってみんないいはず。
エネルギッシュな表紙の『PALS(パルズ)』は、クィアの作者が大切にしたい、サイコーで、大好きなPals(仲間)について。
———友情と愛情についてのジン。パルズって、仲間とか友だちっていう意味だよね?
うん。昔、ストレート※として生きようとしてた頃、当時つき合ってた人たちとうまくいかなくって。友情に嫉妬したり、ライバル視したりがあって…。そんな時にクィアコミュニティーに足を踏み入れてみたら、そこでは友情に愛を注ぐのが普通だってことを知ったんだ。友情を大切にする人たちに囲まれながらもパートナーを持てたことがうれしくて、ジンを作ろうと思ったわけ。
*異性愛者のこと
———実際にジンを作ってみて、どうだった?
ジンを作ることは自分の考えを整理するために大切な方法だった。あと、デリケートな話題について意見を交わす機会が持てたっていうのも、このジン制作のおかげ。
———ジン制作が、自分自身の生きやすさにも繋がったんだ。
そういうこと。読んだみんなが、友情を真剣に受け止め、正しく理解して感謝できるようになるような、そんな手助けがこのジンでできてたらいいな。
———やっぱり友情って、大切?
もちろん!相手がどんな人であろうと、良い友だちでいようと努力することって大事。そりゃあ自分もいつもいい友人関係を築けているわけじゃないけどね。でも「どんなタイプの友情に価値がある」とか「どんな人とつるむとおもしろい」とか、決めつけるようなことは言いたくない。だって、友情のカタチってそれぞれだし。
———うんうん。ジンではポリアモリー※やノン・モノガミー※についても触れているよね。
うん。特にLGBTQの人たちにはノン・モノガミーが多い。これってつまり、人にはそれぞれのつき合い方っていうのがあるってことだよね。
※ポリアモリー:パートナー同意のうえ、複数のパートナーと親密な関係を持つこと
※ノン・モノガミー:一夫多妻制ではない関係のこと
———いろんなカタチの友情を見てきたいま、友情についてどう思う?
一番大切なのは、一人の人が自分のことを完全に満たしてくれると期待するべきじゃないってこと。それに私は、自分の大切な人には自分以外にも大切にされてほしいって思う。これはセクシュアリティに関わらず、みんなが学べる教訓だと思う。
“死んじゃった”ことにした友だち。
時にはサヨナラも大切
『In Memoriam of Ex-Friends Who Are Dead to Me』
Image via Theo Darling
“死んじゃった”ことにした、元・友だちへの追悼をここに。もう気が合わなくなったあの子との別れは悲しかったけど、星座にまつわるちょっと不思議な癒し効果にも気づいちゃった。
切ったり貼ったり、コラージュとテキストを組み合わせて完成したのが『In Memoriam of Ex-Friends Who Are Dead to Me(イン・メモリアム・オブ・エックスフレンズ・フー・アー・デッド・トゥー・ミー)』。
———え、本当に死んじゃった友だちについて?
ううん、リアルには死んでない! “自分の中で死んじゃったことにした”って意味ね(笑)。「block people and pretend they died(ブロックして、死んだと仮定する)」というタイトルのブログを読んでインスパイアされたんだ。それまでの友だちと互いにとって良い関係じゃなくなって、結局縁を切ることになったときに心を痛めたことを、カタチにするためにつくった。
———ホッ、そういうことね。成長していくと自分も相手も変わっていくから、ずーっと仲良しでいるって難しい。
昔さ、友だちがだんだん変わっていっちゃったことがあって。その時「彼らが正しくない方向に行ってるのを止めなきゃ!自分がなんとかしなきゃ!」って、義務感から友達関係を続けてたんだ。でもいま思えば、その時点で友情って終わってたんだよね。もうその子のことを好きじゃなかったし、向こうも理解しようとはしてくれてなかった。そんな関係にエネルギーを注ぐのは無駄って気づいてから、もっと自分に素直になろうって決めたんだ。
———で、その憎しみから友だちを死んじゃったことにした、と(笑)。ジンでは当時の出来事を書き殴ったり、「BITCH BYE(バイバイ、ビッチ)」「FUCK OFF(失せな)」「GROSS(キモい)」「RIP(オワタ)」と罵詈雑言の嵐…
うん、確かに相当憎たらしかったみたいにみえるよね、でもそうじゃないんだ。
———ん?
彼女と過ごした思い出はもちろん大切。でもその子が、“自分が好きになれない別人に変わっちゃった”って思うと、良い思い出も台無しじゃん。そうしないためにも、その子を死んじゃったことにするっていうのは、愛着を持って過去を思い出すための一つの手段だったんだ。
———なるほどなあ。でも、縁を切るとなると心が痛むこともあったんじゃない?
そりゃあもちろん。その感情を浄化するために、ジンを作ったんだもん。葛藤もあったから完成までに約1年くらいかかった。その子とは幼少期からのつき合いだったからすごく悲しかったけど、自分のメンタルのことを思えば、それだけの価値はあった。
それに聞いて、ちょっとスピリチュアル入っちゃうんだけど、友だちと縁を切るときに起きたマジの話。木星が自分の生まれ星座の天秤座の上を通るとき、感情が癒されるって気づいたんだ。それまでずっと長い間、人づき合いで苦しんでたいろんなゴタゴタも、この星の巡りが完璧に整えてくれた。
———わーお、それって神秘的。いま、友だちづき合いは順調?
うん、いまの友人関係はバランスが取れてていい感じ。人として自分を尊敬してくれる人と過ごせてる。もうShitty friends(くだらない友だち)はいない! 結局は、心のコンパスに正直に、ってことなんだよね。
Eye Catch Image via Steven Fraser
Text by Iori Inohara
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine