1920-1990 手描きロゴより。企業の想いと使命を込めた“顔”たちと近代化、変容の時。モダニズムロゴ雑誌『LogoArchive』

「繊維業界のロゴは視覚的にとても明確です。私たちの暮らす物質的な毎日と、強い結びつきがある」
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昭和34年の日本に、あるセンセーショナルなデザイン雑誌が誕生した。昭和34年といったら美空ひばりの全盛期初期。それくらい古い話。その雑誌の名前は英語で『graphic design』。講談社により発行されたグラフィックデザインをテーマとする季刊雑誌だ(1986年に100号をもって休刊)。「日本のグラフィックデザインを海外に紹介する」としてはじまり、日本語と英語の両言語で編集されていたというから、当時にして画期的。今日も世界中で多くの人に読まれている(今月紹介するインディペンデント雑誌の創刊者も同誌を愛読)。2021年のいま見てもデザインがうつくしい。いまのデザインにはない手描きの味や見たことのない奇抜な色使いもとてもたのしい。

さて、時は2021年、大変便利な世の中になったというのにその古臭いカルチャーは廃れない。それどころか、絶え間なく人間的な速度で成長し続ける〈ジンカルチャー〉。身銭を切ってもつくりたくて仕方がない。いろいろ度外視の独立した精神のもと「インディペンデントの出版」、その自由な制作を毎月1冊探っていく。



 今回紹介する一冊は、2018年に英国で創刊した、世界各国のあらゆる業界のロゴがつまった雑誌『ロゴアーカイブ(LogoArchive)』。ロゴのデザイン制作の背景にある興味深いストーリーを探ってみたり、ロゴのデザインをただただ並べてみたり。毎号8ページから15ページほどで、約30近くのロゴを特集する。号ごとに、建築業界のロゴ、自然・科学業界のロゴ、出版業界のロゴ、繊維産業のロゴ、デジタルの世界で見受けられるロゴ、カナダのロゴなど、設けられたテーマもおもしろい。雑誌に並ぶロゴはいずれも、1920年代から90年代までに生まれたものだ。

 1920年代から90年代、世界が近代化に向けて走り抜けたとき。20年代には大量生産という概念やテレビという発明品が生まれ、50年代には自動車が普及し、戦後に出版ブームが起き、化学技術の発展により繊維などの産業の生産のあり方が変わり、80年代からテクノロジーが爆発的な成長を遂げる。変わりゆく現代社会のニーズに応えるため、企業や組織が生産やテクノロジー、インフラ、芸術表現の発展に勢いをもって取り組んでいた。企業、組織の“シンボル”ともいえるロゴには、どんな思いが託されているのだろう。

 ロゴアーカイブの創刊者でワンマン制作をおこなうロンドン拠点のリチャード・バードに話を聞きながら、ロゴから観察する1990年代までの世界をみてみよう。ちなみに、彼自身も企業のアイデンティティを可視化(ロゴに)するブランド・アイデンティティ・デザイナーだ。

HEAPS(以下、H):雑誌『ロゴアーカイブ』では、1920年代から90年代にかけて作られた世界中のさまざまな企業・団体のロゴを特集しています。雑誌のアイデアはどこから?

Richard Baird(以下、R):2018年ごろに参加した雑誌デザインに関する展示会で、軽くて薄い、パンフレットみたいな雑誌を見つけまして。ロゴアーカイブのインスタグラムアカウントはすでに運営していたので、せっかくだから小さい雑誌にして2ヶ月ごとに発売するのはどうかとひらめきました。

H:敷居の高くない装いなので、デザイン初心者でも気軽に読みたくなる。

R:制作をするうえで一番こだわったのは価格帯です(1冊約900円)。デザイン本といえばどれも分厚くって、高価なものが多い。みんながみんな気軽に購入することはできないでしょう。でも小さくて手の届く値段なら比較的みんなが購入しやすい。それに、日本、米国、香港など世界各地の人々にも届けやすいですし。

H:リチャードさんはロゴのどのようなところに惹かれるのでしょう。

R:ロゴというのは、グラフィックコミュニケーションを理解するのに非常に役に立ちます。企業の本質的な性格やあり方が、一つの形に凝縮されている。大学に行かずに独学でデザインを勉強した若いデザイナーの多くは、まず企業のロゴ制作からはじめることが多いです。そうすることで、グラフィックコミュニケーションの基礎を理解できます。


H:へぇ、おもしろいですね。企業もロゴをつくる、あるいは刷新するときにはこだわりますからね。

R:起業したての企業のロゴ制作は毎回とても大変ですよ。企業側はロゴ制作に全身全霊をかけますから。

H:リチャードさんもロゴを手掛けていますよね。デザイナーとして制作時に特に気をつけていることはありますか。

R:独自性ですかね。そのロゴはライバル社より際立っているのか、人の記憶に残るロゴなのか、などを考慮しつつ、企業に似合うロゴ、使いやすいロゴをデザインする。ロゴにも、アプリなどデジタル上で多用されるロゴ、建物にデカデカと使用されるロゴ、トートバックに縫いつけられるロゴなど、さまざまな使用用途がありますから。

H:デザイナーとしての経験や審美眼で、ロゴアーカイブを作っています。どうやって制作しているのですか。

R:雑誌のデザインからコンテンツ執筆、販売まで、すべて僕一人でやっています。最近スタートした@logo archive international(ロゴアーカイブ・インターナショナル)というインスタプロジェクトでは、世界各国にいるデザイナー30人に協力を得てアカウントを運営してもらっています。「ロゴアーカイブ・イタリー」や「ロゴアーカイブ・ジャパン」だってありますよ。

H:#logoArchiveで検索するとさまざまな国のアカウントが出てきますね。誌面で紹介するロゴは、どうやって探しているんでしょう?

R:ロゴデザインについての雑誌をたくさん持っているので、そこから興味深いロゴを見つけたりすることが多いです。夜な夜な雑誌を読み漁った功績ですね(笑)。でもそれをたんに雑誌に取り上げるだけでは物足りないので、もっと深くロゴを考察し追求するんです。



H:気になったのが、誌面には、ほとんどといっていいほど有名な企業ロゴが掲載されていない。コカ・コーラやナイキなど…。

R:それらのロゴが、あまり好きではないからです。それに誌面に載せても新しい発見がないでしょう? ナイキのロゴは5歳の頃から知っているし、アップルのロゴも毎日のように見ている。誌面では、読者がこれまで見たことないロゴを紹介したかったんですよ。

H:あともう一つ気になったのが、1920年代から1990年代という特定の時代のロゴだけを集めている点。

R:個人的にモダニズム*に影響を受けているので。

*グラフィックデザインにおけるモダニズムは、抽象的で幾何学的、そしてシンプルなデザインで機能性も兼ねそなえる実用的なアートを意味する。

H:20世紀以降の、モダニズムのロゴ。

R:ミッドセンチュリー(1940~1960年代のデザインスタイル)へのロマンですかね。この頃、モダニズムが花開き、企業のアイデンティティの新しいシステムが構築された。

H:企業や組織がシンプルで力強いロゴを作っていったのも、1950年代後半以降のことですよね。たとえば…。

イタリア人グラフィックデザイナーのフランコ・グリニャーニが1963年に制作したのが、あの有名なウールマークのロゴ。国際羊毛事務局 (IWS)のデザインコンペに、審査員でありながらグリニャーニがこっそり提出し起用されたデザインです。現代のライフスタイルに似つかわしいダイナミックな構図のロゴだと評されています。

R:繊維業界のロゴは、視覚的にとても明確です。繊維が折り重なっている様子やねじれた感じを表している。私たちの暮らす物質的な毎日と強い結びつきがある。



H:繊維は、石油化学の進歩とともに時代のテクノロジーやライフスタイルを表す産業ですよね。また、1832年に創立された米最大の教育出版社ホートン・ミフリンの、本をモチーフにしたダイレクトなロゴ(1970年)も、出版社としてのシンプルな使命を感じます。雑誌でも紹介していますが、デザイナーのスティーブ・スナイダーは「何冊の本にしよう」「どう組み合わせよう」から「三冊の本を組み合わせて六角形にする」に行き着くまで試行錯誤を繰り返したといいますね。

R:彼に話を聞きましたが、出版社のロゴということでやはり本をモチーフにするのが適していると思ったそうです。そしてそこに「継続する学び」というコンセプトも加えたかった。なので、読んで学ぶという進行中のプロセスを表すロゴができたんです。



H:そのほかにも、現代社会の市民の足となった交通産業のロゴ(サンフランシスコの市営鉄道「ムニ」、75年)や大衆の娯楽である映画産業のロゴ(カナダの映画館「ル・プッシーキャット」、69年)」、現代の人々を繋げた情報・通信業のロゴ(米国の通信会社「ワーナーコミュニケーション」、72年)など、近代化する社会と文化、みんなの生活のなかに佇んでいたロゴをたくさん紹介しています。これらのロゴには、いまのロゴにはない特徴はありますか。

R:いまはフォトショップやイラストレーターがありますが、80年代以前のロゴはどれも手描きでした。ここでおもしろいのは、テクノロジーが存在するからといって、クリエイティビティの幅が広がっているわけではないということ。なんなら手作業でデザインされたロゴの方がとてもユニークな形をしていて、おもしろい。

H:ムニもル・プッシーキャットも、うつくしい曲線に特徴があります。テレビが普及しコマーシャルなどの視覚的な広告を通してロゴを使用できるようになった60年代や、インターネットが急速に普及した90年代など、社会にコミュニケーション手段が増えるような時代のターニングポイントには、ロゴデザインや役割に変化があったのでしょうか。

R:ロゴが表示されるのが印刷のみだった時代には、ロゴの「形」が重要でした。それがテレビのスクリーンにも映し出すようになってから、視聴者の注目をひくために、ロゴに色をつけ、動きもくわえるようになった。そしてコンピューターが普及し始めてからは、ロゴに光沢をつけるようになった。このように、テクノロジーの発展はロゴへと大きく影響しています。

H:動くロゴといえば、画面サイドからランプがジャンプして現れるピクサーのロゴや、暗闇から突然現れるスタイルのソニーのロゴなんかがありましたね。テクノロジーとロゴの関連性、興味深いです。

R:2000年代にはメタリック(光沢のあるエフェクトなど)で細かなところまでデザインされたロゴが多く作られました。なぜなら、細かな部分までプリントできる技術が安価に普及しましたし、オンライン上でもきれいに見せることができるからです。デザイナーには最新テクノロジーを駆使したものに挑戦したがる人が多いですよ。なので2000年代のロゴには騒がしいものが多かった。しかし、テレビやオンライン(でのデザイン)が飽和状態になったいま、シンプルなデザインに戻ってきています。ロゴは、“シンプルでわかりやすいコミュニケーション”の時代を迎えているんです。

H:だから、これでもかというほどフラットデザインがあふれているんですね。

R:インターネット初期のウェブサイトって、どれも目に鮮やかな色使いと派手なフォントで埋めつくされていたでしょう。だけど、いまはシンプルでマインドフル、洗練されたデザインになっている。シンプルの方が健全だし、高級感がありますからね。

H:20世紀のロゴには、激動の近代社会を取り巻くあらゆること——経済の興隆、産業の発展、コミュニケーションツールの変化——などが反映されているんですね。ちなみに、リチャードさんが思う20年代から90年代までの最高傑作のロゴは?

R:NASAのロゴです。SF映画などで見慣れていたこともあって、ノスタルジックに感じます。未来へのビジョン、自分たちよりも大きななにか、といったことを表している気がして。

Interview with Richard Baird of LogoArchive

All images via LogoArchive
Text by Ayano Mori and HEAPS
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine

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