今回は北欧の国エストニアから。首都タリンにあるKai Art Centerで開催中の『Patricia Piccinini: the Instruments of Life』を紹介したい。西アフリカのシエラレオネに生まれ、現在オーストラリアを拠点に活動するアーティスト、パトリシア・ピッチニーニの個展だ。本記事で紹介する展示品の写真のなかにはグロテスクなものも多々あるので、先にそのことを伝えておく。
ピッチニーニの創作にある大きなテーマは、「人間同士の関係」や「人間と他の種との関係性」。自身の作品を通し、生命倫理を取り巻く懸念を伝える。「リアルでやや不気味な彫刻作品」で、だ。
彫刻作品では、遺伝子交配の可能性から生まれるであろう架空の生命体を創り出す。よりリアルを追求するため、素材にはシリコンや人毛を使用。完成まで約1年を費やすというこだわりだ。同展では、彼女が2005年から20年までに制作した彫刻とビデオ作品が展示される。
ひときわ目を引く“架空の生命体”を3つ見てみよう。彫刻作品『The Loafers』は、キメラ(同一の個体内に異なった遺伝情報を持つ生命体)。なかなか衝撃のビジュアルだ。人間となんの動物がかけ合わさったのだろう。『Sapling』は、人間が苗木のような見た目の我が子を肩車している。一瞬、本物の人間が背負っているのかと思った。子のルーツ(根っこ)は親にあるという比喩作品だ。また母親に母性があるように、父親にも父性があることを表現しているのだとか。自然の中で育つ木と人間の子を組み合わせたこの作品からは、まるで「子を愛でるように、環境を愛してみてはどうか」とのメッセージも聞こえてきそうである。『Sanctuary』では、年老いた類人猿同士が抱擁している。絶滅の危機に瀕しているボノボ(ヒト科チンパンジー属。人間に最も近い類人猿といわれる)からインスピレーションを得た作品だ。性欲が強く、セックスという行為を愛情表現や地位の誇示、争いの鎮静のために用いるボノボを起用することで、あまり話されることのない高齢者の性についても言及している。開催は今月25日まで。
Patricia Piccinini with her artwork ‘Shoeform’_photo Alli Oughtred
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Eyecatch :Patricia Piccinini_ Instruments of Life_Exhibition view_ (2021)_Photo_Mari Volens (3)
Text by Ayano Mori
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine