「甥にプレステを購入して」「宇宙に遺灰をまいて」死後の願いを叶える、風変わりな生命保険。お金の行くえはあなた次第

スタートアップの活動や新しいプロジェクトから読みとく、バラエティにとんだいま。HEAPSの(だいたい)週1レポート。
Share
Tweet

新しいプロジェクトからは、バラエティにとんだいまが見えてくる。ふつふつと醸成されはじめたニーズへの迅速な一手、世界各地の独自のやり方が光る課題へのアプローチ、表立って見えていない社会の隙間にある暮らしへの応え、時代の感性をありのままに表現しようとする振る舞いから生まれるものたち。
投資額や売り上げの数字ではなく、時代と社会とその文化への接続を尺度に。新しいプロジェクトとその背景と考察を通していまをのぞこう、HEAPSの(だいたい)週1のスタートアップ記事をどうぞ。

※※※

どうにも堅っ苦しい印象の生命保険。そんな敬遠されがちな業界に「死後の願い、何でも叶えますよ」とフレンドリーに現れたのは、“ミレニアル世代のための生命保険プラン”なるもの。「恋人の旅行費用を全額負担」「甥っ子にプレステ購入」「自分の葬式時に友人のウーバー代を支払う」など、どんな希望も柔軟に受け付けるという。願いも金額も自分で設定できる、まったく新しい生命保険だ。

お金の使い道、ウィッシュリストのように自分で決める

 生命保険と聞いてワクワクする人は少ないと思う。特に若者世代においては日本も含めて生命保険への加入率は下がっているといわれる。学生ローンに住宅ローン、そんな死後のことを考える余裕はないぜ…が本音か。そんな世代を振り向かせようと、やたらとフレンドリーで陽気なアプローチを試みる、一風変わった保険会社を見つけた。英国発のデジタル生命保険会社「DeadHappy(デッドハッピー)」だ。ハッピーだなんてちょっと不謹慎じゃないの?と、その振り切ったネーミングにはもちろん賛否ある。

 デッドハッピーの魅力は、まず低価格であるところ。一般的な生命保険の月額平均が約23ポンド(約3,200円)なのに対し、デッドハッピーは約15ポンド(約2,100円)。そして、支払いに“自由が効く”ことと、いつでもキャンセル可能であるという手軽さだ。従来の生命保険が月々定額支払いなのに対し、デッドハッピーは「今月ピンチ」であればその月は支払わなくてもいいという。毎月の支払いのプレッシャーに苛まれることのない柔軟さと価格帯、さらにはいつでもキャンセル可能(罰金なし)という懐の広さが、ミレニアル世代から好評を得ている。

 さらに特筆したいのは、デッドハッピーが提供する「Deathwish(デスウィッシュ)」というユニークなプラン。文字通り「死後の願いを叶えます」で、死後に支払われる保険金の金額を設定し(£350,000が上限だった。約5千万円)、用途も指定できる。たとえば「自分の銅像を建てたい」「妹の学費を支払いたい」でもよいし、「宇宙の果てに自分の遺灰をまきたい」などでもいいらしい。「ペットのエサ代にして」も可。選択肢は人の数だけある。プランを制定しそれにしたがって契約者の死後に保険金が使われるという、遺言のような仕組みだ。デスウィッシュの作成方法はこう。

1、自分のデスウィッシュを決め、それを叶えるのに必要な合計金額を制定。

2、そのデスウィッシュは誰にあてたどんな願いなのか、詳細を記入。

3、制定した金額を元に、デットハッピーが月々の支払額を決定。

 工程はすべてオンライン上で完結できるため、プランナーに勧誘される心配はない。そして、ちょっと恥ずかしいデスウィッシュも惜しげなく作れる。現在約6万3,000以上のデスウィッシュが契約済みだという。
 もう一つ、大きな違いがある。契約者が自死でも適応されるという点だ。従来の保険会社では自殺の場合は生命保険が適応されないことが多いが、デットハッピーは自殺の場合でも書類提出なしで保険金を支払う(ただし、12ヶ月間の支払いを終えた場合のみ)。「精神的な問題を抱え自殺したのならば、保険は適用されるべきです」との見解からだ。

「死=ハッピー」ではなく「死後も大切な人をハッピーにできたら」

 デッドハッピー、ハッピー(幸福)だなんてちょっと不謹慎じゃないの? という声もあると上で述べたが。しかしながらその意図は、「死=ハッピー」と言い放つものではなく「自分の死後も大切な人をハッピーにできたら」ということらしい。共同創業者のフィル・ザイドラーは「誰もが死に直面するにも関わらず、死についての会話や備えがタブー視されている。私たちはこうした死に対する捉え方を変えたい」と話している。

 ゆえに、社名のみならずウェブサイトのビジュアルは明るく、同社のマスコットキャラクターは微笑むドクロだ。昨今の、生にポジティブになるため死を肯定的に捉える「デス・ポジティブムーブメント」にもばっちりハマりそうなものの、やっぱり賛否両論の否は減らない(そのせいなのか、共同創業者のアンディがドクロのメイクを施した写真はウェブサイトから削除されていた)。
 しかしデッドハッピーの目的は、あくまで「人々の死に対するネガティブな捉え方を変える」こと。残された者が故人のデスウィッシュを受け取り、少しでも笑顔になれるのならば、それがデッドハッピーの本望なのである。

—————
Eyecatch Image Graphic by Midori Hongo
Text by Ayano Mori
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine

↓↓↓毎日お知らせ含めて配信中。HEAPS(ヒープス)の公式ツイッター↓↓↓

Share
Tweet
default
 
 
 
 
 

Latest

All articles loaded
No more articles to load