世界一現代アートに関する美術館が充実していると有名な、イギリス・ロンドン。中心部のピカデリーにあるロイヤル・アカデミー・オブ・アーツ(王立芸術院)通称「RA」は、1768年の創立以来、250年以上も続くイギリス最古の美術学校だ。併設する美術館では『デイヴィッド・ホックニー展』など有名画家の展覧会もしかり、在学生の数万円の作品から同校出身の著名芸術家の数千万円の作品までを一堂に展示販売する毎夏の風物詩『サマー・エキシビジョン』が人気である。現在開催中なのは、ベルギーの画家レオン・スピリアールト(1881〜1946年)の回顧展『Léon Spilliaert』。イギリスでは初の開催となる。
海岸沿いにある小さな街オステンドで生まれたレオンは、病弱で内向的な性格だった。哲学者のフリードリヒ・ニーチェや、小説家のエドガー・アラン・ポーに傾倒。幼少期から絵を描くことが好で、水彩やパステル、色鉛筆や墨を使い、微妙な色合いを巧みに生み出しては、不気味でどこか物憂げな絵を描き続けてきた。作品では幻想的な空間と孤独な人物が描かれることが多く、見る者に抑うつと静寂の感覚を与える。
手記の中で彼はこう語る。「幸運が舞い込んでくるのを待つのはうんざりだ。結局は卑屈になるんだ」。ベルギーの都市ブルージュにある美術学校アントウェルペン王立芸術学院に在籍していたが、健康上の問題で中退。また胃潰瘍のため不眠症に見舞われ、夜の空っぽの街を頻繁に徘徊。その作風は、彼が歩んだ人生とそこで感じた孤独で不安な心を映し出したものなのである。これらは目には見えない人間の内面や観念などを象徴的に表現する、象徴主義に分類される。
同展に飾られるのは、窓辺に佇む女性を描いた『Young Woman on a Stool』や顔に大きく影を落とす自画像『Self-Portrait』、叫ぶ狂気を表すような『The Gust of Wind』など。ベルギー、フランス、アメリカのパブリックコレクションとプライベートコレクションから集めた約80点の作品だ。
会期は残り7日、9月20日まで。ロンドンを訪れるのは難しい状況なので、ヒープスのウェブ上で心に沁み入る陰気な作風と彼の世界観に浸ってほしい。ぜひ、お一人で。
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Text by Rin Takagi
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine