将来のワタシへ。具体的なプランはないけど「いま卵子を冷凍保存」凍結は数分という経験者(25)と、率直なQ&A

「いつか産みたいから、若いうちに保存しておく」。女性の〈卵子凍結〉が急速に市民権を得ているいま、25歳で経験済みの米ミレニアル女性に「率直な凍結体験」を聞いてみた。
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2014年ごろ、グーグルやフェイスブック、アップルが女性社員に対し“ある福利厚生”を導入し、世の度肝をぬいた。それは「〈卵子凍結〉にかかる費用を負担します」。
若いうちに卵子を冷凍保存し、のちに使用して子どもを産む技術〈卵子凍結〉。「卵子凍結を応援します」の宣言から4年ほど経過したいま、米国の女性のあいだで卵子凍結は目下沸騰中だ。20代半ばにして自らの卵子を凍らせる若い女性が急増している。

「私は25歳で卵子を凍結しました」大衆化する?“卵子凍結という選択肢”

「いまは子どもを産みたくないけど、将来は欲しくなるかもしれない」。そう思う女性が近ごろ選択するのが〈卵子凍結〉だ。体から卵子を採取し、凍結保存。産む準備ができたときに卵子を融解(解凍)し、体外受精で妊娠・出産する。元はといえばこの卵子凍結は、がんの治療などで将来的に妊娠ができなくなるかもしれない女性のために医学的な理由でおこなわれてきた。不妊治療のステップとして卵子凍結・体外受精が実施されることもある。
 しかし近年は晩婚化・晩産化の影響で、「いまは無理だが、いつかは産みたい」女性が増加。30代半ばを過ぎ卵子の老化が急速に進むことを恐れ、卵子を冷凍保存しようとクリニックに足を運ぶ。いま、女性たちは医学的な理由からではなく、「仕事が忙しく産むタイミングではないから」「パートナーがまだいないから」と社会的な理由や個人的な理由で、卵子を将来のために凍結させるということだ。

 卵子凍結に踏み切る女性の増加は数にも顕著に現れており、米国では卵子凍結をする女性の数は2009年は475人だったのに対し、2015年はその13倍の6,207人アメリカ生殖補助技術協会)。卵子凍結クリニックは20代から30代前半のミレニアル女性をターゲットに「卵子凍結に関する正しい知識を教えましょう、疑問を解決しましょう」“卵子凍結”カクテルパーティーなどを開催したり、全米を横断するポップアップトラックで無料不妊検査をしたり、卵子凍結ベンチャーやスタートアップも出現したり。日常会話や普段の生活シーンに「卵子凍結」が登場する時代となった。

「産む時期に左右されず、女性の人生の選択肢が広がる」「卵子の老化はまぬがれないから一つの手段としていいのではないか」という肯定的な意見もある一方で、「妊娠の機会を先送りにする女性が増える」「やはり高齢出産はリスクが高い」「卵子凍結の過程で健康へのリスクがある」「凍結卵子を用いての妊娠成功率はとても低い」「子どもは自然につくるもの」など卵子凍結には否定的な意見もある。
 賛否両論の卵子凍結だが、フロリダ在住のミレニアル女性シドニア(26)は今年、親友のジェシカ(26)と一緒に卵子凍結に関する情報サイト『Freeze.Health(フリーズヘルス)』を立ち上げ、卵子凍結の啓蒙活動に励んでいる。実際に、自身も「25歳のときに卵子凍結しました」という経験者の彼女に「卵子を未来のために保存しようと踏み切ったきっかけは?」「保存した卵子をいつ解凍しようと?」「親世代はどう考えている?」などの直球疑問をぶつけてみる。

※本記事は、卵子凍結賛成、反対どちらの観点でもなく、卵子凍結を経験した女性のいち意見を伝えるものとする。


左が、「フリーズヘルス」の創設者で、今回の取材を引き受けてくれたシドニア。
Image via Freeze.Health

HEAPS(以下、H):いま米国では〈卵子凍結〉が急速に身近な存在になっているらしいですね。ミレニアル女性をターゲットにした卵子凍結クリニックが増加しているとも。なぜこのような現象が起きているのでしょう?

Sidonia(以下、S):若い世代は晩婚化が進んでいるから、子どもを産むのもそのぶん先送りになっています。それに年齢を重ねれば、自然と妊娠しにくくなってしまう。20代・30代前半の女性の卵子はまだ若く、将来その卵子を使用して妊娠できる可能性が高いので、クリニックもミレニアル女性の顧客を増やそうとしています。

H:卵子凍結クリニックは、ユニークなアプローチで大衆にアピールしていますよね。たとえば「もっと卵子凍結のことを知りませんか」とカクテルパーティーを開いたり、「卵子凍結の疑問点を晴らしましょう」とランチイベントを開催したり。

S:ええ。それに最近は、卵子凍結を経験したセレブリティや卵子凍結に関する報道など、卵子凍結のメディア露出も多いです。メディアや口コミで広がっていった卵子凍結の情報が、女性たちのあいだでも共有されるようになるんです。最近は、社会的にも政治的にも女性のエンパワメントが盛んですよね、その影響もあると思います。卵子凍結は、若い女性たちが自らの体の主導権を握るということですから。

H:人気ドラマの出演女優も自分の卵子凍結体験をツイートしたり、ブログやポッドキャストで自身の体験を共有する人もいると聞きました。

S:5、10年前と比べると、圧倒的に卵子凍結に関することを学ぶ機会が多くなったと思います。私たちのウェブサイトでも、女性たちがいつ、どこで卵子凍結をしたらいいかを決めるために参考にできる情報を提供しています。たとえば各都市にあるクリニックの価格比較チャートとか。卵子凍結を経験した女性によるクリニックのレビューページや質問コーナーなどもつくっている最中です。


Image via Freeze.Health

H:あなたは25歳で卵子凍結を経験しました。きっかけはなんでしたか? 

S:昔から子どもはいつか欲しいと思っていたんです。でも20代半ばにさしかかって、同年代の友だちとの会話に出てくる話題といったら、子宮内避妊用具や避妊ピル、つまり「どうやったら妊娠しないようにするか」。将来の“産むこと”については話していなかった。

私たちは、肌へのダメージを防ぐために日焼け止めをつけるし、病気を防ぐために野菜をきちんと摂る。ストレス解消のために運動もする。大なり小なり、そうやって病気を予防するための健康対策はしているのに、将来経験するかもしれない“不妊”にともなう痛みやストレスを軽減する予防はしていないなって気づいたんです。それで20代半ば、ある程度貯金もできたので将来のためになにか投資がしたいなと。ルイヴィトンのバッグやジミー・チュウのパンプスを買うこともできたけど、将来的に価値を残せるユニークな投資をしたかった。で、卵子凍結を思いつきました。「自分のDNAよりユニークな投資ってある!?」って。

H:まわりに話したら驚いてました? 保守的な意見も多い親世代の反応が気になります。

S:私の友だちは卵子凍結についてもともと興味があったので、ショッキングではなかったようです。近い将来、卵子凍結をしようと計画している子もるし。私が仲間のなかで卵子凍結第一号だったので、よく質問攻めにはされますね。両親も協力的でした。卵子凍結によって孫に出会えるチャンスが増えたと喜んでいるみたいで。

H:卵子凍結のプロセスについて少し聞いてみたいです。普通は月に1つだけしか育たない卵子を一度により多く採取するために、卵子凍結のプロセスではホルモン剤(排卵誘発剤)を打って卵巣を刺激し、卵子を多数育てる。人工的なホルモン剤を体に取り込むことに、正直いって不安はありませんでした?

S:ホルモン剤を注入すること自体は最初、とても不安でした。でもいろいろリサーチを重ねてみると、この方法は長年のあいだ医学の現場で使用されているもので、ホルモン自体も私たちの体が生成しているものと同じように作られていることがわかったので、安心できました*。

*ホルモン剤(排卵誘発剤)には、卵巣過剰刺激症候群(腹痛、腹部膨満感)という副作用がともなう場合もある。

H:凍結する卵子を取り出すまでホルモン剤を注入している数日間(通常8〜10日間)は、気分にムラがでたり情緒不安定になる人もいると聞きました。そんな経験はしました?

S:私の場合はありませんでしたね。 ただ、凄まじい食欲に襲われました。朝ごはんにクッキークリームアイスとサモサ(インドの屋台フードでこってりな揚げ物)を一度に食べたこともあります。

H:いまでは、凍結プロセスの質も良くなったといわれています。

S:卵子凍結の技術が格段によくなりました。いままでは採取した卵子をゆっくり凍結させていく“スローフリージング”と呼ばれるプロセスでしたが、いまでは卵子を瞬間的に凍結させる超急速ガラス化保存法*という技術が導入されています。おかげで、従来は数時間かかったプロセスも、いまでは数分で終了という感じ。この高度技術によって、きちんと卵子を保存できる確率もあがったようです。

*いままでは凍結過程に形成された結晶が細胞を傷つけてしまうことがあったが、超急速ガラス化保存法という超高速冷凍法により結晶がつくられず、染色体異常や細胞破壊などのリスクが減り、受精率も高くなった。


一番安価なもので、約52万円(凍結プロセス費用+1年間の冷凍保存費)。

卵子凍結の基礎知識を教えるページも。
Image via Freeze.Health

H:凍結プロセスを経て、あなたの卵子はいま17個保存されています。これを何歳までに解凍して妊娠したいなとか、具体的なプランはありますか。

S:具体的なプランはまだないですね。

H:あ、そうなんですね。みんなあまり計画していないのですか?

S:卵子凍結した知り合いにも、具体的に計画をしている人はいないかもです。これこそが卵子凍結の利点だと思います。いつ卵子を使って妊娠したいのかという具体的なプランが、いまの時点でなくてもいい。でも“計画(妊娠)実行”のときが来たら選択肢があるのはとても安心ですし、人生の選択肢も広げてくれます。

H: では、人生のある地点に差し掛かり「子どもを産もう」と決心したとします。凍結した卵子を解凍し、精子と一緒に受精させ受精卵をつくり培養、できた胚を子宮内に移植する。つまり、体外受精を経験することになりますよね。これに対してはどう思いますか? また凍結した卵子1個によって妊娠できる可能性は低く、わずか2〜12パーセントだともいわれています(アメリカ生殖医学会調べ)。

S:友だちや同僚には体外受精で子どもを授かったケースもあるので、体外受精でも家族を築くことが可能だと思っています。それに確かに成功率は低い。だから、クリニックでは複数の卵子を保存することを勧めているのです。

H:たとえば、もし将来自然妊娠をして、凍結した17個の卵子を使用しない、なんてこともあるかもしれません。そうなったら卵子は…?

S:妊娠できない友だちや、子どもが欲しいゲイの友だちに提供することもできます。

H:卵子凍結に肯定的な意見が増える一方で、「卵子凍結は高齢出産を促すことになる」や「倫理的に問題がある」と反対派も多いです。このような意見にはどう考えていますか?

S:いろいろな意見があっていいとは思いますが、事実でないことや臨床的に証明されていないことに基づいた否定的な意見を聞くのはちょっとうんざりします。それに「卵子凍結は高齢出産を促すことになる」ですが、「卵子を凍結すること=高齢出産を経験すること」ではないと思うんですよね。出産の時期は、女性たちが自身の体とそのときの状況と相談して決断しますから。

H:最近の卵子凍結ムーブメントの裏には、自分の体をコントロールする=フェミニズム、女性のエンパワメントの思想がある。それもその通りなのですが、凍結の先には出産があり、出産にはパートナーの存在があります。卵子凍結には男性側の協力と理解が必要だと思いますが、彼らの意見はどのようなものでしょう?

S:私の男友だちの話をしますね。私が卵子凍結を決めたとき、最初こそ彼らがどうリアクションするのかわかりませんでした。批判的な意見もあるだろうし、いろいろ説明しないと理解してくれないと思っていたのですが、驚くことに、女友だちよりも卵子凍結に興味津々の男友だちもいて。彼らにとって卵子凍結は、妻やガールフレンドなど、彼らの人生において特別な女性たちのための選択肢だと好意的に捉えているようでした。

H:うーん…。卵子凍結、コンセプトこそシンプルですが、奥深くて難しい話なのだと実感しました。いいとも悪いともいえない。個人の価値観という究極なテーマですね。今後ますます日常生活のなかで耳にすることも多くなりそうですが、卵子凍結の未来についてはどう見据えていますか?

S:次の10年以内に、卵子凍結はもっとメジャーになると思います。のちのち子どもを産みたいという女性にとっての“ルーティン”のようなもの、ですかね。

Interview with Sidonia Rose Swarm

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Text by Risa Akita
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine

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