〈インフルエンサーたちの家〉できました。“自宅っぽい”空間を演出するみんなのペントハウス(予約4ヶ月待ち)

今度はインフルエンサーのための“ペントハウス”、できました。自宅っぽい空間だけど自宅じゃない。やることは一つ、もちろんセルフィーだ。
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インスタグラム上の投稿を通して、さまざまなプロダクトを“紹介という名の宣伝”をする人たちがいることは周知の通りだが、そんなインフルエンサーのためにデザインされたペントハウスが今年8月、マンハッタンにオープンしている。世界の中で、ニューヨークほどフォトジェニックな風景がそこかしこにある街も珍しい。にもかかわらず、その街に住むインフルエンサーの垂涎の的が、無料で使える外より、有料の「自宅っぽい空間」というアイロニー。また、自宅っぽさは必須だが、決して自宅ではないという矛盾。その「リアルっぽい虚構」で共感を促すプロフェッショナルと、そこに自分の感情を明け渡すフォロワーがいるからこそ成立する共感ビジネスをといてみる。

“インフルエンサーみんな”のためのベッドやキッチン、バスルーム…。

「ベッドの上で朝食」と聞いて連想するのは「あら、体調が悪いの?」ではないらしい。「=病人」ではなく「=優雅」。つまり「いいね」ということになるらしい。少なくともインスタグラムの世界ではそういうことになっている。その証拠に、とでも言おうか。「#breakfastinbed(breakfast in bed) 」で検索してみると被写体は概して薄着だ。
 
 ニューヨーク在住のフォロワー数130Kのとあるインフルエンサーの投稿写真を見てみる。場所はラグジュアリーホテルか、ご自身のアパートの一室。寝起きにサッと熱めのシャワーを浴びて、ダブルベットの上で優雅な朝のひとときを送っている—、そんな印象を受ける。
 しかし、彼女はこのフカフカのクィーンサイズのベッドで眠ったことは一度もない。

「このベッドは、誰のものでもありません。しいていうなら、すべてのインフルエンサーに向けたものです」。

 そう話すのは、この部屋の持ち主で、インフルエンサーとブランドを繋ぐマーケティング会社「ビレッジ・マーケティング」。今年8月、マンハッタンのソーホー地区に「インフルエンサーのための家」をオープンしたのが同社だ。キッチン、バスルーム、ルーフトップパティオ付きの2ベッドルームは、すでに今年12月まで予約でいっぱいだそうだ。

 インフルエンサーたちがこの部屋ですることといえば、優雅なひとときを送ることではなく、SNSに投稿するための撮影だ。唯一にして最大の目的は、報酬を受け取るブランドの商品を宣伝するための写真や動画を制作すること。どんな商品の宣伝かというと、健康・美容グッズや下着など「日常的に使うのも」が多い。先ほどのベッドの女性の投稿も、下着ブランドの宣伝だ。以前、 HEAPSでも取り上げたが「セルフケア」は近年のトレンドの一つで、バス(入浴)グッズをはじめ、自分を労わるためのプロダクトを売るブランドが急増している。そんな影響もあってか、撮影場所も外より「自宅」のニーズが増加傾向にあるという。 

 同マーケティング会社がブランドと繋げているのは、主にマイクロインフルエンサーからミドルインフルエンサーと呼ばれる、1万から25万人ほどのフォロワーを持つ人たち。特にマイクロインフルエンサー(以下、マイクロ)の強みは、なんといっても「親近感」で、フォロワーたちが「自分にも真似できそう」と思える身近な距離感にある。そうした存在が新商品やサービスを紹介することで、より「自分ごと」としてフォロワーに訴求できることから、マイクロは「広告と親和性が高い」と認識されており(いまのところは)、マイクロを起用するブランド、特に新興ブランドが年々増えている。

   

 もっとも、広くインフルエンサーという人たちは「自分自身」を商品として売っているわけだが、上述のようなマイクロたちがSNSで拡散しているのはザ・インフルエンサーたちのような「独自のセンス」ではなく、「共感」だ。基本的には「うれしい、たのしい、大好き」のドリカム的なやつと、あと「おいしい、可愛い」。大衆が受け止めやすいボールに、大衆が憧れるラグジュアリーのエッセンスをちょっとだけ加えて投げる。すると、たのしそうな投稿には「たのしそー」、美味しそうな投稿には「おいしそー」と、共感力の高いフォロワー(大衆)が、迷いもなく自分の感情を明け渡してくれる。マイクロインフルエンサーならではのコール&レスポンス構造だ。

 また、自身のビジュアルだけではなく、プライベートな「情報」も含まれることで成立する。たとえば、何を買った、どこへ行った、誰に会った、何を食べた、エトセトラ。見方を変えれば、そういったプライベート(っぽい)情報を抜いてしまうと、フォロワーである消費者との関係性が成立しきらないのがマイクロインフルエンサーだともいえる。ただし、リアルな私生活をさらけ出す必要があるのではなく、むしろプロとして拡散すべきはあくまでも「いいな」「真似したい」という、リアルと憧れのギリギリの世界観。つまるところ「リアルっぽい虚構」であるという複雑さを内包している。
   

インプレッション数と引き換えに、無料で家具を提供

 ビレッジ・マーケティングは、「(マイクロ)インフルエンサーたちが、自宅っぽい撮影場所を探すのに苦心しているのをみてきた」という。特に、近年ニーズが高まっている、“自宅っぽい”シチュエーションというのは、本当に自宅でできればいいが、ニューヨークのような「家=古くて狭いのに高い」がデフォルトになっている場所では非常に難しい。インフルエンサーとて、よほど成功しているかなんらかのサポートがない限り、クィーンサイズのベッドや豪華なインテリア、撮影をするのに十分なスペースのすべてを備えた生活している人は珍しい。もう一方で、フォトスタジオやホテルで撮影したものはソーシャルメディアに投稿するには「パーフェクトすぎる」のだとも。

 いくらファンタジーを売る仕事とはいえ、マイクロには生活感のエッセンスが不可欠。そのため、マイクロたちは「お洒落なインテリアショップの開店前の時間を使って撮影をする」といった涙ぐましい努力を重ねていたそうだ。「だから、インフルエンサーのニーズを汲んで、コンテンツを作るための家(撮影スタジオ)をつくろうと思いました」。 


        
 ミレニアルピンクはもちろん、ファーや大理石、ベルベット素材、アクセントにゴールドといった、ミレニアルズ世代(主に女性)の好みの最大公約数を抑えたインテリア。これらはすべて、米家具通販大手「ウェイフェア」のもので、同社はSNS上でのインプレッション数と引き換えに、無料で提供。実際に、その家がオープンした8月から10月までの間に、同社のインスタグラム上のインプレッション数は約500万に達したとのこと。インフルエンサーが投稿すれば自動的に家具は映り込むわけで、今後より多くのインフルエンサーがこの場所を撮影に使用しタグづけしてくれれば、さらなる伸びが期待できるという。 

「リアルっぽい虚構」で共感を拡散するのが仕事

 “インフルエンサーの家”のレンタル料金は、時間や日割りでの価格は公開されていないが「ひと月あたり150万円」ほどとのこと。この料金設定について、同社のCEOは、ワシントンポスト誌のインタビューでこう答えている。「1ポスト(投稿)につき、ブランド側は約30万から100万円ほど払います。そう考えると、ひと月150万円という料金レートは、そこまで高額ではないかと」
 
 ところで、すでに複数のインフルエンサーがこの部屋で撮影をしており、つまり「インスタグラム上には、同じベッドや同じバスルームで撮影されたものが存在する」ことになる。そのことについては、「だからといって、この部屋の価値が下がるわけではないでしょう。同じインテリアでも撮り方、表現の仕方は十人十色ですし」と、問題にはしていない様子。


  
 この部屋の価値は、インフルエンサーとブランドのプロダクト、双方の商品としての価値を最大化できるかどうかで決まる。そこさえ押さえておけば価値は下がらないというのだ。「自宅っぽいだけで、自宅じゃないんだね」と虚構であることがフォロワーにバレようがバレまいが「価値が下がらない」というのは、商品価値を最大化するのに「虚構」のエッセンスを加えるのが、もはや当たり前のことであるからに他ならない。

「終わる、終わる」と言われて久しいインフルエンサーバブルだが、まだまだマスに向けた影響力は大きく、特にマイクロやナノインフルエンサーにいたっては伸びてきたところだ。その需要は2020年まで伸び続けるといわれている。決してカルチャーの先端を引っ張っているわけではないマイクロたちだが、求められる「リアルっぽい虚構」のイメージをつくり、プロダクトやサービスへの共感を拡散することにおいてはプロである(自身のインフルエンスに責任を持ち、本当に良いものを消費者となるフォロワーに伝える正直なやり方も注目されつつはあるが。まだまだ少数派だ)。

 インフルエンサーのための家は、そんなプロがプロとして仕事をするために必要な場所だともいえるだろう。差し出す側の都合で創作された、わかりやすいコンテンツに促されるままに自分の感情を明け渡す人がいる以上、このマイクロ及びミドルインフルエンサーブームは続き、コンテンツを作るための部屋というビジネスが成立し続けるのだと思う。

Text by Chiyo Yamauchi
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine

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