喧騒が渦巻く都会でもなければ、自然だけは余るほど豊富な田舎でもない。電車で4、50分もあれば、都心にも行かれる距離。ショッピングモールだって映画館だってあるんだから、なにもないわけではない。でも、都会と田舎に挟まれなんともいえない空気感に包まれているのが「郊外」だ。
絶妙に微妙な距離感が生み出す、予定調和的な街並みや雰囲気。その郊外特有の“曖昧さ”は確かに存在するわけで。都会っ子、田舎っ子が存在するなら、「郊外っ子」もあっていい気がする。
これまでに2号が出版されている『Arcades(アーケーズ)』は「郊外」がテーマのフォトジン。パリ郊外出身の写真家、ウェンディ・フイン(“郊外っ子”とも呼ぼうか)が郊外に流れる日常や雰囲気、人々を写実的に切り取った。第一号ではディズニーランドから目と鼻の先だという自分の地元、第二号では学生時代に過ごしたロンドン郊外の姿にカメラを向けた。
「あるものといえばチェーンレストラン。クールなバーやレストランもなければ、友だちとハングアウトする場所もない。そんな地元(パリの郊外)が、当時は嫌いだった」とウェンディ。しかし進学のためロンドンに移り住んだあと、地元を離れてみてはじめて郊外のもつ魅力に気づいたのだとか。「どこにでもあるような地元の郊外だったけど、近所の人たちの服装や暮らし方に個性があったんだ、って」
誌面には、ちゃりんこを乗り回す郊外ティーンにどことなく哀調を帯びたグレーがかった街の姿が、郊外っ子の視点で捉えられている。「それにいつもなら雑誌に載らないような人々をフィーチャーしてみたかったの。たとえば、地元の床屋さんとか、同じ高校に通っていた友だちの友だちとか」。地元民しか知らない人やネタ、光景だが、どこの都市の郊外にも共通して漂う特有の空気感が見事に綴じられている。
時として、言葉にならない感情や空気感、曖昧さが一番人間っぽくて本質的な感覚だったりもする。『アーケード』は郊外が持つ“曖昧さ”を視覚化した、美しい作品だ。
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All images via Arcades
Text by Shimpei Nakagawa, edited by HEAPS
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine