若者のナイトライフを守る“夜の市長たち”の仕事。欧米都市で続出、公式の「ナイトライフ課」も発足
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かっこいい街には、かっこいい「DIYベニュー」がある。“自分たちの手でつくった”感あふれるライブハウスに、倉庫をそのまま使ったアングラなイベントスペース。俗にDIYベニューと呼ばれるクリエイティブ空間は、インディーバンドやローカルアーティストたちの発信地となっている。

しかし近年、欧米のメガポリスではDIYベニューがひとつ、またひとつと姿を消している。釣りあがる家賃に騒音苦情、警察からの圧力…。そこに「創造的な若者が集まる街のナイトライフを守ろうじゃないか」と立ち上がった“夜の市長たち”が欧米に続出しているのを知っているだろうか? さらにニューヨークに生まれたナイトライフ課については、これ、行政が認めた公式の部署である。

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DIYベニューの守護神、“夜の市長”のお仕事

「ニューヨーク市に、“夜の市長”誕生」「“ナイトライフ課”、ついに発足」。先日、各メディアにこんなヘッドラインが並んだ。ヨーロッパには数年前からいたというその夜の市長、何者?

街のナイトライフ産業(バー、ライブハウス、クラブ)を盛り上げる。そして酔っ払い客や騒音など“夜の問題”を解決し、市とナイトビジネス、コミュニティを円滑にする」役のことらしい。アムステルダムを筆頭にロンドン、ベルリン、パリ、チューリッヒなどヨーロッパの大都市にお出ましし、夜のストリートに目を光らせる。たとえば、アムステルダムの夜の市長は30代の元クラブプロモーター。深夜以降に通りを占拠する酔っ払い客を統制し、コミュニティの安全と静寂に努めている。ロンドンの夜の市長はコメディアンの女性で、LGBTQベニューの保護に力を。ベルリンでも警察に潰されていくDIYベニューを救っている。

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 そして世界屈指の大都市・ニューヨークにも発足したのが、夜の市長をトップとする「ナイトライフ課(Office of Nightlife)」。市の規制に首絞められるDIYベニューやインディペンデント経営のバー、ナイトクラブを守るために舞い降りた守護神。立ち退きや住民からの苦情で身動きが取れなくなったDIYベニューのための相談窓口であり、コミュニティとベニューの橋渡し役にもなるのだ。

ダンスも違法? 警察に潰されるDIYシーン

 半年前にローカルキッズが涙するなか、ブルックリンのDIYライブハウス「Shea Stadium(シェイ・スタジアム)」が姿を消した。警察のガサ入れを喰らった数、そして潰れた数を数えたらキリがない。過去15年間で市内の2割もの小さいベニューが消滅したのだから。伝説のロックライブハウス、CBGB(シー・ビー・ジー・ビー)もそのひとつ。

「商業的でどこも似通った雰囲気のナイトベニューが多いなか、新しいアート・音楽・エンターテーメントが生まれるインディペンデント系カルチャーベニューは、街のクリエイティブフォースとして重要な存在。さまざまな理由で店じまいを余儀なくされるベニューを助けたいのです」と、ナイトライフ課を発足までリードしてきた“ミレニアル市議会議員”、ラファエル・エスピナル(33)。

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ラファエル・エスピナル市議会議員

 “若者が自由に自己表現できる場”、DIYベニューがなぜ閉店に追い込まれているのか。
 主な理由は 1,家賃の高騰、2,市から課せられる罰金、3, 近隣からの苦情(騒音など)。どこの都市を見てもこの3大理由は共通だ。「それに、“ダンス禁止法”もあります」。許可なしに客をダンスさせるのは禁止、という90年前から残る法律**に引っかかり、昨年1月から今年4月の間に市内の36のバーが摘発、罰金を課せられた。こうして追い出されたDIYベニューの跡地には、カルチャー色の欠けらもないハイエンドな高級バーやレストランが立つのだ。

*増築や収容可能人数超えなどが違反となる。
**1926年、禁酒法時代に制定された「キャバレー法」。ライセンスなしに客を踊らせたら店側に罰金が課せられる。ライセンス取得には数十万円かかり、市内にある飲食店・ナイトクラブの0.3パーセントしか持っていない。

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「『弾圧→閉店』の前に、まずは相談の場を設けましょう」

 いくらお金のないDIYベニューといえど、市の制定するルールは守るべき。無作法なアナーキズムは滑稽にもなる。いくら、“ぼくたちのようなインディペンデントアーティストの場を奪うな”、“そんなつまらない法で弾圧するなんて法外だ”、と喚いても「いえいえ、市の規定で決まっていますから処罰されるのは当然です」と返されるのがオチだ。

 と、そこで夜の市長の出番。「警察や市によるむやみな過剰取り締まりやベニュー潰しを阻止。罰金や規定違反に悩むDIYベニューには『どのように手助けしましょうか』と持ちかける。一緒に問題解決に取り組むのです」。
 たとえば、あるDIYベニューのオーナーが「市から“騒音苦情が多数寄せられてます。どうにかして」とクレームを寄こされたとする。そうすると、大抵は「どこからの苦情? どう対処したらいいんだろう?」と慌てても具体的な対応ができない。その困ったときに、「ナイトライフ課に電話」する。電話を受けたナイトライフ課は、騒音の出どころを突き止めたり、防音システムの導入、コミュニティとのヒアリングミィーティングなど解決策を提案していく。

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 アムステルダムの思い切った方策もおもしろい。なんとアムステルダムの夜の市長、「ナイトビジネスを24時間営業」にしてしまった。一見驚きだが「そうすることで、閉店とともに一気に通りに流れ出す酔っ払いたちを分散させる***ことができるんです。とても先進的な考えですよね」。24時間営業という方策を取りつつ「繁華街をパトロール、パブにクラブ、レストランを訪問して随時現状把握。通りには酔っ払いを誘導する職員を配置」。ニューヨークの市長は、先駆けて夜の市長がいたベルリンやパリなど、ヨーロッパの前例を学び対策を考えていくそう。

***たとえば午前4時のクローズだと、通りは人でいっぱいになる。24時間オープンにすれば、夜10時や午前1時、朝6時、と客の帰宅時間をバラけさせることができるのだ。結果、ここ4年でアムステルダムの犯罪率や苦情の数は30パーセント減少したという。

ストリートスマートとブックスマートの中間がいい

 夜の市長理想像は「ナイトビジネスに5年以上経験有・違法DIYスペースから大規模ナイトクラブまでナイトライフのあらゆる面を理解・政治に明るい」人材だそう。小さなビジネスに理解を示さないお堅い人でもダメ、法律など知識ゼロのパーティーアニマルあがりもダメ。知識ばかりで世間知らずのブックスマートと、世渡り上手の現場対応力の優れたストリートスマートのいいとこ取りが適任だ。

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バーやクラブは、ただの“ビールを飲む所”ではありません。クリエイティブなナイトシーンには決まってフォトグラファーがいる。グラフィックデザイナーやウェブディベロッパーの名刺が飛び交う。アーティストにとっても若い起業家にとっても、知らない人たちと出会い、自分の可能性やスキルを伸ばすことのできる交流の場です」。ナイトシーンから生まれたクリエイティビティは、都市をアーティスティックに若返らせる燃料となる。DIYベニューとコミュニティのお互いがリスペクトし合える仲は、夜の市長が踏むアクセル次第で急速上昇すると期待する。

Interview with Rafael L Espinal Jr.

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Interview Photos by Miki Takashima
DIY venue Photos by Risa Akita
Eye catch photos by Hin Bong Yeung
Text by Risa Akita
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine

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