日本でいえば春、米国でいえばちょうど今頃スタートする「新生活」。新しい街にお引っ越し、ぐっと増える“はじめまして”の挨拶。見るものすべてが新鮮で楽しい一方、家族や友人との別れも相まってか、気づかぬうちに気持ちは一杯一杯、なんてことも。
新生活をスタートしたばかりの期待と不安で忙しなく揺れる、ある女の子の心の動きがありありと滲みでたパーソナルなジンがある。『Bad New Days(バッド・ニュー・デイズ)』。“Good Old Days(古き良き時代)”に掛けた、ユーモラスで心地いい一冊だ。
ことのはじまりは、大学を卒業した作者の女の子ゾーイが、就職のため家族や友人から離れ新たな街ではじめたニューデイズ。「新しい街をいろいろ探索してみるぞー、新しい友だちいっぱい作るぞー」と意気込んだのも束の間、実際は「家から一歩も外に出ず、ごろごろしながらテレビを見ていたい…」。それ私の昔だ(あるいは、未だに…)、と身に覚えのある人も少なくないはず。
「このジンは“新生活への手引き”というよりは、慣れない仕事や上手に友だちづくりができない自分に対する不満に満ちたもの。だから決して“お手本にしちゃダメな”手引きね」。友だちのつくり方ややることリストなどが、作者独自の視点で綴られる。メランコリックな気持ちを下敷きにしているに、トゲトゲしさが微塵も感じられないのは、シュールなイラストのおかげ?
「あの新生活時代は良いものだった、なんてこれっぽっちも思わないけど、いまになって振りかえってみればそんなに悪いものでもなかったかも」。『バッド・ニュー・デイズ』は、新生活の中で気づかぬうちに入ってしまった肩の荷を、スッとおろしてくれるようなジンだ。
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All images via Bad New Days
Text by Shimpei Nakagawa
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine