アートは大好きだが、若者の美術館離れが進んでいるらしい。理由は、最近のアート鑑賞はもっぱら「インスタグラムやピンタレスト」だから。そこで美術館、手放せないスマホをおおいに利用して彼らを“現場”に引き戻しはじめた。たとえば、美術館にメッセージをすると、美術館が「関連する所蔵作品画像」を送り返してくれる、とかなんとか。
Photo by Patrick Tomasso
「ミュージアム×テック」。背景には「ミレニアルズのミュージアム離れ」?
この事実には結構驚いた。近年「ミレニアルズの足がミュージアムから遠のいている」。アーティスティックなモノ・クリエイティブなモノが大好物な彼らだから、展示会情報は隈なくチェックして「このエキシビションに行った!」とセルフィーとともにSNSにアップするのが(勝手な)イメージだったから。
国立芸術基金(NEA)の調べによると、2012年にミュージアムを訪問した米国成人、ミレニアルズに着目すると、18歳〜24歳は08年から4パーセント減少し18.4パーセント、25歳〜34歳は2パーセント落ちて22パーセントと、ミレニアルズのミュージアム離れが数に表れている。
原因は明確にはされていないものの、考えられるのは「アート鑑賞は美術館よりインスタ」。某オンラインオークションサイトの調査で明らかになったのが、18〜24歳の44パーセント、25〜34歳の33パーセントが、芸術作品を探求するのに、美術館訪問ではなくインスタグラムやピンタレストなどのSNSを利用するということ。アート鑑賞までデジタルに頼るミレニアルズを連れ戻そうと、昨今ミュージアムは自らの強敵であるデジタルを“味方”につけて奮闘中だ。
超便利「出口とトイレまでのルート、教えます」
Photo by Samuel Zeller
入場口でチケットを切ってもらったらインフォメーションブースに行って、館内地図をピックし、さてどこからまわろう…? は昔の話。ナビアプリ「beacons(ビーコンズ)」をダウンロードしておけば、同アプリを導入する美術館内で、常時自分の現在地を教えてくれる。館内での自分の位置が把握できる(イメージはグーグルマップ)ことに加えて、目の前にある作品の詳細情報や音声説明、ビデオやレビューまで手元のスマホにポップアップ。また、その作品の画像を友だちに送ったり、SNSにポストもできちゃうのが人気だ。ニューヨークのノイエギャラリーが試験的に導入し、好評を得た。
さらにアメリカ自然史博物館が導入するナビアプリ「Explorer(エクスプローラー)」。まず、出口やトイレ(!)までのルートを教えてくれるのがありがたい。さらに、作品に応じてのギミックも豊富で、たとえば目玉展示の巨大クジラ模型の前に行けば、クジラの重さや水中で録音したクジラの鳴き声を聞くことができる。
ミュージアムを数倍楽しむ「アプリ&バーチャルリアリティ」
Photo by Paul Bence
20年前は(展示の脇やパネルに埋め込まれた)ビデオの制作にフォーカスしていた博物館も、いまはもっぱらインタラクティブなプラットフォーム作り。アプリの次に押し寄せて来るのが、バーチャルリアリティ体験だ。今年、ニューヨークのメトロポリタン美術館で話題を集めたのが、中世ヨーロッパを体験できる展示。参加者はVRヘッドセットを取つけて、16世紀のキリスト教の数珠に施された彫刻を細部まで鑑賞できるというもの(詳しくはこちらのビデオをチェック)。体験時間も5分と、飽きっぽいといわれちゃうミレニアルズもこれにはバッチリ集中できそう。
ツアータイトルが「バッドアス、ビッチーズ」
Photo by Annie Spratt
スマホやインタラクティブな仕掛けで若者の心は掴んだ。次なる創意工夫はユニークミュージアムツアーだ。「ミレニアルズをもっとミュージアムに」を掲げ、一風変わったミュージアムツアーを手がける団体が「Museum Hack(ミュージアム・ハック)」だ。メトロポリタン美術館で絶賛開催中のツアーが「ゲーム・オブ・スローンズ・ツアー」。ミレニアルズに大人気、中世ヨーロッパが舞台の“ドラゴン&魔法満載”のファンタジーテレビドラマ/小説「ゲーム・オブ・スローンズ」をテーマに、中世の展示を探求。ツアー中も、ペアを組んでゲーム(中世で使われていた罵り言葉を言い合うというちょっとシュールなもの)をしたりと、ソーシャルな若者世代が楽しめる作りに。また以前HEAPSでも取材したツアーと同様、絵画や彫刻の女性をテーマにフェミニズムを紐解くツアー「Badass Bitches(バッドアス・ビッチーズ、イケてるビッチたち)」などタイトルからしてミレニアルズを引き込めるニクい戦略を見事に取っている。
気分をテキストして、アート画像ゲット?
ここまで紹介してきた「ミュージアムアプリ&ひねりの効いたツアー」とちょっと毛色は違うが、ミレニアルズとアートの距離を近づけた画期的なサービスがここ数日で話題になっている。サンフランシスコ近代美術館がスタートした「Send Me(センド・ミー)」。これ、自分の気分や思いついたこと、たとえば“happy(ハッピー)”や“something blue(なにか青いもの)”、あるいは適当な絵文字なんかを、美術館指定の番号(572-51)に「send me 〇〇」としてテキスト(携帯メッセージ)するだけ。すると、数秒ほどで、同美術館の所蔵作品からその文言に沿った画像がチョイスされ、アーティスト・作品名とともに送られてくるのだ。友だちにちょっと尋ねるような感覚で「〇〇送って」で美術館とやり取りし、アートと結びつけた賢い仕掛け。実際試してみたのだが、え、この文言にこの画像? あ、これは的を得ているかも、と楽しい。新旧アーティストも知ることができてタメになる。ちなみに「Send me Japan」には、日本関連の作品画像を送ってくれて、これかなり楽しい。朝の気分で毎日やりたくなっちゃう。
こんな感じ。ハマる。
スマホベースの鑑賞やユーモアを介したツアーでちょっとでもミュージアムに足を運びたくなっただろうか。もっとも、スマホやバーチャルリアリティに夢中になってウン千万円のお宝を破損したらそれこそ笑えないので、そこは十分ご注意を。
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Eye catch photo by Clem Onojeghuo
Text by Risa Akita
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine