創業200年・世界最大級の老舗魚市場がスタートアップ開始「さっき釣りあげたお魚今日届けます」
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突然カレーが無性に食べたくなるのと同じように、前触れもなくやってくる「今日、魚が食べたい」。とれたて新鮮、解凍する手間も要らない魚が自宅に届いたら。白米片手に、サーモン、マグロ、エビが頭を舞い踊る。

深夜に釣りあげた魚をその日のうちに食卓へ。そんな新鮮野菜お届け!のような勢いで登場した、世界最大級の老舗魚市場が仕掛けるデリバリービジネスがすごい。

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創業200年の魚市場から直送サービス、登場

 ここ最近「ヘルシーフード×デリバリー」が泡のように生まれている。採れたてオーガニック野菜にレシピの材料がごそっと届くデリバリー、グラスフェッドのビーフのマンスリーデリバリーも人気だ。野菜、肉とくれば…今回は「」。しかも、釣りあげた魚をその日のうちに届けてくれるのだ。“魚介版アマゾン”と冠されるデリバリースタートアップ「フルトン・フィッシュマーケット・ドットコム(FultonFishMarket.com)」、世界最大級の老舗魚市場がベンチャーと組み、時代にのってビジネスを仕掛ける

 届けられる魚の出どころは、築地に次いで世界第二の規模を誇り米国版築地とも呼ばれる「フルトン魚市場(1822年創業)」だ。自宅や出先からオンラインで注文、スーパーや業者を通さずに新鮮でサステナブルなシーフードが市場から家に直接届くという。

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約200年の歴史を経て現在はブロンクスにあるフルトン魚市場。ローワーマンハッタンにあったがマフィアの支配を払拭するために10年前に移転したという逸話つき。

海へのアクセスがない場所に住む人たちにも一番の鮮度で魚介類を届けたいのです」とまるで魚の宣教師のように話す、同スタートアップCEOのマイク・スピンドラー。サービス開始から一年、顧客の数も増え、現在では数百のレストランや企業、数千もの個人がサービスを利用していると好調だ。その成功の秘密はいくつかある。

其の1、「同日『海から食卓へ(Sea to Table)』

 翌日、ではないぞ。水からあげられた魚が「その日の晩にはあなたの食卓に並んでいます」。

深夜:魚を水揚げ

午前1時:前日からのオンライン注文を締め切り。仕分け、梱包スタート

午前4時:出荷・搬送準備

午前9時:配達開始

 たとえば午前2時に注文をした場合はその晩にとれる魚を翌日受け取ることができる。つまり、注文時間に関わらず口にする魚は、24時間以内に海で泳いでいたもの。さらに魚は一切冷凍せずすぐに調理できるようにパックされて届く。

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其の2、「システム管理とプロの経験値で保つ最高品質」

 このスピード感ある流れの中で完璧な質を保つ肝が、二人の品質保証担当者。20年以上シーフードを扱ってきたシェフとマグロの鮮度や格付けのエキスパートが、ベテランの目でその日一番良い魚を市場のベンダーからセレクト(テイスティングも欠かさない)。

 どこの魚屋からどの魚を選んだかというプロの目利き(+舌利き)の記録はすべてコンピューターに保存され、「“この魚屋はこの魚が得意”といった情報をデータ化することで、今後の品質管理・向上を促進します」。テクノロジー(データ管理)とアナログ(プロフェッショナルの目)がバランスよく相乗しあい、“farm to table(畑から食卓へ)”ならぬ、“sea to table(海から食卓へ)”を実現するのだ。

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一匹の魚が辿ってきたルートも「透明化」

 フルトン魚市場が「私たちはサステナブルな魚を売っています」と豪語するにも理由がきちんとある。一匹の魚がどんなプロセスを辿ってきたかトラックできるよう記録をきちんと残しているのだ。たとえば鯛一尾もオーダーナンバーで、捕獲された場所、パックした人、時間まですべての詳細を遡ることができる。

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 さらに捕獲方法にも注視。魚の捕らえ方によっては珊瑚など環境を傷つけたりすることもあるので、どんな道具を使っているのか、さらに捕らえてからどう魚を取り扱っているのか(扱い方で味が落ちることも)を把握、不明瞭な魚は受けつけない

商品である魚介、それから環境、両者へのインパクトを最小限に止めることに努めています」。環境に配慮し生態系を守りながら釣られた魚は、新たな魚を生む。
 魚・人間・環境のサステナブルトライアングルができるような漁業をフルトン魚市場はサポートしているのだ。

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フルトン魚市場では外国産の魚も仕入れており、たとえばサーモンはデンマーク沖で捕れたもの。しかし国内産同様、安全管理は徹底しており、サーモンに抗生物質が使用されていないか、餌はGMO(遺伝子組み換え)でないかを調べる。もしデータが取れない場合は売らない、と揺るぎない。

コミュニティシェアにクッキング動画。サイト内外で消費者サービス

 野菜の透明化を後追うような魚市場の試み。ここでもう一つ近年の農業システムにならったモデルが、複数人で定期申し込み、毎週おまかせの魚介が届く「コミュニティ・サポーテッド・フィッシャリー(CSF)」。コミュニティサポートアグリカルチャー(CSA*)を手本にしている。

*地域の消費者が代金を前払いして地域の農家から直接オーガニックなど安全な農産物を定期購入する“コミュニティが前面に農業をサポートする”システム。

 CSFに登録して、最寄りのご近所スポット(魚市場と提携している地域の図書館、教会、コーヒーショップ、ワインストア)を選択。あとは、毎週指定された日時にピックアップに行けばいいだけだ。
 2人以上のグループで一緒に参加することもでき、個人宅も配達先として登録可。たとえばグループの誰かの自宅に火曜午後3時に届くように指定すれば、各々が集合する。

「アイデアとしては、20から30人のグループが申し込み、地域のスポットに届いた魚をピックアップしに行く。30人分の魚を同じロケーションに送りますからコスト削減でき、その分安く提供できる。それに、週ごと時期ごとに旬の魚をこちらで目利きするので、いままで食べたことのない魚を美味しくトライしてもらえますね」

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商品は一つ一つ梱包されていて、シェアはディナー2食分の魚介で18ドル。届けられられた魚の説明とレシピは配達日にEメールで届くから、知らない魚でも簡単に調理できる。

 魚市場のオンラインショップは「魚、あまり調理しないんだよな…」な魚初心者や「決まった魚しか食べない」人のために、各魚介の下ごしらえなど調理動画も充実させている。

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いまはスーパーに通うというよりは、ミールキットなどがもっと一般的になっている。電話で魚を注文する時代はもう過去のことのようですね」。
 サザエさんのごとく近所の魚屋さんで「秋刀魚3匹ちょうだい!」がもう消えかかっているお魚ビジネス。残念ながら、魚商売が失った昔ながらの地元の繋がりもある。が、テクノロジーを利用することで昔ながらの売り手と買い手の信頼関係は、再び育まれつつある。さらに、食のサステナビリティという現代の興味に乗っかることで、魚市場が育むことのできる新たなコミュニティの形もあるようだ。

Interview with Mike Spindler
FultonFishMarket.com

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【編集後記】
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取材終わりに「君の住所を教えて」とCEOのマイクさん。インタビューのお礼にと、翌日HEAPSオフィス宛てに、その日のうちにとれたマグロとサーモンの分厚い切り身と、エビ(2kg!)がどっさり届いた。新鮮なうちにいただこうと編集部メンバー、オフィスのキッチンで刺身にしてさっそく味見。美味い…! アメリカだと高級寿司店に行かない限り、美味い生魚はそうそう食べられない。久々に海の生き物を食べたな、としみじみ満たされた。フルトン魚市場のみなさん、ありがとうございます!

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All images via FultonFishMarket.com
Text by Risa Akita
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine

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