かつては、ブランド品=信頼性がある、と思われてきたが…。モノの品質が均質化してきた昨今、「ブランド品」であろうがなかろうが、それなりに良いものが安価に手に入るようになった。そんないま、「あなたの身の回りのすべてがブランド品である必要はありますか?」と問いかけるブランドが現れた。
日用品の質と価格。これは「必ずしも比例していない。なぜなら、従来のメーカー品には大抵、品質とは関係のない“ブランド税”が組み込まれているので。うちは、ブランド税を一切とりません!」。そう“ブランドレス”宣言し、今年7月に彗星のごとく現れた日用品オンラインショップがある。ここでは、100円均一ショップならぬ「全商品、330円均一」。注目すべきは、安かろう悪かろう、ではなく、オーガニックの質の良いプライベートブランド商品を安値で提供していることだ。
消耗品にも不透明な「ブランド税」
オリーブオイルから食器、ハンドソープ、化粧品、清掃用品など、200以上の日用品や生活雑貨を揃え、それらすべて、ケミカルフリー。そして、ほとんどが、オーガニック、フェアトレード、非遺伝子組み換え(non-GMO)。もちろん、環境への配慮や社会貢献をすることも忘れていません—話だけ聞いていると、とんでもない出来杉さん。
「ブランド料をとりません」と宣言し、同社が掲げる「Who says better needs to cost more?(良いものは高いなんて誰が言ったの?)」を実現する彼らの名は、「ブランドレス(Brandless)」、サンフランシスコ発。自社でプライベートブランド商品を開発し、インターネットを通じて商品を直接消費者に届けるビジネスモデル。中間マージン、広告宣伝、店舗コストを省き、流通コストも最小限に抑えている。彼らはこれらのブランド都合で発生しているコストを「ブランド税」と呼び、それらをカットすることで「同等のクオリティの従来のブランド商品より約40パーセントも安くしています」という。
一般的に、日用品(消費財)というカテゴリでは、50円といった些細な金額の差が、購買行動に弾力性をもたらすと言われている。「うちは約40パーセントもお安いでっせ!」というのは、もしその品質に嘘がなければ、業界を覆す革命といっても過言ではない。
ブランドレスのUI。
といっても、すべての買い物において、ブランド税を消費者に課すことが悪いだとか、無駄金を払うなという話ではない、ということを明確にしておきたい。多少高くても「ここの生産者は素晴らしい人だから」「地元のブランドを応援したいから」「付加価値を感じる」など、意志や思い入れがあって自ら選び、購入する行為はとても民主的だと思う。ただ、ブランドレスのような「ブランド税をとりません。そうすると、良いものでもこれだけ安くなります。それがフェアってもんでしょ?」というブランドが出てきたことの意味は大きい。特に、頻繁に購買する日用品、日用消耗品(とりわけ買い手が安さだけで選んでいる場合)ともなればなおさらだ。消費者にとって、商品の質と価格の関係についていま一度考えるきっかけになり、新たな選択肢になるかもしれない。
その商品はなぜ他のものより高い、あるいは安いのか。「良いものだから」「粗悪品だから」と思い込まされているのと、そうでない可能性があることを知っているのでは、購買体験も変わってくるだろう。
シンプルなパッケージで「迷わないショッピング」
ブランドレスが狙うのは、コスパと効率性重視の消費者だ。
・できるだけカラダにも環境にも優しいものを選びたいが、オーガニックでないといけないわけではない。
・ブランド名やパッケージにこだわりはなく、同等のクオリティであれば安価な方を選ぶ。
・日用品のショッピングに時間や労力をかけたくない。
といったタイプのペルソナを描いている様子。共同創業者のティナ・シャーキー氏とアイド・レフラー氏は、シリコンバレーで出会いタッグを組んだ。挑む米国消費財(日用品)市場は、2兆円規模と言われる巨大マーケット。ここに、消費者が手を出しやすい「一律3ドル(約330円)」という価格設定で、まずは商品を試してもらい切り込もうという試み。クオリティに満足し、いままで買っていた他社ブランドからブランドレスに乗りかえてくれることを期待する。
コアターゲットは、先述した「コスパと効率性重視」の消費者なので、商品のパッケージはご覧の通り、超シンプル。商品の顔である表ラベルにも、ブランドのロゴをでかでかと、の代わりに、商品名とオーガニックかグルテンフリーかどうかといったことを明記(原材料は裏に明記)。当然、商品キャラクターもいなければ、凝ったデコレーションもない。
非遺伝子組み換えのグラノーラ、ケチャップはオーガニック、マフィンミックスはグルテンフリーだ。
また、ブランドレスは「スーパーでもオンラインでも、類似商品の数が多すぎて選ぶのに一苦労でしょ?」と消費者の心理に歩み寄る。たとえば、洗濯洗剤を買いにいくと、ブランドだけで5種類以上、さらに、同じブランドでも香りや洗浄力の異なる似たような商品がずらっと並ぶ。ここで「ど・れ・に・し・よ・う・か・な」と楽しめる人はいいが、ブランドレスのコアターゲットは、この状況をストレスに感じる消費者もだ。「洗剤でもピーナツバターでも、私たちが提供するのはザ・ベストの商品のみ。どの商品も商品開発のエキスパートを集めて、 6−10種類の中からベストだと思うものを選び出しています」。実際、なにがベストなのかの基準はエキスパートたちの意見、つまりは、過去の消費者データから弾き出した数値が基になるのではないかと思うが、あくまでも消費者のスムースな買い物を応援する姿勢だ。
コスパとソーシャルグッドを両立。だが、真実がみえるのはこれから。
値段設定のカラクリは基本的には百均と似ている。3ドルより安い商品は、2個入りで3ドルにしたり、逆に高価なものはパッケージの大きさが「それなり」だったり。と、ここまでは情報を公開しているものの、200種の商品の原価は闇に包まれている。もし百均と同じであれば、利益率が高い商品と低い商品を混ぜることで、「え、そんなものまで3ドルで買えるの?」な原価割れ商品を売っても儲けがでるという仕組みか。
また、ブランドレスは、国内の低所得者に、食事を無料で提供する慈善団体とも提携しており、ユーザーが1回オーダーするごとに、一食分がドネーションされる。つまり「ブランドレスを利用すれば、もれなく社会貢献に参加でき、利用者が増えるほどより大きなポジティブ・インパクトを社会に与えられる」という。
社会貢献だから、というだけでブランドを選ぶことは少ないが「そこそこで安ければ特にどこで買ってもいい日用消耗品だし、だったら少しでもいい方にしようかな」と選択すべき理由を与えることは“カートへクリック”の後押しにはなりそうだ。「うーん、このジャムちょっと好みじゃないし失敗だったかも。ま、でも完全に無駄なわけじゃないし」と、自分の消費行動が無駄になることはないというのも、また一つのストレス救済か。
と、いろいろ述べてきたが、ブランドレスの真価が問われるのはこれからだ。「コスパが良い」も「効率的な買い物だ」も、消費者が共感できれなければ意味がない。また、オーガニックをうたっていたが実はそうでなかった、なんてことが、200以上のアイテムの中でひと商品でも発覚すれば、消費者は離れてしまうだろう。今後、どれだけ信頼を築けるかが成長の鍵になりそうだ。
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All image via Brandless
Text by Chiyo Yamauchi
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine