「フォトジェニック」「ビジュアル映え」—数年前まで聞き慣れなかった言葉が当たり前のように会話の端々に登場するようになったのも、インスタグラムやポラロイド、フィルムカメラの再ブームなど、若者を中心としたビジュアル重視の風潮があるからか。
彼らが「いい!」と思ったイメージはSNSやネットに拡散され、時に学術的な論文よりも高尚な読み物よりも、社会を動かすことがある。若者が十分に理解するビジュアルのもつ影響力を自分の武器とするのは、昨今の政治家も、だ。
選挙パンフは「女性誌仕立て」に。仏・大統領選のルペン
今年5月のフランス大統領選挙で、「反移民・反EU(欧州連合)・反グローバリゼーション」を掲げた極右政党党首のマリーヌ・ルペン。“女トランプ”と呼ばれ新たなポピュリスト(*)の誕生か、と騒がれたが、穏健派のエマニュエル・マクロンに破れる結果となった。
*大衆の不安や期待などを利用し感情に流される大衆の支持を集め、政治を理性的に判断するエリート層と対決する政治体制。大衆迎合主義。ドイツのナチズムやイタリアのファシズム、トランプ政権などがその例とされる。
ルペンの政策や思想の善し悪しについては賛否両論あるがいったん傍においておき、今回は彼女が選挙活動で仕掛けた「ビジュアル戦略」に注目したい。彼女は女性票集めるべく、自身の女性像をアピールして選挙パンフレットを女性雑誌のようにしたのだ。
一般に配布された4ページにわたるパンフレットは、表紙からしてVOGUEやVANITY FAIRなどの女性ファッション誌を彷彿とさせるポートレート写真に見出しが並び、中身もさまざまな表情のルペンの写真がレイアウトされたグラビア雑誌スタイルに(パンフレットのイメージは、こちらの記事で閲覧可能)。また、彼女のシンボルカラーである青を基調に、表紙のルペンの洋服や背景、中身のレイアウト、テキストの色も統一。自身も3人の子どもを持つシングルマザーであり、フランスの母親や働く女性を守る、というフェミニズム的要素の強いスタンスを垢抜けたビジュアルアピールへと落とし込んだ。
女性政治家としてのアピールをガンガンに、というよりは、いち女性としてのセンスの高さや洗練さ、力強さをパンフレットに昇華したルペン。事実、18歳から24歳の若者からの支持も高かった(39パーセント)ことから、若い女性へのイメージ戦略は功を奏したといえるのだろう。
「若い女性を惹きつけるファッションセンス」で勝負。英・メイ首相
自身のビジュアルセンスで、若い女性から注目される女性政治家はイギリスにもいる。各メディアが“おしゃれ番長”と銘打つ、保守党のテレーザ・メイ首相だ。
今月8日に解散総選挙で労働党のジェレミー・コービン党首と戦い、予想外に苦戦、過半数割れとなり窮地に立たされているメイ首相だが、彼女には総選挙前から若い女性の支持者たちがいた。彼女たちはミレニアルズをもじり、“メイレニアルズ(Mayllennials)”とも呼ばれている。
ビジュアルにうるさいミレニアルズ(ここではメイレニアルズ)が絶賛したのは、メイ首相のファッショニスタぶり。例をあげてみると、首相就任式には、ネイビーとイエローのバイカラーが鮮やかなコートにヒョウ柄のパンプス。靴好きとしても知られ、赤いエナメルのパンプスやキラキラのヒール、ワニ革の個性派シューズなどセンスがないと履きこなせないような靴もチョイス。水色のコートや真っ赤なスーツ、時には大ぶりのチェーンネックレスやヴィヴィアン・ウェストウッドのパンツスーツなどパンキッシュな装いもキスマーク柄のパンプスなど大胆なアイテムも着こなしてしまう、ファッション上級者だ(ちなみに、無人島に持っていきたいものはVOGUE誌の生涯購読らしい)。
会談のときもヒョウ柄
TPOを考慮しつつも、自分のテイストやカラーを上手にコーディネートして政治の場を渡りゆくあっぱれなセンスには、若い女性ファンも多い。メイ首相のファッションにフィーチャーしたインスタアカウント(着ている服のブランドまで紹介)やミームを集めたアカウントも存在しているほどだ。
若者の目を引く「ビビッドカラーのスマホアプリはじめました」インド・モディ首相
ビジュアルアピールを、ファッションでなくスマホで実現したのが、大のSNS好きとして知られるインドのナレンドラ・モディ首相だ。彼は、自分の名前が冠された“超カラフルな”アプリ「ナレンドラ・モディ」を開発してしまった。
アプリの紹介前に、この首相、SNSフォロワーがすごい。現時点でフェイスブックは4223万人、ツイッターは3083万人、インスタグラムにいたっては820万人(しかもフォローは0人)と、日本フォロワー1位の渡辺直美(680万人)を超える人気ぶりだ。
SNSの達人でもあるモディ首相が開発したアプリでは、首相のラジオ番組試聴や首相へのメッセージ送信、最新情報受信などのサービスが提供されているのだが、ページごとにオレンジや黄色、赤、青、緑、紫などビビッドなビタミンカラーが配色されている(こちらの記事でアプリイメージ参照)。カラーサングラスやユニコーンカラー、マーメイドカラーなどカラフルな色使いが好きな若い世代を意識してだろう、スマホのアプリというミレニアル世代の最も身近なアイテムにビジュアル戦略を施した。
必ずしも政治に興味のない若者をも支持層に入れたい政治家たちにとって、若い世代の「この政治家のファッションセンスいいな」「このパンフ、読みたくなる」「このアプリ、見やすい」は、ビジアル至上主義のいま、これまで以上に価値を持っている。
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eyecatch image via Vlad Tchompalov
Text by Risa Akita
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine