最近ブルックリンの街角や地下鉄で目にするこのステッカー。
お馴染みの「I ♥ 〇〇」だが、よく見るとハートマークを形どっているのは、マリファナ。じゃあこのステッカーは、ドラッグパーティーやアートショーの告知?と思いきや、実はこれ、とある政治家を支援する団体のステッカーだ。
いま、若者たちは結束してその政治家を支持し選挙活動を行っている。
パーティーに、パンクライブに、討論会視聴パーティーはバーにて、とやり方はまさに若者らしい。
若者から圧倒的支持!ダークホース現る
その政治家とは、
「民主社会主義者」「ポーランド系ユダヤ人の移民の子」「前歴は大工、映画製作、作家、研究者」。2016年米国大統領選挙の民主党候補者、バーニー・サンダース(74)。ヒラリー・クリントンやドナルド・トランプの影で支持率を伸ばしているバーモント州選出の現上院議員だ。
Photo by Masato Kuroda
歌手ポール・サイモン、ニール・ヤング、レッド・ホット・チリ・ペッパーズ、映画監督スパイク・リーをはじめとする数々の著名人・文化人が支持していることでも注目を集めている大統領選のダークホースだ。そして彼、マリファナを危険ドラッグリストから除外することを公言、合法化を主張している。
ある水曜午後7時のブルックリン、ブシュウィック。筆者はこの団体を探るため、とある”イマドキな”ロフトアパートの一室にいた。
そこからもあそこからも聞こえるiPhoneの着信音。窓際では煙草で一服しながら雑談する若者たち。デスクでは缶ビール片手にパソコンに向かいキーボードを叩き、ソファではイヤホンマイクに向かって何やら話している。
iPhoneでアメリカ全土に電話をかけ、しらみ潰しに支持者チェック
今宵ロフトに集まったのは、Bushwick Berners(ブシュウィック・バーナーズ、以下バーナーズ)。ブルックリンを中心に選挙運動を行う、草の根レベルの「バーニー支援団体」だ。
いまどきのお洒落でカジュアルな20代半ばから30代前半の男女20人ほど。今回の目的は、Phone Banking(フォーン・バンキング)と呼ばれる電話での選挙活動。週4回ほど自分のパソコンや携帯電話を持ち込み、既存のシステムやマニュアルに従って、アメリカ全土に電話をかけ投票者がバーニー支持者かどうかをしらみ潰しにチェックするのだ。
電話やミーティング中のメンバーたちの真ん中で、誰に話を聞こうかと右往左往していた筆者に歩み寄ってくれたのが、エリン。中心メンバーの一人である彼女に、バーナーズのあれこれを聞いてみた。
H(HEAPS、以下H):まずは、団体の成り立ちについて教えてくれますか。
E(Erin、以下E):2015年の夏、バーニー・サンダースが米大統領選への出馬を表明した後ね。彼を支援する数人が集まって発足したの。
H:具体的にはどんな活動を?
E:公園や街頭での投票者登録をしたり、今日みたいな電話での選挙活動、そして政治資金集めのイベントを開いたり。
H:メンバーの皆、若いですね。
E:そうね、20代や30代が多いけど、40代の人も参加しているわ。あとそれと、外国人も。選挙権を持っていないけどバーニーを支持するアイルランド、フランス、オーストラリア、カナダ人メンバーもいる。あるドイツ人参加者なんて、バーニーの選挙活動のために1ヶ月休みをとって団体活動に参加してるの。
H:外国人メンバーもいるとは驚きです。エリンから見て、バーナーズはどんなグループでしょう。
E:以前にNPO団体でボランティアしたことがあるけど、このグループの人たちは今まで出会ってきた中でも最高に献身的な人たち。お世辞じゃなくて、本当に“血と汗と涙の結晶のような”グループ。
ここにいる皆、仕事帰りの毎晩、毎週末をこの団体のために費やしてくれるし、団体活動に専念するため仕事を辞めた人もいるのよ。
手作りTシャツにピンバッジ、ステッカー、パンクライブにDJパーティー
DIY精神で選挙運動
地元インディーバンドたちがギターをかき鳴らすライブに、
バーやレストランでの討論会視聴パーティー、
コメディーショー、
これらすべて、Bushwick Bernersの選挙運動や資金集めの一環なのだ。まさに、若者ならではの手法でいて、クールだ。
ブルックリンという土地柄か、メンバーの中にはアーティストやグラフィックデザイナーも多い。そんなグループの売りは、やはりポップでアイキャッチングなグッズにイベントポスター。
中心メンバーでアーティストのスティーブがデザインしたスクリーンプリントTシャツに、
ポップでキュート、缶バッジやステッカー。
そしてロッキンなバーニーがコラージュされたライブの告知ポスターや、
ヒラリーとトランプが風刺画のように揶揄されて描かれているのがなんともシュールでアイロニックなDJパーティーのフライヤー。
総資産が「圧倒的に少ない」。30年前から意見を曲げない。
それがバーニー・サンダースだ!
話を水曜の夜に戻そう。「日本のメディアの人なんだって?」と話に加わってきたのは、マルコとショーン。他メンバーとの打ち合わせに忙しいエリンに代わり、なぜバーニーが”クールな人”なのかを熱弁してくれた。
(左:ショーン、右:マルコ)
H:なぜ、若者はそこまでバーニーを支持するのでしょう?
S:ユーチューブに行って彼の30年前のビデオを見てみてよ。彼はずっと同じことを言い続けているんだ。
マイノリティの権利や公民権、男女格差是正、LGBTの権利拡大、国民皆保険、富裕層への課税強化、最低賃金引き上げ、公立大学の授業料無償化、選挙資金制度改革、戦争反対、地球温暖化への早急な対策…
いつも正しいことを主張していた。80年代初期から、同性婚賛成を掲げていたんだよ!一貫性があって誠実。30年前から意見を曲げない人。それがバーニー・サンダースだ。
M:うん、彼は妥協というものをしないよね。彼は他のどの政治家とも違うと思う。誠実だし、市長を長く務めたキャリアもある。
(バーニーは、1981年から89年にかけて、バーモント州バーリントン市長を務めた。彼が市長を務めた時期、同市は「米国で最も住みやすい街」に選出。市政では、価格を抑えた住宅の供給、累進課税制度の導入、環境保護、児童ケア、女性の権利、若者のための施策等を推進した)
あとさ、彼はあのキング牧師のスピーチをその場で聞いていたんだぜ!
(バーニーは、60年代の公民権運動や学生運動家、ベトナム戦争反対者でもあり、実際にワシントン大行進に参加。人種差別に抗議し、逮捕されたことも)
S:それとね、彼はブルックリンの小さな3部屋半のアパートで育ったんだ。いまの総資産は30万ドル(約3,540万円)くらい。他の金持ち候補者たちの中で、総資産が1千万ドル以下なのは彼だけだよ。
H:正直なところ、他の候補者のことをどう思う?
S:ヒラリー・クリントンは好きだし、敬意は払うよ。彼女は政治家としても経験豊富だし。でも彼女の政策の中には、マイノリティに不利なものもあるから…。
H:じゃトランプは?
M&S:(お互い首を横に振りながら)ノーーーーー!彼については話したくもないね。
なぜ、アメリカの若者たちはここまでバーニー・サンダースに惹かれるのか。
いつの時代のアメリカでも、リベラルな若者たちは常に、“マイノリティの存在に見ぬ振りをせず、彼らの権利のために闘うリーダーたち”を支持してきたからではないか。
ベトナム反戦運動に揺れる60年代、人種差別撤廃に命を捧げたキング牧師しかり、2000年代、人種的マイノリティの希望の星として選出、オバマケア導入で国民皆保険制度を実現しようとしたオバマ大統領しかり。
そして昨今の経済不況の中、必死にお金をやり繰りして学費や生活費を捻出している若者たち。いくら立派な政策を掲げていたって、自身は大企業や製薬会社、銀行と結びつき多額の資金を得ている政治家たちの声はそんな若者たちの耳や心に響くまい。
カネカネカネの政治家たちの右へ倣わずバーニーは、民主社会主義というフレームの中で公立大学の無償化や最低賃金の引き上げを主張してきたのだ。
社会的少数者の生活や人権を尊重し、庶民の経済感覚から国民の福利厚生を語るバーニー・サンダース。かつて彼自身も”市井を等身大で生きるひとりの若者”であったことが、“でこぼこ道の現代社会で躓きながらもひたむきに歩を進める若者たち”の心の支えになっていると思う。
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他のメンバーの声を紹介。
「僕はオランダとアメリカのハーフ、だから生まれた時から民主社会主義者(オランダは、国民皆保険、授業料無償化、平等な社会福利厚生などを提供する民主社会国家)。だから、オランダでは昔から当たり前のように整っていた福利厚生がやっとここアメリカでも実現するかもしれない、待ちに待ったことなんだ」と話すのは、週5で団体活動するサンダー(左)。
「バーナーズのいいところは、きちんとした支援・選挙活動と遊びも兼ねたイベントがごちゃ混ぜになっていること。これはすごく大切。そうしたらみんなまた参加してくれる」。親友もできたしね、と肩を組んだブライアン(右)もアクティブなメンバーのひとり。
ステージ俳優のジョシュ。1ヶ月前からのメンバーとしての経験をこう語る。「オバマのファンだったから2008年にも政治団体でボランティアしていて。バーニーはいい意味で衝撃を与えてくれたね。この選挙活動を通してもいい人たちに会えた。あと僕たちは、ロードトリップをもっとして違う州の人たちと直接バーニーについて話したいと思っているんだ」
初期からの中心メンバー、マジェナ。「ここ数年の政治に幻滅してたいたの。政治が大企業や大きなお金と結びつきすぎて、私の声や投票が重要視されていない気がしてね。だから、バーニーのように政治とお金の問題に真っ向から挑戦する政治家を応援したくて」
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Photos: Courtesy of Bushwick Berners
Interview Photos: Risa Akita
Text by Risa Akita