「告知なしで20万人待ち」のアイスクリーム・ミュージアムを仕掛けた25歳。異次元レベルの集客力の鍵は?

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告知なしで、異次元レベルの集客に成功しているミュージアムがある。それが、現在、ロサンゼルスで行われている「アイスクリームのミュージアム(MUSEUM OF ICE CREAM)」なるポップアップイベント。ミュージアムといっても、美術館ではない。表向きは、アイスクリームのテーマパーク。見よ!このフォトジェニックさ。

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 仕掛けるのは、25歳のクリエイター、マリーエリス・バン(Maryellis・Bunn)。「子どもの頃からアイスクリームが大好き。こんなのあったらいいなを叶えちゃいました!」「子どもも大人も、みんなアイスクリーム好きだもんね!」「みんなで一緒に楽しもう!」「アハハ!」。親しみやすさを前面に押し出している。というか、それしか出さない。これってマーケティングビジネスですよね?

ひねらない。わかりやすくてフォトジェニックが、一番モテる

 何がすごいって、その集客力だ。いくらアイスクリームが米国人の国民食だとはいえ、人々の熱狂っぷりには驚かされる。

 第1回目のポップアップは2016年夏。ニューヨークのマンハッタンで45日間行われ、3万枚のチケットはたったの5日間で完売。プラス、約20万人の待ちができたとかで、話題沸騰だった。
 現在ロサンゼルスで開催されているのが、続く第2回目だ。規模はニューヨークのときの約4倍に拡大。4月22日からスタートし、当初は5月末までの予定だったが人気爆発のため8月まで期間を延長する予定だそうだ。

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 せっかく「ミュージアム(美術館)」を名乗っているのだから、一応、展示についても触れておこう。アイスクリームをテーマにした展示は、10室の異なる展示室に別れている。「まるで、映画『チャーリーとチョコレート工場 』みたい!」らしく、アイスクリーム型のブランコがあったり、1万本ものバナナが吊るされていたり、スプリンクル(※食べられません)のプールがあったり—と、単純明快なフォトジェニック空間が続き…、それ以上でもそれ以下でもない

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 ちなみにチケットは大人29ドル(約3,200円)、子ども(12歳以下)とシニアは18ドル(約2,000円)。安くはないが、数日悩むほどでもない絶妙な金額設定。これにアイスクリームの試食代金も含まれているそうだが、自分で味を選べるわけではなく与えられたものを貰うだけなので、それはオマケ。試食を目的に3,000円も払う人はいないだろう。ここでの最大にして唯一の楽しみは「非日常空間」で「インスタグラム映えする自撮り・写真を撮る」こと。展示のコンセプトがシンプルなのだから、楽しみ方がシンプルなのは当然か。

お金とビジネスの話は「答えられません」

 SNSとの親和性は抜群。コアターゲットは10代から30代の若者。話題のミレニアルピンクをふんだんに使い、とことん「いま」に一致したイベント・マーケティング・キャンペーンだ。ビジュアルからチケット代まですべて計算され尽くしている。
 また、ビヨンセ&Jay-Z ファミリー、女優のグウィネス・パルトロー、歌手のケイティ・ペリーなど、トップクラスのセレブリティやいまをときめくインフルエンサーたちを招待。すごいのは、トップクラスのセレブらがちゃんと足を運び、楽しんでいる様子をインスタグラムにポストしていることだ。その25歳の仕掛け人、マリーエリス・バンって何者?

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マリーエリス・バン(Maryellis・Bunn)

 調べてみると、ほんの数年前までニューヨークにあるパーソンズ美術大学で、デザイン戦略とマネージメントを学んでいた学生だったそうだ。現在は、広告のクリエイティブ戦略を得意とし、彼女のクライアントリストには、フェイスブックやインスタグラムなど大手企業が名を連ねる。

 第1回目のニューヨークでは、場所代は「無料だった」とニューヨークタイムズ紙が報じていた。その上でチケット代など利益を計算すると、「360,000ドル から 540,000ドル(4〜5千万円)」ほどあったのではないかと同紙は見積もった。
 
 そこで、今回のロサンゼルスの場所代、チケット販売数、スポンサーブランドの数などについてHEAPSも問い合わせてみたのだが「それについては答えられない。ただ、予想していた以上に好調だから予定より期間を延長している。インスタグラム、ぜひフォローしてね!」との回答。運営サイドは、あくまでも「これは、LA育ちの彼女の子どもの頃の夢を叶える(ビジネスではなく)パッション・プロジェクト」であると貫く。毒にも薬にもならんがな。

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「アイスクリームが好き」といって損する人、います?

 デジタルネイティブの若者消費者層は広告宣伝に敏感で、何がそうであるかを瞬時に察知し、回避する—と言われているが、それが理由でスポンサー数や利益の話はダメなのか?
 来場者が試食できるアイスクリームはもちろん、スポンサーブランドもち。各展示もスポンサーもち。来場者にもれなく配布された「ドーブ・チョコレート(Dove chocolate)」の売り上げはイベント開催月に「9パーセント伸びた」と、彼女はフォーブス誌のインタビューで答えている。
 
 ミレニアルズやジェネレーションZ世代の若者をここまで集客できる「ポップアップイベンド」は貴重だ。若者消費者層にリーチしたい企業やブランドにとって、是非とも関わりたいイベントに違いない。若者消費者層と実際に交流するチャンスをもてるだけでなく、若者が好むコミュニティの中でさりげなく自社ブランド製品を知ってもらえるのだから。事実、アイスクリームやスイーツのブランドだけでなく、カード会社、アパレル、テックなど、さまざまなジャンルの企業がスポンサーになっている。

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ドーブ・チョコレート(Dove chocolate)

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アイスクリームが好き」。こう表明して敵を作ることはないだろう。もちろん、ひねりがないだけに特別な印象を残すことにも繋がらないのだが、マイナスイメージにもならない。その、誰もが手放しに「好き」といえるリスクの低さもSNSとの相性バッチリ。今年中に「マイアミかサンフランシスコあたりでもう一回ポップアップする予定」だそう。もはや、どの都市でやってもヒット間違いなしではないか。

MUSEUM OF ICE CREAM

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All Photos via MUSEUM OF ICE CREAM
Text by Chiyo Yamauchi
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine

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