その風貌からコメディアンか?と想像するかもしれないが、彼女はダンサーだ。チャーミングな笑顔とピタッとした服で、迫力のボディを揺らして踊る。無論かなり豪快。サイレントで見ても腕が風を切る音がしそうだ。
それでいてAkira Armstrongは(アキラ・アームストロング)の実力はビヨンセのミュージックビデオにも二度、抜擢されたほど。
真ん中が、Akira Armstrong, images captured from “Pretty Big Movement” is Destroying Dancer Stereotypes | The Scene
そんな彼女も「It was frustrating(いつも悔しかった)」と、太っていることで散々な思いをした時期もある。元・コンプレックスをいまは最大の武器にした彼女は、ダンサーとして、そして女性として、いかにしてここまで強くなったのか。それも、魅力を増して。
▶︎最下部に動画あり
ビヨンセのミュージックビデオに出るも「太ってるから」オーディション全落ち
ビヨンセのミュージックビデオ(『Get me Bodied』『Greenlight』)に出演し、プロダンサーデビューを飾ったアキラ、華々しいスタートどころか彼女を待っていたのは「ダンスを見てもらうチャンスすらもらえない」という現実。
事務所を受けに行けば「誰、あの太った女の子は?」とみんなが横目でチラ見。「踊れるわけないじゃない、あんなに太ってて」と感じてるのがつつぬけだった、と吹き出しながらあっけらかんと語る。
でもそれも、いまだからできること。これまでの人生を通して「太ってることは恥ずべきことだと思ってた」。
アキラがみんなと同じコスチュームを着れたことはない。美しい身体を披露する大胆な衣装、特にお腹を出すものは「一度も着れたことはないわね」。それでもダンスを続け、彼女が2008年に創設したプラスサイズの女性だけのダンスカンパニー「Pretty Big Movement(プリティ・ビッグ・ムーブメント)」も軌道にのりはじめたいま、最も勢いのあるダンサーの一人になった。
HEAPS(以下、H):ビヨンセのミュージックビデオ(『Get me Bodied』『Greenlight』)にも二度、出演を果たしてデビュー。
Akira(以下、A):そう。選ばれたときは嬉しかった。ビヨンセと、それからハイレベルの人たちと同じ空間でダンスをしているというだけで、何ともいえない充実感と喜びがあった。
H:でも、そのあと仕事を取れなかった。
A:そう。私が太ってるから、ダンスができると思ってもらえなかったのね。学校では常にトップだったし、ビヨンセのミュージックビデオでさらに自信を持っていたから、ショックだった。オーディションに行ってもすべて「NO」と言われる。
H:でも、ビヨンセのミュージックビデオには抜擢されてる。実力はあると保証されているのだから、オーディションによっては選ばれることもある、ということではない?
A:ビヨンセのミュージックビデオに出たのも、もともとは友だちが「きっと、ユニークな存在を探しているはずだから、あなた受けてみなさい」とすすめてくれたのね。結果受かった。私みたいなボディとヘアとメイクは私だけだった。でもこれって、“イレギュラー”。
H:イレギュラー以外では仕事を取るのが難しい、と。それはやっぱり太っているから、なの?
A:実際は、ダンスを見せるチャンスすらもらえない。この身体を見て門前払い、お呼びでないって。悔しかった。
H:やめようと思ったことはない?
A:うーん。みんなと同じ衣装は一度も着れないし、私だけお腹を出すのはダメだし、両親にからかわれた時期もあったし。辛いことはあった。でも、やめたくはなかった。だって、ダンスにはやっぱり自信があったから。
H:じゃあ、仕事を取るために痩せようと思ったことは?
A:あるわよ!実際に痩せたし。「痩せたら仕事をあげる」って人もいたから。
H:でも…?
A:(笑)。痩せた身体って、わたしには合わなかったの。だから「仕事もらって痩せて、終わったらまた太ってやるわ!」って意気込みでいたかな。
H:合わなかった、って、しっくりこないってこと?
A:そう。痩せれば自信がつくと思ってたけど、そうじゃなかった。わたしがはじめて受けたダンスのクラスは、アフリカンダンスだった。大きなお尻や身体を使ってダイナミックにダンスするんだけど、もうパッションの表現で。あの震えるような迫力に魅了されたのね。
H:見た目なんてまったく気にせず、自分の身体を使って心からダンスを楽しんでいる、没頭している感じですよね。
A:そうなの!はじめてのクラスからずっと大好きで。それで気づいたの、痩せた身体って自分自身が求めてたものじゃなくて「他人がわたしに求めてるもの」だった、って。
H:自分がなりたかった姿とは違ったんですね。
A:そう。社会が求める美しさになっても、自分が心から自分を好きで楽しんでいないとダメだから。
H:社会が求める「美しさ」に沿っていれば物事がスムーズだったり、やっぱり安心があるのかも。
A:社会に“受け入れられてる”という安心ね。でも、逆にそう感じられないと、いまっていろんなことが楽しめなくなるじゃない? たとえば「理想の身長体重比じゃないとおしゃれも楽しめない!」とか。
H:あと、男の子とつき合ってても「もっと可愛い子がいいんじゃないの?」とかね。
A:そうそう(笑)!
H:アキラはそういう時どうしてるの? やっぱり気になったりしない?
A:昔はあった。それこそわたし自身が自分の身体を「恥ずかしいもの」って思ってたから。でも、自分が自分のことを好きにならない限り、いい関係なんて築けないよね。
H:自分に自信を持つためにみんなダイエットとか、メイクとか頑張るんだと思うんですよね、でもやっぱり、“いわゆる理想”に近づこうとする人が多いのかも。たとえば目をできる限り大きく見せたり、とか。
A:そこがたまにもったいないよね。わたしは「自分自身を認めて、自分を受け入れる」ところからはじめた。そうすると、恋人との関係においても自然と「わかってる、わたしは太ってる。でもあなたはそのわたしとつき合ってるんだからね」って自信が出てくる。そうなると何かあっても喧嘩ではなく、ディスカッションができるようになった。
H:自分を認めるためにはどんなことをしたの? 世の悩める女子にアドバイスを。
A:毎日鏡の前に立って「あなたって可愛い、最高!」と口に出していうこと。内心じゃダメ、ちゃんと口に出して言うの。
H:毎日? アキラもやったんですか?
A:やったわよ!よく言うアレなんだけどさ、口に出して言うとそう思えてくるんだから不思議。やっぱり自信を持つことは大切。でも、自信を持つために自分が目指す姿が「自分のなりたい姿なのか?」ってことを考えることがまず、大切。偽ってる感があったら、やっぱり違うのかなって。
H:見た目ふくめて、自信を持っていることって大事ですよね、何をするにおいても。
A:わたしもダンスの実力にはずっと自信があったけど、体型のせいで自分に自信が持てなかった。体型からの羞恥心って、すべてを台無しにする可能性もある。
いまはすごく自信がついたから、昔は絶対に着なかったユニタード(レオタードとスパッツを一体化させたスポーツウェア)だって着ちゃう。体型は昔と一緒、でも自分の心が変わったから。
H:やっぱりダンスを続けて、さらにダンスカンパニー「Pretty Big Movement(プリティ・ビッグ・ムーブメント)」をはじめたというのもありますよね? 自信がついたのは。
A:太ってるダンサーには、活躍できるどころか、能力を見せる土壌すらなかったから、「太めだけど踊れる女ダンサーってわたし以外にも絶対にいる、作ろう」ってはじめて。自分らしいままでダンスを続けてること、それが自信になっている、間違いなくそうね。
それから、わたしが自信を持てたのは、ダンサーとして、でもその前に女性として、なの。いま、自分のことを心からいいって思うわ。
Images captured from “Pretty Big Movement” is Destroying Dancer Stereotypes | The Scene
長年の苦い想いと経験を噛みしめながら。「わたしの姿を見て、自分でもできるって、わたしみたいなダンサー、それからダンサーになりたい女の子たちに思って欲しい」という。
目的を果たすために、肉を切らせて骨を断つ、それでいけば、自分のダンスを打ち出すために痩せることをしただろうが、アキラ・アームストロングは肉を切らせず。
ありのままの自分を変えずに「太っている=踊れない」という壁にダイナミックに体当たりしてみせる姿は、世の女子をまたちがう方向に高めてくれるはず。
“Pretty Big Movement” is Destroying Dancer Stereotypes | The Scene
Text by Tetora Poe