イラストレーター・漫画家としては圧倒的なインスタグラムのフォロワー数を誇るホアン・コルネラ(Joan Cornellá)。その数150万人、ひと投稿には6万のいいねがつく。さて、どんなイラストを描くのか? 彼のテーマは一貫してエロ・グロ・不条理、そのエッセンスをもって社会を風刺する。人種問題、宗教問題、レイプ、ネグレクト、ドラッグ…などなど。
飢餓に苦しむ人とセルフィーし、焼けている家の横でまたセルフィー。老人子どももバンバン撃ち殺し、おばあさんはコカインで鼻血ブーし、三つ編みそばかすの幼子にも笑顔でヘロインを打つ。真っ黒すぎるブラック・ユーモアにみんなおんなじ顔、サザエさんっぽいキャラクターがシュールさを足す。
最近の投稿より。フリー・ハグ。Image courtesy of @sirjoancornlla
一枚絵のイラストや6コマ漫画、さらにショートアニメーションで展開。「本来なら気持ち悪くなって怒りたぎることもあるテーマだけど、I LOVE IT(大好き!)って言われるんだよね」。ニューヨークで個展中のホアンさん、お茶ならできるよと返事をもらえたので、昼下がりに「なんでみんな、ホアンのエログロ不条理にいいねするんだろうね?」をテーマにお茶をしばいてきた。
Joan Cornellá(ホアン・コルネラ)
Photo by Hayato Takahashi
ホアン・コルネラ「ぼくのインタビューは、だいたい嘘」
HEAPS(以下、H):今日はありがとうございます。
Joan:今日はまた個展に戻るから、30分間話そうね。
H:では、さっそく。ホアンさんの絵に関わる人生ですが、はじまりは幼少期にご自身の祖父に絵を教えてもらったことから、とか。
違うよ?
H:え?
違うよ。おじいちゃんに教わってない。
H:でも、他誌のインタビューにそう書いてあったんですけど…
嘘に決まってるじゃないか。ぼくのインタビューは、だいたい嘘。
H:では、6歳の頃に祖母にいたずらをされたことがきっかけでうんぬんカンヌンというエピソードも…
明らかに…
H:嘘!
事実だよ、もうトラウマなんだ、持ち出さないでくれよ(ニヤニヤ)。
H:嘘ですね。今日は嘘つかないでくださいね。
どうかな…(ニヤァ)。
H:笑顔こわい。じゃあ絵はどうやって?
子どもの頃から描いていたというのは本当。アートスクールにも行った。
H:子どもの頃はどんな絵を描いていたんでしょう?
普通だよ。他の子どもたちと変わらないよ。あ、でも母親から聞いた話だけど、ちょっとバイオレンスなものがあったって言ってたな。子どもの頃からダーク・ユーモアを持ち合わせていたのかもしれない。
Photo by Hayato Takahashi
H:へえ…。ホアンさんってご自分のことどんな人間だと思いますか?
Fucking Awesome(最&高!)!!このまま書いていいからね、ファッキン・オーサムって。ファッキン抜かないでね。
H:わかりました。話を絵に戻して。ダーク・ユーモアのスタイルはアートスクール時代から?
いや、ここ5年だね、確立したのは。少し前まではぜんぜん違うものを描いていた。白黒で、文字もいっぱいの。
H:ホアンさんが作品を載せるのにフェイスブックを使いはじめたのもその頃ですよね?
そうそう。いまのスタイルになってからフェイスブックと相性がいいと思って。
H:というと?
ワールドワイドで理解しやすい、つまり誰もが手軽に消費しやすい。あと、カラフルだから普通のグロいものより明るい気持ちで見られるでしょ。
H:確かに。言葉がないのでどの国の人でも見られますし、理解できます。カラフルなのも大事ですよね、特にインスタグラムなんかで連続して延々と眺めるとなると、暗いと辛くなってくる。
そう、これってぼくの「パッケージスタイル」なんだ。
H:パッケージスタイル、とは?
「わかりやすい、明るい(カラフル)、笑顔」のパッケージスタイル。普通だとタブーとされるテーマを「笑える」パッケージ。
H:なるほど、だから作品中のキャラクターは何があっても最後は笑っているんですね。
不幸なことがあってキャラクターが不幸な顔をしていると、見ている方の気持ちも暗くなるでしょ。
H:「なんでそんなこと起きてその笑顔?」という、なんだか滑稽さを笑う気持ちにもなります、ばかばかしいっていうか。
その「フッ」って“笑える”というのが大事。だから、ぼくのイラストならどんなにひどいエログロ不条理でもみんな見られる。そしていいねできる。
H:見られるうえ、さらにいいねをするんですよね。そこが大きいと思います。エログロ不条理って、嫌いでもこわいもの見たさで見ちゃう。人間のサガなんですかね、ついついクリックしちゃう。でも、普段なら決してそこにいいね、はしない。モラルや人間性を疑われる気がするから。
まさにそこも大事で、これは完全にフィクションだからいいんだ。イラストの利点はそれだね、完全なフィクションとして世に打ちだせる。
Photos by Hayato Takahashi
H:これが事実をそのまま映し出した写真ならこうはいきません。
そう、イラストというフィクションだから、みんな笑える。そもそもフェイスブックが載せさせてくれないよね。それから、笑えるということは人と共有でき、会話できるということ。ぼくはそこも大事だと思っている。
H:タブーとされるものを他人と会話できる、ということですか?
そう。これってぼくだけかもしれないけど、こういったテーマを笑いをもって会話できることは一種の吐き出し的なヒーリングだと思っている。ぼくの絵をネタに、普段は話せない・話さないことを話す機会ができていたら、うれしいね。
さっきも会話に出たけど、どんなことが起こっていても笑っているキャラクター見ると、ばかばかしくなるでしょ。そういう一種のカラッとした笑いは物事をよくする方向にあるとも思っている。悩んでいる人には、橋を飛び降りる前にぼくの絵を見て、ばかな笑顔をみてばかばかしいとカラッとして欲しい。
もっと見たい人は@sirjoancornllaへ。
H:てっきり、ホアンさんは人間嫌いか人間に失望していると思っていました。性善説と性悪説、どっち派ですか?
うーん、どうだろ、どっちかというと性善説かなあ…。ぼくが描くテーマの中にはもちろん全然解決の糸口すら見つからなさそうなテーマもあるよ。人種とか宗教。でもそういったテーマに対して、「まず・とりあえず笑う」というアクションは、一つの大きな反応だと思うよ。
H:それも、イラストというフィクションだからできることですね。イラストとはいえ、ちょっと悪いことしている気持ちにはなるんですけどね。
でも、そういうダークなものに対して笑うという反応ができるって、いいことだと思うよ。たまにさ、フィクションという線引きを理解してくれない人もいて、「このキャラクターは〇〇の国の大統領なんだろ!?」なんてコメントを寄越してくる人もいるよ。そんでぼく、誰よ、って感じ。
H:作品のネタはどこから取ってくるんですか?
日常のすべて。テレビ、ニュース、SNS、道路。なんでもだよ。
H:セクシャルなテーマのイラストや6コマ漫画も多くありますよね。こういったものって、ホアンさんの日常との結びつきはあるんですか?
ぼくが日常的に変なことをしているかって聞きたいの?
H:まあ、そうですね。
してないよ。あ、でも日本って、不思議なセックス関連のものが多いんでしょ? おもちゃとか。
H:多いですね。
自分の生活とアートが密接に関わっているアーティストももちろんいるけれども、ぼくはそうじゃないんだ。日常ではまったく変なことをしない。無口で、つまらないやつさ。
H:さっきファッキンオーサムって…
あはは。
世の中を客観的に捉えたものを絵に落とし込んでいるんだ。絵のテーマとぼく自身の生き方はほとんど関連していないね、少なくともぼく自身が意識しているところでは。でも、みんなぼくの作品から、ホアン・コルネラは一体どんなやばいやつなんだって思うみたい。
H:アーティストでなかったら、何になっていたと思いますか?
ホームレスか…学校の先生!
H:振れ幅すごいですね。
そう? ちょっと似てると思うんだけどなあ。
H:今年の11月には日本に行かれるそうで。
10年ぶり。人生二度目の日本だよ。日本では初めての個展だから、楽しみだよ。
H:日本を風刺するとしたら、何を描きます?
それね、いま考えているところ。日本のことあんまり知らないからなあ…どうなるかわからないけど、とりあえずトライしてみるよ。
H:楽しみにしています。
Interview with Joan Cornellá
つげ義春の漫画をあげたら、喜んでいたホアンさん。
Photo by Sako Hirano
Text by Sako Hirano
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine