VOD黄金期、マンハッタン一等地に長らえる老舗ビデオレンタル屋の戦略。鍵は「ご近所のおばさまたち」
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わざわざ映画を借りにビデオ屋に出向くことはめっきりなくなり、最近はもっぱら動画配信サービスの世話になりっぱなしだ。あのボックスの裏の説明文を読むワクワク感も、貸出中の空のパッケージを眺める虚しさ、あるいはやっとこさ人気作品の在庫がアリになり「遂にー!」なんて感動も、なんだか遠い昔のように感じる。地元のビデオ屋が次々と姿を消すなか、しかし、堂々と生き残っているビデオ屋もある。しかもニューヨークはマンハッタンの一等地に、だ。

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コスパもよくないし店頭の品揃えもよくない。が、長続きするビデオ屋

 ネットフリックス、アマゾンプライム・ビデオにフールー。近年、動画配信サービスの快進撃が止まらない。良心的なコスパに豊富な品揃え、Wi-Fiがあればいつでもどこでも見放題と、ユーザー側にとってのメリットはもちろんモノ自体が存在しないから在庫の置き場所も必要ない。さらに人気最新作だっていくらでも配信可能。この脅威の黒船来航により、いわずもがな被害を真っ向から喰らったレンタルビデオ店。「需要は明らかにデジタル配信へと移行している」と、米国チェーン大手のブロックバスターは経営破綻を発表したのは4年前だ。わずか9年前までは全米に9000店舗を展開し市場を独占していたにもかかわらず、国内店舗はほぼ消滅した。

 デジタル時代の21世紀、アメリカでも日本でもわざわざビデオを借りに行く人口は右肩下がり。悲しいかな、いまや「将来消える仕事」ランキングのトップ常連だ。「ビデオ屋、オワコンだし」なんて聞こえてきそうだが、「ちょっと待った」!なぜならニューヨークには市内最大最古の、とあるレンタルビデオ店がまだ堂々と生き残っているのだから。

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ハイテク苦手なおばさまたち(50代)のためのビデオレンタル

 そのビデオ屋とは、高級住宅エリアとして名高いアッパーイーストサイドにある「ビデオルーム(Video Room)」。1978年にオーディオ専門店として開業、2年後にビデオレンタルを開始。以来37年続く老舗だ。が、実際に足を運んでみると、市内最大と聞いていたものの一歩入れば全体を見渡せるほどの狭い店内。「8年前、不景気を機に数ブロック先から移転したんだ。だから正確には“元”最大だね」。カウンター越しに顔をのぞかせた店主のハワード・サーレン。デジタル配信業界の脅威は避けきれなかったとこぼす。

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店主のハワード・サーレン。笑顔がイイ。

 棚に並ぶは2万5000種類のDVDとブルーレイ。だが、実際にはこの25倍の在庫を抱えているが、店舗とその倉庫をわけることによって家賃をセーブ。また、後から詳しく述べるが、店頭に置くビデオもがっつり絞る。ということで「今日は何見よっかな」という一見さんにははっきり言って向いていない。
「店の常連顧客は50代(か、それ以上)のおばさまたち」。ストリーミング不可能なクラシック映画や外国映画、英国のテレビドラマが人気だという。レンタル代は1本約540円と安くはないが、ここは高級エリア。「彼女たちが540円で動じると思うかい?」。値段設定も周辺エリアの生活の相場に合っていれば大丈夫、と思いきって値上げした。

 店内にいた常連らしき年輩女性は、一通り物色したのちお目当ての作品を手にカウンターへ。しばらく世間話を楽しんだところで「ここに来れば見たい作品が見つかるし、彼(店主)が勧めてくれるし」と、したり顔で店を出た。彼女たちにとっては、レンタル代よりも、使いこなせない動画配信サービスの方が厄介なのだ。時間帯が変われば客足も増え、フィルムを専攻する学生や、遠方から訪れる映画ラバーなど、客層は十人十色に。だが「リッチで、ハイテクを使いこなせないおばさまたち」という特定のターゲットを持つことが長生きの鍵だという。

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昔はビデオ屋にいって、10円ガム買ってもらったりしてたなあ。それも楽しかったんだよな…。

返し終わるまでがレンタルビデオ体験

 店にとって作品の回転率は重要だ。マニアックな映画よりも、ヒット作や何度も見返したくなる往年の名作を置いた方が収益に繫がる(当たり前だけど)。ところが、ハワードの作品選び、ひと味違う。「これまでの経験から、顧客が好きなそうなモノは95パーセントわかる。常連である彼女たちが好むであろう作品を週に一度、独断(たまにネットのレビュー参照)で厳選する」。つまり新しいカスタマー獲得は置いといて、常連の好みで作品揃えを決める。常連の好みに絞り、彼女らが借りていくだろうものをカウンター奥に在庫を用意しておく。これにより常々必要以上の在庫を置くことも、そのために発生する土地代も払う必要がない。店舗をダウンサイズしたのもここに起因する。そもそも、「すべてのビデオ屋が閉店したほとんどの理由は、家賃を払えないから。であれば、閉めたくないなら店を小さくする。そして、小さくするならそのうえで店のあり方を考える」。常連で生き残るビデオ屋にはそのための戦略を取るべき、と。

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パッケージ眺めるのも楽しい…。

 また、ハワード含め顧客たちは、アルゴリズムから推測される“これを買った人は、他にこんな商品も買っています”の関連機能を好まない。「ま、昔ながらの人だからっているのもあるけど。カウンターの向こう側にいる、知識豊富な店員に直接オススメされた作品の方が、見てみたいって思わないかい?」。近所付き合いや人との繋がりを大事にする。突飛さはないし至ってシンプルなことなのだが、VODにできない大事なサービスだ。確かに、ネットフリックスでオススメされるよりも「映画好きが勧める映画」の方が断然見たい。もちろんだが、常連たちは勧められたビデオを見て、返しにきてビデオについてあーだこーだ言うのもまるっと含めて、レンタルビデオ屋を楽しんでいる。もちろん「VODはよくわからないからこれまでのビデオレンタルがいいけど、借りにいって返すのが大変だわ」なんて人も少なくないので、デリバリー・ピックアップサービスも充実させた。考えればハイテクに強くないおばさまらはニューヨーク中にいるがビデオレンタル屋は非常に少ないので、ご近所さんだけでなくこの層がこの店に集中するというわけ。「女性はネットワークが強いし、いい噂の伝達も早いからね」。

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「閉店を考えたことは、一度もないさ」

 ビデオ黄金期だった頃の週末、特に天気の悪い日は「1日1000本以上のビデオがレンタルされていたよ」。いま、配達サービスを含め週のレンタル数は700本。レンタル業務からの収入は全体の半分にも満たず、収入を支えているのは家庭で撮ったビデオやオーディオカセットのDVD・ブルーレイへの変換サービスだ。「昔のホームビデオを『きみらの両親はこんなだったんだよ』と孫に見せたくて」、と頼んでくる人が増えこのサービスは右肩上がり。「これも生き残りの術だね」。とはいいつつ、ビデオ業界の先行きは不透明で、このままだと将来的には消えるだろう、と断言する。
 それでも「閉店を考えたことは一度もない」。そりゃあレンタル一本で食べていけたらいい。が、後ろ髪を引かれるのではなく、世の常だと割り切る。デジタル化に翻弄されず、恵まれた環境と顧客に感謝し、いま求められるものを提供する。コミュニティに深く根を下ろす、町の小さなビデオ屋ビデオルーム。おばさまたちに愛され続ける限り、まだまだ姿を消すことはない。

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Photos by Sako Hirano, Kohei Kawashima
Text by Yu Takamichi
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine

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