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  • Jul 27, 2017
本棚にのぞく。世界の創作を触発する“日本由来の数ページ”「横尾忠則 × ミルコ・イリック」
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「本棚を見ればその人がわかる」とは言ったもので、たとえばその棚に一冊同じ本を見つければ「仲良くなれる」と勝手に確信するなど、一晩の席よりも共通の一冊は時に饒舌だ。
本棚を飾るということは、自身の知識体系の源をあけすけに披露し、非常に個人的な趣味嗜好(時に下衆な)まで無防備に晒すことである。なので、意中の人を家に呼ぶのであれば念入りにしておくといいのは本棚(見えるところの)と個人的に思う。

さて、本人よりも多くを語る本棚、今回は世界各国よりニューヨークに居を構えるクリエイターらの本棚を拝見、アイデアの材料としてページの端をドッグイヤーあるいは付箋し、手垢がつくほどめくった数ページから、世界の創作を刺激する日本由来の創作意欲、また創意工夫をあらためて探そう、という企画。ということで、大御所も若手も関係なしに「どうしようもなく好きな日本の制作人・あるいは制作物」を本棚より抜き出し、さらに多くを思うまま饒舌に語ってもらうシリーズはじめます(見つけるの大変なので不定期)。

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1段目「いつも好きになるデザインが全部“タダノリ”のだとわかったんだ」

記念すべき第一回は、ニューヨークタイムズやTIME(タイム誌)のデザインも手がけるグラフィックデザイナー/イラストレーターのミルコ・イリック(Mirko Ilic、ちなみに『I ♥ NY』の生みの親と昔から一緒に仕事をしている仲だ)。そのミルコが本棚に幾冊も並べ制作のインスピレーションとして語るのは、20年来の友人でもある横尾忠則デビッド・ボウイもミック・ジャガーも愛した世界的な日本の奇才、美術家/グラフィックデザイナーだ。本棚からごっそり横尾を抜き出して、友人としてのエピソードから「これ、横尾氏ですね」なまんまのデザインも披露しつつ、終始得意のエスプリを効かせたトークで展開してくれた。

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ミルコ・イリック(Mirko Ilic)

Mirko(以下、M):よく来たね。ちょっと待ってて、見せたいものがある(と、横尾氏のポスターデザイン*が描かれた“うちわ”を持ってきた)。これ知っているか? この首吊っているイラストの男はタダノリ自身だよ。

*1965年、東京の銀座松屋で開催された「ペルソナ展」のポスターデザイン「TADANORI YOKOO」。首を吊る横尾氏自身のイラストが描かれている。

H:あ、これがあの白眉の作ですね…。ミルコの本棚、横尾忠則ブックがたくさん。数十年にわたって、お互いに作品集を贈りあったりと横尾氏と親交もあるそうですが、彼の作品をはじめて知ったのは?

M:まだボスニアにいた頃だから、70年代か。タダノリが手がけたレコードジャケットでね。何枚かデザインしたレコジャケの中でもすごく手のこんでいて複雑なのがあって…。サンタナ(ウッドストックにも出演したギタリスト)のレコードだ。22面体ジャケットのやつ。

ぼくは17歳からグラフィックデザイナーだったんだけど、タダノリのポスターは東欧でも知られていた。77年にアメリカで出版された本も輸入されていたしね。でも、作品には彼の名前が書いていなかったから、当初は彼による作品だとは知らなくて。ある日、いつも好きになるデザインが全部タダノリによるものだとわかったんだ

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H:それで86年にニューヨークに来て…。

M:うん、タダノリはアメリカではもっと有名だった。展覧会に行ったり、本やポスターを見る機会もごろごろあって。98年にある芸術審査員会の審査員としてアメリカに招聘したのがきっかけで個人的にも繋がったんだ。そこから親しくなって。

H:横尾氏、どんな人でしたか?

M:彼はね、とてもいい人で優しい人だ。作品集が出る度に直筆サインをして贈ってくれたり。アメリカに来たときには彼の奥さんも一緒に食事して。そうだ、彼が出版した本にね…(と、本棚から一冊取り出し、ページをめくる)。

H:あ、このご飯食べているの、ミルコですね。ミルトンもいる。

M:へへ。ぼくたちとニューヨークで会ったことを写真とともに載せてくれたんだよね。(横尾氏が綴った日本語のメッセージを指差して)ここなんて言っているかわかんないけど、「このバカな白人男(自分のこと)はなんて書いてあるか読めないだろう。おめでとう」かな、ははは。

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H:なぜ横尾氏の作品に惹かれたのでしょう? 彼の初期のデザインは、死やオカルト、インド哲学などのテーマが刷りこまれていて、本の紙面からもそのダークユーモアが滲みでていますが。

M:それは彼の作品は、ワイルドでクレイジーだから。もちろん、いい意味でね。それに、日本文化と西洋のポップカルチャーの“perfect marriage(絶妙な組み合わせ*)”だよね。

あとから、彼と三島由紀夫の友情についてや、彼自身がスピリチュアルな人だと知った。だけど、テーマ云々より前に、なんてグレイトなアートなんだろうと思った。芸術を前にして重要になることは、その作品が一般大衆の心を動かせるか、だからね。

*横尾氏が手がけたアングラ演劇のポスターアートや展示会ポスターでは、戦後の日本のデザインスタイルや日章旗、富士山など日本らしいモチーフ、日本独特の価値観や世界観と、サイケデリックな西洋のデザインが融合されている。

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H:ええ、その通りだと思います。これは個人的な意見ですが、ミルコと横尾氏の作品に共通するのは、大胆で刺激的、挑発的であること、だと思います。

M:うんうん。

H:横尾氏の作品には、女性のエロスや性的で官能的な描写だったりがありますが…。

M:ぼくの作品には決してエロスは登場しないよ…、というのは冗談。彼の作品に感化されて、こんなのも前にデザインしたし(と、自分の本を開いて横尾氏のピンクのおっぱいの木にそっくりな、おっぱいのデザインを見せる)。

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H:他にも作品のスタイルやモチーフなど、お互いの作品になにか共通点はありますか?

M:ぼくと彼の作品はかなり違うと思う。たとえば「色使い」。彼は作品一つに、ぼくが一年でやっと使いきる色、すべてが入っているんだ! まるでさ、キモノ(十二単)みたい。着物の柄、一枚一枚バラバラなのに、全体的にはうまく調和するような。自分では真似できないな。ぼくの作品、ほとんど黒、白、赤しか使っていないしね。

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©Mirko Ilic
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©Mirko Ilic
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©Mirko Ilic

H:なぜ黒・白・赤の三色にこだわりを?

M:ロシア構成主義(ソ連時代に生まれたアートスタイル)の名残もあるし、生まれ育ったのはボスニアという貧しい国で、カラーでプリントするお金がなかったというのもある黒と白のコントラストに赤を。それにさ、なんで人は「赤」を使うか知ってる? 赤は支配的な色で血の色でもあるから、赤には無意識に人の注意を引く効果がある。だから、キケンやストップなどの標識には赤が使われるだろ?だから女性は赤い口紅をするわけだよ。って、黒の上下に赤い口紅してる君がよく言うよ!(笑)

H:(笑)。話を横尾氏に戻して。他には彼からどのような影響を?

M:彼は日本の木版画技術を用いて、コミックのようなアウトラインやフラットなカラーを作りだしたんだ。ポルノ映画からイメージを持ちこんだりしてね。一時期、彼のようなコミックアート的なスタイルを模倣したことはある。この本にあるような。

でもぼくの場合、他のアーティストのスタイルをそのまま取りいれることはしない。それよか、タダノリの考え方や視点に影響を受けたんだ。芸術家として「自由」を目一杯楽しむこととか。

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H:彼の芸術家としての哲学を、ということですね。

M:そう。スタイルよりフィロソフィーの方が重要だね。たとえば、タダノリのすごいところは、創作する作品数が多いということ。スタジオの本棚だけでもさ、彼の本は優に8冊を超える。彼の創作スピードの速さと創作エネルギーは、想像もできないよ。

H:そんな自由で枠に収まらないTADANORI YOKOOを一言で表すと?

M:“play(遊び)”。彼は一瞬一瞬を“遊び”で楽しんでいるんだと思う。だって見てごらん、こんなポスターのコラージュをしようなんて、遊びを楽しめない人が思いつくと思う? 思うにきっと彼は、音楽なんかを聴きながらハサミ片手に、自然の成り行きに任せて作品づくりをしているんだよね。みんな子どもの頃は遊びを楽しんでいたけど、大人になるにつれてその楽しさは忘れるでもタダノリはおかまいなしに遊びつづける目的がない遊び。それが彼のアメージングなところだ。

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H:ミルコは“遊び”を?

M:彼ほどは遊ばないけどね。でも芸術において遊びは非常に重要だと思う。だって、遊びは実験(エクスペリメント)の一種だから。遊びによっていい結果も悪い結果も生まれるけど、遊ぶことで失敗し、失敗することで新しい視点を発見できる。でも、たとえば手術医が7つも失敗はできない、患者の命を奪うことになるからさ。でもアートではOKなんだ。

H:じゃあ、ミルコも“失敗が許される”からこの道を選んだとか? 

M:そう、ぼくは失敗だらけだから。はははははは。

H:すみません、冗談です。ちなみに横尾氏の作品からは、あなたの先輩ミルトンもメンバーだった、50年代NYグラフィックデザイン集団の「プッシュ・ピン・スタジオ*」の影響も垣間見れます。ニューヨークのアートに影響を受けた横尾氏、横尾氏のアートに影響を受けたニューヨーク(ミルコ)と、日米で影響しあっていると思うので…。

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M:(話を遮って)ねえこれ見て、これこれ。タダノリの本ね。序文を書いたのは、ミルトンだ。実はプッシュ・ピンは日本の木版画に影響を受けていたんだよ。だから、日米でスタイルが行ったり来たりしてお互いに感化されていた。自国の文化も守りつつ、他国の文化も吸収しようとする。いいことだと思うよ。

*1954年にシーモア・クワスト、ミルトン・グレーザー、レーノルド・ラフィンズ、エドワード・ソレルがニューヨークで結成したグラフィック・デザイン集団。ルネサンス絵画やビクトリア朝の文字デザイン,モダンアート,コミックスなどを積極的に引用し,厳格なインターナショナル・スタイルのタイポグラフィーとは対象的なデザインを提示。

H:ところで、ミルコのインスピレーションはどこからくるの?

M:お金…。ははははは。まあそれは置いといて。これね、ぼくのアイデア帳。右側にはやることリストね。終わったら、線を引く。左には、仕事関連のアイデアやスケッチを描きとめておく。いいアイデアはこのノートからたいてい生まれるんだ。

これは、地下鉄に乗っているときに思いついたユダヤ教のゲイセンターのロゴ。デザインし終わったら、ノートは捨てる。え、これなんだっけ(ノートのスケッチを指差す)。もう忘れちまったよ。これは地下鉄で音楽聴いていた男のスケッチ。なんで描いたのかわからないけど。ぼくのアイデアとかインスピレーションってこんな感じよ。

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H:横尾氏はあなたの作品についてどう評価していますか?

M:気に入ってくれている。新しい作品集が出版されるたびに贈るんだけど、いつも好きだと言ってくれるね。

H:相思相愛だ。では、最後に、長年の友でもあり、グラフィックデザイナーとしての師でもある横尾氏に一言。

M:アイ…アイ・ラブ・ユー

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Interview with Mirko Ilic

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Photos by Sako Hirano
Interview : Risa Akita
Content Direction & Edit : HEAPS Magazine

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